本レポートの概要|中間選挙とS&P季節性
この回のレポートは全4本に分割しています。本ファイルはその3本目、テーマは「中間選挙とS&P季節性」です。
会員からの「中間選挙に向けた株価の見方を教えてほしい」というリクエストに応え、S&P 500の長期データ(1928年以降)から2月・5月・9月がリターンの沈みやすい月であることを示す。9月がとりわけ低調になりやすい構造的な理由も、決算期や機関投資家の動き、VIXの上昇など複数の角度から丁寧に説明される。
後半の核心は、通説に反してねじれ議会の方が市場は歓迎するという反直感的な結論だ。パストール=ヴェロネジの政治的不確実性モデルを根拠に、政策の停止が市場の安心材料になるロジックと、政党別・議会構成別の長期リターン差を具体的な数字とともに扱う。トランプ大統領の行政命令という前提を崩しうる変数への言及も収録する。
「民主党なら再エネ、共和党なら防衛」というセクター通説の検証も収録している。バイデン政権下で防衛スタートアップが激増した実例を挙げ、政権の色よりも市場動向と地政学リスクの方が支配的だと結論づける議論を扱う。政党で銘柄を選ぶ戦略と市場動向を見て運用する戦略とを、元本10万ドルで長期比較したシミュレーションの結果にも触れる。
2月・5月・9月 ― 過去100年でリターンが沈む3つの月
後半は、会員からの「中間選挙に向けた株価の見方を教えてほしい」というリクエストに応える形で始まった。マイキー氏はまずS&P 500の長期データ(1928年以降)を持ち出し、歴史的にリターンが低い月として2月・5月・9月を挙げ、それぞれに構造的な理由があると説明した。
| 月 | 低調になりやすい構造的理由(セッションでの説明) |
|---|---|
| 2月 | 通期決算(フィスカルイヤー)の集中期にあたり、決算を受けた調整が入りやすい時期。 |
| 5月 | 夏に向けて市場の流動性が低下する時期。"Sell in May and go away"(5月に売って立ち去れ)という米国の格言どおり、夏に備えたリスクオフが入りやすい。 |
| 9月 | ①夏季休暇明けの機関投資家が一斉に復帰し、第3四半期末に向けてポジション調整・税金対策を行う。②VIX(恐怖指数)が上がりやすく、オプション市場のヘッジコストが高騰。③中間選挙がある年は政治的不透明性が上乗せされ、資金が債券に向かう。④9月30日が連邦政府の会計年度末で、予算関連イベントと重なる。⑤夏場に積み上がったバリュエーションと8月に高くなりやすい金利。これらが一気に重なる。 |
裏取り済月別平均リターンの実データは、9月 −1.2%(全月で唯一かつ最大のマイナス、1928年以降)、2月 −0.1%、5月 +0.1%。1950年以降で見ても、平均がマイナスになるのは9月(−0.6〜−0.7%)と2月(−0.03%)の2か月のみで、その次に低いのが5月。「2月・5月・9月がワースト3」という発言は、データ上ほぼ正確である。9月が上昇した確率は1950年以降で44%と、全月中で最も低い。
裏取り済「5月から11月」より「11月から5月」のリターンが大きいという指摘も裏づけられる。CFRAの集計では1950年以降、11月〜4月が平均+7.1%、5月〜10月が平均+1.7%。1964年以降で見ても11月〜4月が+6.5%(勝率74%)、5月〜10月が+1.95%(勝率68%)。
補足の視点マイキー氏は11月〜5月が強い理由を「サンクスギビングからクリスマスまでの1か月が小売の勝負どころだから」と説明し、同時に「これは小売業に関するデータで、テック産業は話が変わる」と正しく留保している。実際、季節性の主因は小売需要だけでなく、①年末の機関投資家のウィンドウドレッシング、②1月効果、③税務上の損失確定売り(12月)の反動など複合的とされる。なお本人も認めるとおり2025年9月は例外的にこの傾向が効かなかった点は、アノマリーが再現性を保証しないことの実例として重要。
ねじれ議会の方が市場は歓迎する ― 政治的不確実性モデル
ここが本セッションで最も反直感的なパートである。通常、投資家は「大統領と議会を同じ政党が握れば政策が通りやすく、株価は上がる」と考える。トリプルブルー(民主党が大統領・上下院を独占)やトリプルレッド(共和党が独占)の方が有利だという発想だ。しかしマイキー氏は、パストール=ヴェロネジの政治的不確実性モデルと長期データを根拠に、ねじれ議会の方が市場は歓迎する傾向があると結論づけた。
ロジックはこうだ。ねじれが生じると、企業の利益を損なう過度な増税や、厳しい産業規制の法案が通りにくくなる。つまりそれまでの政策の方向性に一度ストップがかかる。その結果、市場は先行きの振れ幅が小さくなったと判断し、安心して株を買える、というものである。
さらに政権と議会の組み合わせ別に見ると差が出るという。民主党大統領はインフラ投資や財政出動によって民間消費と企業売上を下支えする傾向がある。そこで共和党が議会の過半を握ると、法人税引き上げ・労働環境規制の強化・特定産業の締め付けといった民主党側の政策を物理的に阻止する。結果として企業は売上機会は増えやすく、コスト基礎は増えないという最も都合の良い状態に置かれる――これが「民主党大統領×ねじれ議会」が最もリターンが高いとされる理由である。
裏取り済言及された理論は、シカゴ大学の Ľuboš Pástor と Pietro Veronesi による "Political Uncertainty and Risk Premia"。NBER Working Paper 17464(2011年)として発表され、Journal of Financial Economics, vol.110(3), pp.520-545(2013年) に掲載。政治的不確実性はリスクプレミアムを要求し、そのプレミアムは景気が弱いときほど大きい。政治的不確実性は政府が市場に提供する暗黙のプット・プロテクションの価値を下げ、株式のボラティリティと相関を高める、というのが骨子である。
発言と公開データの食い違い ①ねじれ議会の優位性はデータ上、必ずしも一義的ではない。1951〜2023年の集計では一党支配8.0%に対しねじれ9.9%とねじれ優位だが、1926〜2023年の集計では一党支配14.14%に対しねじれ10.18%と逆転する。152年の米国データを使った研究(Papamichalis et al.)でも、一党支配の方が超過リターン・経済成長ともに高いという結論が出ている。「ねじれの方が高い」は集計期間の取り方に強く依存する主張であり、普遍法則として扱うのは危険。
裏取り済一方、「民主党大統領×ねじれ議会」が突出して高いという点は裏づけられる。議会がねじれている場合、民主党大統領下では年平均16.63%、共和党大統領下では7.33%と、2倍以上の差がある。マイキー氏の「今回は共和党政権なので、バイデン政権期のねじれ後(2023年)ほどの期待は持ちにくい」という予測は、この数字と整合的である。
要確認セッション中のランキング説明(「次に高いのが共和党のトリプルブルー」等)は文字起こし上、政党名の組み合わせが混線している。トリプルブルー=民主党独占、トリプルレッド=共和党独占であり、「共和党のトリプルブルー」という組み合わせは定義上存在しない。順位の詳細は原典データで再確認が必要。
裏取り済本セッションで前提とされている2026年米中間選挙は2026年11月3日に実施予定。下院全435議席と上院35議席が改選対象で、第120議会の構成が決まる。現在の下院は共和党が多数派(過半数218議席)。2026年7月下旬時点の世論調査では、全国的な一般投票(ジェネリック・バロット)で民主党が一貫して小幅リードし、下院は民主党の議席増が見込まれる一方、上院の支配権は接戦との見方が多い。ジョージア州やテキサス州の予備選が混戦となっており、不確実性は高い。会計上の「ねじれ議会シナリオ」の現実味は、この時点では相応に高い。
裏取り済「中間選挙後の翌年のS&Pリターンは4年間で最も高い」という指摘も、大統領サイクル論として裏づけられる。1943〜2020年で、サイクル3年目のダウ・S&P 500は平均+15%(別集計では+17.6%)で、4年間のうち最良。ただし「1950年以降マイナスになったことがない」という強い形の主張は、今回の検索範囲では一次データで確認できなかったため 要確認。2008年の金融危機など、サイクルが崩れた年があることは複数のソースが明示している。
「民主党なら再エネ、共和党なら防衛」は、データ上ほぼ効いていない
セッション中、参加者から即座に出てきたのが「民主党が勝てば環境・再生エネルギー」「共和党なら防衛・エネルギー・金融」という通説だった。マイキー氏はこれを一般投資家の思い込みとして扱い、データ上は効いていないと断じる。
共和党勝利 → 防衛・化石燃料エネルギー・金融が上昇/ビジネス寄りで株高
防衛産業は、共和党政権下で一時的に上がりやすいのは事実だが、バイデン政権下でウクライナ・ロシア戦争を背景に防衛スタートアップが激増し、防衛株も上昇した。
つまり、政権の色は選挙直後の瞬間的な値動きとしては確かに強く効く。しかし数か月というスパンで見れば、市場はバイアスによる初動を調整し始め、最終的には市場動向と地政学的要因の方が優先される。マイキー氏の言葉では、株価は「結果として元の水準に戻る」。したがって「民主党が勝ったからテック株」「共和党が勝ったから防衛株」という一辺倒の判断はあまりにも幼稚であり、市場動向と地政学を見なければ分析にならない、という結論になる。
要確認文字起こし上、この検証の期間表記が「2013年から2016年」「13年間」と混線しており、対象期間が確定できない。数字を引用する際は原典(次回のYouTube回で言及予定)を確認したい。
裏取り済「政権よりセクター固有のドライバーが支配的」という主張は、実務的にも支持される。エネルギー株のリターンは原油価格との相関が圧倒的に高く、原油価格自体はOPEC+の減産判断、在庫統計、地政学イベントで動く。防衛株についても、バイデン政権期(2021〜2024年)はウクライナ侵攻(2022年2月)を契機に米欧の防衛予算が構造的に増額され、Anduril をはじめとする防衛テック・スタートアップへのVC投資が急増した。「民主党政権=防衛株に逆風」という通説は、この期間について明確に外れている。
補足の視点ただし「政権は関係ない」と言い切るのも行き過ぎで、パストール=ヴェロネジのモデルが示すのは「政策の方向性そのもの」より「政策の不確実性」が価格に効くということ。IRA(インフレ抑制法)による税額控除のように、特定セクターのキャッシュフローを直接動かす制度は現に存在する。正しい読み方は「政権はセクターのドライバーの一つに過ぎず、単独では支配的でない」だろう。