この回で扱われたこと
エンベッドネスIEが負けた理由として講師が挙げた概念
コストプラットフォームの定義そのものとして提示された
システム講師が「意味が分からなかった」と評した官庁のバズワード
エンベデッドネス理論の解説が抽象度の高いところまで進んだあと、この日の後半は一転して具体例の連鎖になった。きっかけは参加者の質問である。Appleは会社のストーリーを顧客にインストールすることで埋め込んでいるのではないか、B2Bで同じことをやっている会社はあるのか、という実務からの問いだった。
ここから講師が展開したのは、埋め込みを「作る側」の視点である。ナラティブで埋め込む対象は顧客だけではなく、ステークホルダーも開発関係者も社員も含まれる。だからパワーワードの設計は商品開発の段階から始まっている。そして製品がなければナラティブだけでは離脱される。埋め込みの本体はスイッチングコストであり、プラットフォームとは人が集まる場所のことではなく、スイッチングコストと移動コストをどう削減するかを考える仕組みのことだ、という定義が提示された。
この定義の説明に使われたのが、Internet Explorer がなぜ Chrome に取って代わられたのかという事例である。講師の説明では、IEはWindowsと構造的に一体化し、社内システムや行政サイトがIEでしか動かない状態を作ったことで、逆に古い資産を壊さないことを優先せざるを得なくなった。これがオーバーエンベッドネスであり、Chrome はオープンソースを軸に自由な入れ替えを許すことでスイッチングコストを下げた。埋め込みは強すぎても負ける、という理論編の結論が、ここで具体例として回収されている。
会の終盤、参加者からAnthropicの話が出た。OpenAIから分かれたときは正当性を掲げ、その後Amazon・Googleからの出資という合理性を取り、いまふたたび正当性を守るためにペンタゴンと衝突している──この往復が理論のとおりではないか、という問いである。講師の回答は、この対立は投資家からマイナスに見られておらず、むしろ資金調達の要因になっている、というものだった。ただし同時に、講師は「どこかで折れるのではないか」とも述べている。この二つの見立てが半年後どうなったかは、PART 5で答え合わせを行う。
囲い込みとは、相手を縛ることではなく、出ていくときの費用を高くしておくことである。そしてその費用は、製品の性能だけでは作れない。ここに居続ければいずれ得がある、という期待をストーリーとして持たせ、その期待を裏切らない製品を置いて初めて成立する。逆に、その費用を高くしすぎて自分自身が古い資産に縛られると、今度は自分が動けなくなる。囲い込みの設計とは、この二つの失敗のあいだで位置を取り続ける作業である。
この回の動画には「エンベデッドネス理論 アンソロピックとイラン戦争」というタイトルが付いているが、録画(0:00〜1:29:13)の全文を確認したところ、イランおよび中東情勢に関する発言は一度も出てこない。Anthropicについては1時間0分ごろから約3分間の質疑があるのみで、内容の大半はエンベデッドネス理論とプラットフォーム論である。タイトルの付け間違いか、別の回と混同された可能性がある。この回にイラン情勢の議論を期待して読む場合は注意されたい。
なお対イラン軍事行動は、この勉強会の2週間前にあたる2026年2月28日に米国とイスラエルによって開始されている。この論点は同年3月3日の回で講師が詳しく扱っており、本サイトでは別レポートに記録がある(『エイブラハム合意の未完成』)。参考までに9月時点の状況を記すと、4月7日の一時停戦、6月14日のパキスタン仲介による暫定合意を経て7月8日にその合意は崩れ、9月初旬時点では実効的な合意は存在せず交渉も行われていない、と報じられている。進行中の案件であり、評価は強く分かれる。
会の終わりに置かれた連絡事項
この日は理論解説が長引いたため、講師が予定していた別の話題は持ち越しになった。代わりに終盤で共有されたのが、進行中のプロジェクトと今後の予定である。
まず、書籍の買い回りに参加した参加者への労いがあった。地方では在庫がなく、書店に電話しても置いていないという報告に対して、小さな書店に行って予約をするという方法が案内されている。ある参加者は、書店で本のタイトルを伝えたところ「すごいタイトルだね」と苦笑された、二度目は行きづらい、と報告した。書店を探すために有志が作ったアプリが役立った、という謝辞も出ている。
予定については、翌週の土曜にサミット形式の会、日曜にプレゼンテーションを見る会を組んでいること、3月21日から2泊3日で韓国に行く可能性があるため直近の土日は空けられないこと、が共有された。また講師は、シリコンバレー側との打ち合わせを継続しており、2026年にIPOが見込まれる企業の名前が、まだニュースメディアに出ていない段階で挙がり始めていると述べている。公開できる範囲で後日この場で話す、という予告だった。要確認(企業名は語られておらず、外部から検証できない)
会の最後、講師は「エンベデッドネス理論でかなり長引いてしまった」と述べ、別の話題は次回に回すと明言している。冒頭で異議を出した長谷川氏が「解決できてよかった」と応じ、質問がなければ説明しないままだったので、ちょうどよかった、という言葉で会は終わった。
ナラティブで埋め込む対象は顧客だけではない
後半の起点になったのは、ベトナムから参加した参加者の質問だった。iOSのような機能面の埋め込みだけでなく、Appleは自社のストーリーを顧客にインストールすることで埋め込んでいるのではないか。彼らのカルチャーやあり方をうまい形で顧客に教え込み、それに乗った顧客が楽しいと感じる経済圏に埋め込まれている、という見方は成立するのか、という問いである。
講師の回答は即答だった。プレゼンテーターとしては絶対にやったほうがよく、むしろそれが強みになる。ナラティブでストーリーを展開して将来性を示せば、他へ移ってもまた戻ってくる。スイッチングコストが重くなればLTVは高くなる、という説明である。
そこに前田氏が補足を入れた。埋め込む相手は顧客だけではない。スタートアップがやっているのは、ステークホルダーも開発関係者も全部埋め込むことである。そのためにパワーワードをどう作るかというところから設計しており、それが商品開発の段階から、顧客をナラティブに巻き込むところまで一本で繋がっている、という指摘だった。顧客だけでなく自社の社員も埋め込めるシステムが作れる、というのが要点である。
この流れで、かつてAppleに在籍していたという参加者(長谷川氏)が具体例を出した。社員に対しては洗脳に近い埋め込みを行う、というのが証言の骨子である。入社後の最初の1か月はAppleのビデオを見せられ続け、かっこいい自分でなければならない、世界を変える会社である、ということを徹底的に刷り込まれる。現在も同じかは分からない、と本人は留保を付けている。そのうえで、顧客に対して「あなたなら理想的な形になれる」という状態を作り上げるのが天才的だった、と評価した。
質問はここからB2Bへ移った。B2Cはストーリーで埋め込むのがうまい会社が多いが、B2Bで顧客とその周辺のステークホルダーを埋め込むのがうまい例はあるか、という問いである。講師の答えは Microsoft と NVIDIA だった。ただし本質はエコシステムそのものではなく、スイッチングコストを上げることにある、という点を講師は繰り返している。どんなに大きなことを言っても製品が悪ければ顧客は離れる。ナラティブが効くのは、期待値を込めたうえで「ここにいればいずれ得がある」という状態を作れる場合だけである。
講師はもう一つ、中国発のAI関連ツールでオープンソースのものが使われ始めると抜けられなくなる例を挙げ、そこで効いているのはナラティブだけでなくシステムそのもの、つまりUIを含めた使い勝手だと述べた。iPhoneユーザーはiPhoneから離れられず、Androidユーザーは離れづらい。どちらも埋め込まれており、そこから抜けるには結局フィーチャーフォンに戻るくらいしかない、という半ば冗談めいた例で締められている。
IEはなぜ負けたのか──強すぎる埋め込みという敗因
前田氏がここで一つの事例を提示した。Internet Explorer がなぜ支配的な地位を失ったのかを見ると、埋め込み理論の使われ方が分かりやすいのではないか、というものである。参加者から「単に便利で速いから乗り換えたのではないのか」という当然の疑問が出たが、前田氏の答えは、その「便利で速い」をどこに向けて設計したかが問題なのだ、というものだった。どこをターゲットにすれば埋め込みが広がりやすいかまで含めて設計されている、という指摘である。
講師がこれを引き取って整理した。IEに起きたのはオーバーエンベッドネスだ、という説明である。IEはWindows OSと構造的に一体化していた。その結果、社内システムや行政サイトが「IEでしか動かない」状態になった。ここまでは埋め込みの成功である。ところがWebの規格が進化し、新しい標準が出てきたときに、IE側は古い社内システムを壊さないことを優先した。埋め込みが強すぎたために、自分自身が古い資産に縛られたわけである。
Internet Explorer 側の選択
OSと一体化し、既存の社内システム・行政サイトを壊さないことを優先。中身のほとんどを自社で作るクローズドなモデル。埋め込みは強いが、新しい規格への追随が遅れる。
Chrome 側の選択
新しい規格が出ても対応でき、自由に入れ替えられる構造。オープンソースにして誰でも作れるようにし、そこに埋め込む。ユーザーから見れば「こちらのほうが軽い」という入り口になった。
講師の要約は明快である。Chrome は新しいものを入れられるようにすることでスイッチングコストを下げ、結果としてユーザーが移っていった。ただしそれを実感できたのは開発者や技術水準の高い層であって、一般ユーザーの入り口は「こちらのほうが軽い」という単純な体感だった、という但し書きも付けられている。
さらに講師は、この構図を iOS と Android にそのまま重ねた。IEの中身をほぼMicrosoftが作っていたのに対し、Googleはオープンソースにして誰でも作れるようにし、そこに埋め込んだ。同じ理由で、開発側から見れば iOS より Android のほうがアプリを入れやすく、それがユーザー数の差につながっている、という説明である。Chrome と Android は同じ設計思想の産物として綺麗に重なる、と講師は述べた。
まず用語について。講師が「研究とかで言うとオーバーエンベッドネスと表現される」と述べたのは正確である。Brian Uzzi「Social Structure and Competition in Interfirm Networks: The Paradox of Embeddedness」(Administrative Science Quarterly, 1997年, 42巻1号, 35〜67頁)が、埋め込みの効用はある閾値を超えると反転し、外部ショックへの脆弱性を高め、ネットワーク外の情報から企業を遮断すると論じている。
次に事実関係。Google が Chrome のソースコードの大部分を Chromium としてオープンソース公開したのは2008年。StatCounter ベースで Chrome が IE を世界シェアで抜いたのは2012年で、その年の7月時点で Chrome は約30%だった。IEのシェアは最盛期の約95%から2020年には5%を下回るまで低下している。「オープンソース化が拡散の梃子になった」という講師の説明は、この時系列と矛盾しない。
モバイルOSについても、2026年6月時点で Android が世界シェア約69%、iOS が約31%とされており、「Androidのほうが人が多い」という発言は世界全体では正しい。ただし米国内に限ると iPhone が約59%と多数派であり、地域によって逆転する点は補っておく必要がある。
この流れで、参加者から「では最もオープンソースであるはずのLinuxが普及しないのはなぜか、広げすぎたということか」という質問が出た。講師の答えは、使いやすさとUIの問題であり、そもそも使う人の母数が限られている、というものだった。ここから講師は、プロダクトアウトの製品をどうマーケットインの形に見せるかというハードルの高さに話を移している。日本の製品にもプロダクトアウト型が多く、他で使えないと言われて孤立していく。オープンソースにすると同時に、市場に持っていくところまでの開発にこだわっているのがGoogleだ、という評価である。
この論点について前田氏は、囲い込みのように見えた時点で終わりだ、と付け加えた。規模が小さければ拡大せず、同じ技術が他にもあるとなれば、すでに多くの人が使っているGoogleのようなプレイヤーが同種のものを作ってそこに埋め込むだけになる。講師はこれを、MicrosoftとAppleがともにクローズドモデルで批判を受け、Microsoftはその後オープンソース側に舵を切った、Googleは最初からオープンソースでやってきた、という対比で整理した。これは講師の見立てである。
プラットフォームとは、人が集まる場所のことではない
会の後半、参加者(高岡氏)から、プラットフォームという言葉を突き詰めると社会も言葉も個人もプラットフォームとして機能するのではないか、という質問が出た。講師はこれをそのまま受けず、逆に問い返した。プラットフォームとはエコシステムの集合体を指すのだから、人がプラットフォームだというなら、個人におけるエコシステムとは何か、と。
質問者が答えに詰まったところで、講師は定義を出した。プラットフォームとは、人が集まってわちゃわちゃやっている場所のことだと日本ではイメージされがちだが、そうではない。エコシステムのスイッチングコストや移動コストが高くなるのを、どう削減するかを考えるのがプラットフォームである。だから何もないのに人だけ集めてプラットフォームだと言っている例が非常に多いが、それは違う、という指摘である。
この文脈で、講師と前田氏のあいだで一つの逸話が共有された。台湾の政府系機関との打ち合わせに関わっていた時期、ある官庁の担当者が使っていた表現が「8つのエコシステム」だったという。それを統合したものがエコシステムなのだから、それはもうプラットフォームではないのか、8つのエコシステムとは何なのか、という話になり、二人はこれを2024年の最強のバズワードとして記憶している。定義を持たないまま概念を並べると何を指しているのか分からなくなる、という実例として提示された。
ここから講師は、質問者の「社会も個人もプラットフォームか」という問いに対して、悲観する必要はないという言い方で答えを与えている。コミュニティベースで考えればよい。国というコミュニティがあり、県があり、地域があり、業界があり、会社があり、部署がある。これらはすべて人の集合体である。それをプラットフォームと前提するなら、その中で生まれるエコシステムは何かを考えればよい。個人の場合、エコシステムに相当するのは知識・経験・能力・スキルであり、それをどう統合するかが発想力である、という組み立てである。
そのうえで講師が引き出したのは、多くの人が陥る誤りの指摘だった。自分を一つのプラットフォームだと考えたとき、エコシステムを構築していないにもかかわらずプラットフォーマーとして戦おうとすること自体が間違っている。個人のエコシステムが集約されて個人の能力というプラットフォームになり、その集合体が会社や組織のプラットフォームになる。地域も県も国も業界も、すべてこの入れ子で成り立っている。そこにスイッチングコストが高くなる状態を作るのが囲い込み戦略であり、埋め込み理論でもあり、プラットフォーマーの強みになる。逆にスイッチングコストが安ければ、プラットフォーマーであってもすぐに乗り換えられる、というのが結論である。
塾講師の例
講師はこれを、質問者の受験勉強の経験に落とした。数学しか教えられない塾講師は、プラットフォーマーとして見れば数学の能力は高い。しかし数学がある程度できるようになり、次に社会を勉強しようとしたとき、生徒は先生を変える。ところがその講師が受験科目を全部教えられるなら、変える必要がない。つまりスイッチングコストが高くなり、囲い込みが成立する、という説明である。
パン屋と金融業界──埋め込みは監視でもある
この日最後の具体例が、この場で繰り返し使われてきたパン屋の設定だった。駅の店でクロワッサンを売っており、店員がおらずセルフレジだったとき、客は何を見るか。商品を見て、価格を見て、それで判断する。一方、近所のおじさんがやっているパン屋で「これは焼きたてなんです、だから180円です」と言われたら、少し高くても買う。150円だったものが180円でも買われるのは、その取引が人間関係の中に埋め込まれているからである。逆に、駅のチェーン店が同じ焼きたてを出しても「焼きたてです」という言葉がなければ、隣の140円の店に流れる。
質問者はこれに、自分にも似た理由で少し高くても通っている店がある、と応じている。
そのうえで講師は、埋め込みの裏面を示した。地域社会に埋め込まれることで、そのパン屋はごまかしができなくなる。賞味期限切れを出せばすぐにばれる。監視体制になることで、ある程度のクオリティが担保される。ネットの評価も同じ働きをする。
講師が挙げた最も分かりやすい例が金融業界だった。ミスをすればすぐに追い出される状況になっているため、全員が互いを監視している。強く埋め込まれた状態だが、秩序を保つという意味では決してマイナスではない。埋め込みは自由を奪う代わりに信用を供給する装置でもある、という理論編の対称性が、ここで実務の言葉に戻ってきている。
もっとも、講師はここに一つだけ抜け道を置いた。その中で一つ抜けた者が、ルールを破らずにそれをやるのであれば、結局その者が勝つ。誰も喜ばないわけではなく、ルールも破っていないが、みんながやりたがらなかったこと。それを事業にすれば誰も真似をしない。競争から外れる、という意味でゼロから1の世界である、という説明である。
この論点は、会の最後に自分の事業に置き換える宿題として再提示された。自分がやっていることが周りにも真似できるものであれば、競争に巻き込まれて価格が落ちていく。だから、この業界でみんながやりたくないことは何か、この業界の常識は何かを見返し、みんながやりたがらないから差別化になるものを加えていけば営業しやすくなる、という筋である。ビジネスで最も強いのは、人がやりたくないことをやる者か、人が嫌だと思うことを嫌だと思わない者だ──講師はそう述べ、自分は後者だと付け加えた。
アンソロピック──正当性は資本になるのか
参加者からの質問は、理論を直近のニュースに当てはめる形で出された。Anthropicは、OpenAIから分かれて出てきたときは自分たちの哲学を掲げた正当性の側にいた。その後 Amazon と Google から出資を受けたところは合理性の側だった。そしていま、自社のミッション・ビジョンを守るために政権と衝突している。この往復を繰り返すことで、かえって影響力が広がっていくということなのか、という問いである。
講師の回答は二段構えだった。第一に、内密の話として、この活動によって支持は落ちる。ペンタゴンに喧嘩を売っているのだから当然である。しかし現実には、そこにある倫理観やAIに求められているものへの支持が実は大きく、それが資金調達の要因になっている、と講師は述べた。前例がない、という言い方をしている。
講師の説明で印象的だったのは、業界の位置づけを一言で表した比喩である。いまのAI企業のほとんどは、政府調達の枠組みにどう入っていくかばかりを考えている。つまり全員がヤンキーであり、その中に一人だけジェントルマンがいる、という構図で評価されているようなイメージだ、という。ミッション・ビジョンの強さが、合理性を無視できるほどの正当性になっている、というのが参加者側の受け取りだった。
講師はそのうえで、「実際にはどこかで折れるのではないか」とも述べている。理由は、国家が力を持っており、供給網リスクの枠に放り込むと言っている以上、Anthropicがこれまで構築してきたものが崩壊するからである。ただし現時点で投資家の動きを見る限り、ペンタゴンに反発していること自体はマイナス要素ではない、というのが講師の観測だった。シリコンバレー側と打ち合わせをしている段階での感触である、という留保が付いている。
半年後の答え合わせ(2026年9月時点)
この回は3月14日である。以下は2026年9月時点で報道により確認できる事実であり、講師の見立てと分けて記載する。
| 3月14日時点の講師の見立て | 2026年9月時点で確認できること |
|---|---|
| ペンタゴンへの反発はマイナス要素ではなく、むしろ資金調達の要因になっている | 方向として整合。2026年2月に Series G で300億ドルを調達(ポストマネー3,800億ドル)、5月には Series H で650億ドルを調達し、ポストマネー評価額は9,650億ドルに達した。累計調達額は1,300億ドルを超え、9月下旬から10月にかけてのIPO準備が報じられている。ただし「反発が調達の要因である」という因果関係そのものは、公開情報からは確認できない要確認 |
| 国家の力は強く、供給網リスク指定を受ければ構築したものが崩壊するので、どこかで折れるのではないか | 9月時点では折れていない。2026年8月27〜28日、サンフランシスコの連邦地裁(Rita Lin判事)は、国防総省による供給網リスク指定を違法と判断した。公然と見せしめにする意図にもとづく報復であり修正第1条に反する、恣意的で不合理である、修正第5条が求める適正手続を欠く、というのが判断の骨子である。ただしワシントンD.C.での訴訟は継続中で、それが決着するまで指定自体は技術的に残っている |
| (会では語られていない背景) | 対立の発端は、自律型兵器や国内の大規模監視への利用を認めないという同社の制限を、国防総省が撤廃するよう求めたこと。2026年2月27日に大統領が連邦機関に対しAnthropic製品の使用停止を指示し、国防長官が供給網リスク指定を行った。8月時点では、契約業者に対する「Anthropic製品を使用していない」という証明の要求が始まっているが、同じ省内・同じ庁内でも運用が一貫していないと報じられている |
講師の二つの見立ては、性質が異なる。「投資家はこれをマイナスと見ていない」という観測は、その後の調達実績と整合した。一方で「どこかで折れる」という予測は、少なくとも9月時点では実現していない。むしろ司法が企業側に立ったことで、国家の力を前提にした予測の前提そのものが揺らいでいる。
ただし、これをもって講師の読みが誤りだったと断ずるのも早い。D.C.の訴訟は継続中で指定は形式上残っており、行政側が上訴や別の手段を取る余地もある。4月8日には控訴審が指定の一時差し止めを認めなかったという経緯もあり、司法判断は一方向に進んできたわけではない。評価は依然として分かれる論点であり、本レポートは9月時点で確認できる事実を並べるにとどめる。
この回の質疑(実務編)
この回で出された課題
- Amazon・テスラ・マグニフィセント7のエンベデッドネスを調べる。 AppleとMicrosoftの事例はこの回で扱ったので、残りの企業について、何が埋め込みで何が非埋め込みなのかを自分でリサーチする。講師は会の途中と終盤の二度、この宿題を出している。
- 自分の事業に置き換えて、非埋め込みの領域を探す。 自分がやっていることを周りも真似できるのであれば、競争に巻き込まれて価格が落ちる。この業界でみんながやりたくないことは何か、この業界の常識は何かを見返し、誰もやりたがらないから差別化になる要素を加えていく。
- プラットフォームを名乗る前に、エコシステムを定義する。 個人であれば知識・経験・能力・スキルが何であるかを言語化し、それを統合したものが何かを説明できるようにする。「8つのエコシステム」のように、定義を持たないまま概念を並べないこと。