この日の勉強会は、前半のマルクス読解と社会主義討論、中盤の市場データ論を経て、最後に一つの具体的な事例に降りていった。「マイケル・バーリがNVIDIAとPalantirに売りを入れた」という、当時あらゆるメディアとXのタイムラインを埋めていた報道である。講師の問いはただ一つだった――その報道は、開示書類に実際に書いてあることを読んだうえで書かれているのか。
講師の分解は制度の話から始まる。米国の機関投資家が四半期ごとに規制当局へ提出する保有報告は、原則としてロング(買い持ち)のポジションを対象にしたものであり、現物の空売りには報告義務がない。にもかかわらずバーリの届出には「売り」に相当するものが載った。ここまでは事実である。だが講師が指摘したのは、その先だった。届出書類には、その建玉が単独の方向性ベット(アウトライト取引)なのか、買いと売りを同時に持って利益を挟み込むスプレッド取引の一部なのかが書かれていない。「1つの売りという情報だけで捉え方がこれだけ変わるんですね。ルール分かってるか分かってないかだけで」。
この懐疑は、9か月半後の時点から振り返ると、講師が想定していた以上に的中していた。ただし当たり方の角度が違う。バーリ本人がこの勉強会の2日後にXへ投稿し、メディアが報じた「9億1,200万ドルの売り」は想定元本であって実際の支払いは920万ドル、つまり報道の計算は約100倍ずれていると自ら明かしたのである。争点は講師が想定した「アウトライトかスプレッドか」ではなく、そもそも金額の桁だった。制度開示の数字をそのまま賭け金として読むと誤る、という講師の結論は、想定より一段手前で証明された形になる。
後半は、この事例をめぐる参加者との長い往復に費やされた。遠藤氏が「提出書類に記載されていない、の意味が分からない」と食い下がり、講師がチョコレートの比喩でも通じず、最終的に小賀氏が「彼らは年末に向けてパフォーマンスを確定したいのでプットでヘッジした」と実務側から翻訳して決着する。この往復そのものが、この日いちばん実践的な教材になった。講師の締めの一文は「一般の人は彼らの心理を読んでどう利用するかを考えるのが一番いい」であり、渡辺氏がそれを「理論を作った人が、その理論で勝ってきた人なんだと理解しておく」と受け直して会は終わった。
この日の勉強会は、講義の合間に二度、運営上の告知が挟まっている。網羅性のために記録しておく。
一度目は討論が終わった直後(1時間28分すぎ)である。講師は告知担当の参加者に振ろうとしたが、その人物が一時的に退出していたため、自分で告知した。曰く、明後日の木曜日に500名規模の場でピッチを行う予定であり、まだボランティアが足りていないので協力してほしい、と。
二度目は会の終盤(2時間28分すぎ)に、戻ってきた担当者から正式に案内された。13日木曜日にリアルイベントを開催し、講師も登壇する。受付開始は9時45分、スタッフ集合は朝7時30分。受付開始から11時ごろまでが最も混み合うことが想定されるため、その時間帯の手伝いを求めている。午前中だけの参加でもよく、立ち見席を用意する予定なので、午前中スタッフを務めたあとに立ち見で聴講するという形も可能だという案内だった。連絡先はチャットで共有された。
この告知には小さな余談が付いている。事前に配られたアンケートフォームに講師がふざけて回答しており、「紹介してほしい人は誰ですか」という設問に運営メンバーの名前を並べ、「誰か紹介した人はいますか」には「僕友達いません」と書いていた。それが登壇者資料として全員に配布されるものだと後から分かったため、講師が「変えたほうがいいかもよ」と伝えたところ、すでにフォームが締め切られていて書き直せない状態になっていた、という話である。担当者は送り直すと応じ、講師は「もっとふざけた回答をするのでそっちを使ってください」と返している。
加えて、講師からは事業相談の運用についての連絡があった。木曜日の登壇後に面談が集中する見込みのため、日程調整をしながら進めたいという内容である。あわせて、別の経営者(通称「しくじり社長」)の紹介経由で相談に来ている人が現在かなり多いこと、前日にその本人と直接会い、抱えている案件の中身を全面的に組み替えてよいかと確認したところ了承を得たこと、そして本人からも「経営を勉強しなければいけないのでよろしく」と言われたため、今後この勉強会に参加してくる可能性がある、という近況が共有された。次回の開催は金曜日と告知され、木曜日は午後1時ごろにメンバーだけで集まる予定であることも触れられている。
講師はまず、当時の米国市場が「繁栄派」と「衰退派」に割れていることを確認したうえで、衰退派の側で最も強く懸念を発信している人物として一つの名前を挙げた。参加者から即座に「マイケル・バーリ」という答えが返る。「売り込みましたもんね」というやり取りがあり、講師は「ただ、あれも実は売り込んだというところに対して……」と留保を置いた。この留保が、以降40分の議論の起点になる。
講師は参加者にバーリを知らない人がいるかを確認し、映画『マネー・ショート』を観るよう勧めている。「クリスチャン・ベール役の人です」「ずっとアメリカの不動産市場がぶっ壊れるぞと言っていたけれど誰も相手にしなくて、クレームを受けていた可哀想な投資家がいた」という紹介である。リーマンショックを当てた伝説的投資家、という位置づけで話は進んだ。
そのうえで講師は事実関係を整理する。バーリがNVIDIAとPalantirを名指しし、メディアは「売り」と報じ、結果として株価が下がった。参加者から「それは去年も似たようなものが出ていましたよね」という指摘があったが、講師は「今回はこれで実際に株価が落ちた」と応じている。ここから、その「落ちた」を作った情報が何だったのかの解剖が始まる。
マイケル・バーリは元神経内科医で、2000年にScion Capitalを設立した。2005年ごろからサブプライム住宅ローン債券の目論見書を読み込み、クレジット・デフォルト・スワップを通じて住宅市場に対する空売りポジションを構築した。この経緯はマイケル・ルイスの著書を原作とするアダム・マッケイ監督の映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(原題 The Big Short、2015年)で描かれ、バーリ役をクリスチャン・ベールが演じている。講師の紹介は正確である。運用成果については、バーリ個人が約1億ドル、投資家向けに約7億2,500万ドルの利益を上げ、Scion Capitalの累積リターンは489%だったとする報道がある。
この日話題になった開示の中身も特定できる。バーリが率いるScion Asset Managementの2025年第3四半期の四半期保有報告(Form 13F)には、Palantir株およそ500万株分のプット・オプション(想定元本 約9億1,200万ドル)と、NVIDIA株およそ100万株分のプット・オプション(想定元本 約1億8,700万ドル)が記載されていた。この2本で届出ポートフォリオ評価額のおよそ80%を占めている。同時に SLM Corp.(48万株)とMolina Healthcareの新規保有、HalliburtonとPfizerのコール・オプションも記載された。提出日は2025年11月3日で、期限(11月14日)より11日ほど早い提出だった。講師と小賀氏が述べた「9月末基準・11月3日開示」という認識は、この事実と完全に一致している。
Palantirの終値の史上最高値は2025年11月3日の207.18ドルである。バーリの13Fが提出されたのと同じ日にあたる。翌11月4日には決算を挟んで株価が8%下落し、同社CEOのアレックス・カープはCNBCの番組でバーリを名指しし「相場操縦だ」「頭がおかしい」と強く批判した。Palantirは2025年11月の1か月で約16%下落し、これは2023年8月以来の月間最大下落率となった。
ただし下落の要因をバーリの開示だけに帰することはできない。同社の第3四半期決算自体は市場予想を上回り、2四半期連続で売上高10億ドルを達成していた。売られた直接の理由はバリュエーションであり、Jefferiesのアナリストは同社の評価を「excessive(過大)」と表現している。講師は「これで株価が落ちた」と述べたが、公開情報を並べると、決算後のバリュエーション調整とAI関連株全体の売り、そしてバーリの開示という複数の要因が同じ週に重なったと読むのが妥当である。単一因果として扱うと、この日の講師自身の方法論(複数の前提条件を見よ)と矛盾する。
講師の議論の中核はここにある。「大事なことは何かって言うと、この規制当局への提出書類のルールというものが実際にあります」。そのうえで講師が示した論点は二段構えだった。
第一段は報告義務の非対称性である。講師の説明では、規制当局に上げるのは基本的にロングポジションのときに必要であり、売りに関しては報告義務がない。「ってなると矛盾しないですか?」――義務がないはずの売りが、なぜ書類に載って報道されているのか、という問いである。
第二段が、書かれていない情報の話だ。講師はここで二つの取引形態を対比させた。
単一の金融ポジションだけを持つ形態。買いか売りのどちらか一方である。コール・オプションであれば価格上昇に期待した買い、プット・オプションであれば価格下落に期待した売り。本当に下がると予想して張っている状態であり、報道が想定しているのはこちらである。
買いと売りを同時に持つ形態。二つ以上のポジションを組み合わせ、ポジションを持ち続けながら利益を確保する。講師の表現では「買いと売りで挟み込んだ状態にして、結果として利益確定をここまでした」。下落を予想しているのではなく、すでに乗った利益を固定しにいっている可能性がある。
講師の結論はこうだ。「今回のマイケル・バーリの提出書類には、アウトライトかスプレッド取引かが記載されていません。すなわちどっちで持っているか分からないです」。そのうえで問いを立てる。もしスプレッドで持っていた場合、それは下がると予想しているのではなく、挟み込んで利益を確定しているのだから、「売りに出た」という読み方自体が成立しない。「1つの売りという情報だけで捉え方がこれだけ変わるんですね。ルール分かってるか分かってないかだけで」。
にもかかわらずXとメディアは「マイケル・バーリが売りに出たぞ」と騒いでいる。講師はこれを「情報のリサーチと捉え方の違いです。僕と一般人の、またはジャーナリストの違いです」と表現した。
報告義務の非対称性は、おおむね講師の言うとおりである。米国の Form 13F は、運用資産1億ドル以上の機関投資家が四半期末から45日以内に提出する保有報告で、対象は原則として13F対象証券のロングポジションである。現物株の空売りポジションは13Fの報告対象ではない。空売り残高そのものを当局へ報告させる制度としては、2023年10月にSECが採択した Rule 13f-2(Form SHO)があるが、この規則の適用は繰り返し延期され、2025年12月時点でコンプライアンス期日は2028年1月2日まで後ろ倒しされている(第5巡回区控訴裁判所がコスト影響の再検討を求めて差し戻したことが直接の理由)。したがって、この勉強会の時点でもいまも、米国には個別ファンドの空売り残高を継続的に開示させる仕組みは稼働していない。
ただし「売りは報告義務がない」は、オプションには当てはまらない。プットおよびコールのオプションは、ロング原則の例外として13Fの報告対象に含まれる。しかも13Fの様式(Information Table)には PUT/CALL を区別する欄が存在する。バーリの届出は、NVIDIAとPalantirについて明確に「PUT」と記載されていた。したがって「売りか買いかが記載されていない」という講師の表現は不正確である。
他方で、講師の論旨そのものは正しい。13Fに載らないのは、権利行使価格、限月、支払ったプレミアム、そしてその建玉が他のポジション(現物の保有・空売り、別の限月やストライクのオプション)と組み合わされているかどうかである。つまり「PUTである」ことは分かるが、「なぜPUTを持っているのか」は分からない。単独の弱気ベットなのか、既存のロングを守るヘッジなのか、スプレッドの片脚なのかは、書類からは判別できない。講師が「怖い」と言ったのはこの点であり、その懸念は制度上まったく正当である。表現の精度と論旨の妥当性を分けて記録しておく。
| 項目 | 13Fに記載されるか | 読み手にとっての意味 |
|---|---|---|
| 銘柄(CUSIP) | される(オプションは原資産のCUSIPで記載) | どの銘柄に関係する建玉かは分かる |
| PUT/CALLの別 | される | 方向性の「符号」は分かる。講師の「記載されていない」はここが不正確 |
| 数量・評価額 | される(オプションは原資産株数と想定元本) | 賭け金ではない。ここを取り違えた報道が実際に起きた |
| 権利行使価格 | されない | どこまで下がれば利益が出るのかが分からない |
| 限月(満期) | されない | どの時間軸のベットかが分からない |
| 支払プレミアム | されない | 実際にいくら賭けたのかが分からない |
| 他の建玉との組み合わせ | されない | アウトライトかスプレッドかヘッジかが分からない = 講師の核心的な指摘 |
| 現物の空売り | されない | そもそも13Fの対象外 |
| 基準日以降の売買 | されない | 公表時点で建玉が残っている保証がない |
制度の次に議論されたのは時間である。ここは参加者の小賀氏が主導した。「そもそものポジションの時期が9月末にもかかわらず、開示のデータが出てきたのが11月3日という。1週間前ぐらいに出ています」。つまり公表された内容は、公表時点ですでに1か月以上前の断面であり、「今現在どうなっているか分からない中で、誰かがショートをかけた人がマイケル・バーリがやっているぞと言って」情報が使われている可能性がある、という指摘である。
ここで一つ論点が分岐した。講師が「マイケル・バーリはXで自分でも言っています。11月の初旬ぐらいに」と補足したためである。小賀氏は「ということはSECの開示の後に自分で言っているわけですね」と確認し、そのうえで「逆に言うと、本当にショートしていたら彼はかなり傷んでいますもんね」と述べた。開示から発言までの順序が、意図の読み方を変える、という指摘である。
さらに小賀氏は、開示の公表タイミングが市場イベントと重なっていたことを指摘した。「その後でそれがちょうど出てきたのが、TSMCの成長率の低下にちょうどタイミングが出てきたんですよ」。講師はこれを受けて、自分が売り方の側なら同じことをする、と述べた。「僕が売り側だったらこの情報を流して、売りで1回下げさせて、さらに上がるからというのでそこで買っていますね」。
ただし講師はこれを断定していない。「価格操作というか、一般人を出し抜くというやり方かもしれません。これが分からないです。本当にアウトライト取引かもしれないし、スプレッド取引かもしれない」。そして小賀氏が「多分今年の3月ぐらいに彼は(空売りを)全部閉じてロングに変えていたと思うんですよ。その後久しぶりだったというのは事実あると思うんですけど」と補い、講師は「そうなると相当長く儲かっていますけどね、半年間持っているだけ」と応じた。
この日の議論に登場した出来事を、公開情報で日付順に並べると次のようになる。2025年9月30日――13Fの記載基準日。11月3日――Scion Asset Managementが第3四半期の13Fを提出(期限は11月14日)。同日、Palantirの終値が史上最高値207.18ドルを記録。11月4日――Palantir決算後に株価が8%下落、CEOカープがバーリを「相場操縦」と批判。11月10日――ScionがSEC登録を抹消(この事実の報道は11月13日)。同日、TSMCが10月の売上高を発表し、前年比+16.9%と2024年2月以来の低い伸びを示した。11月11日――本勉強会。11月13日――バーリがXでPalantirプットの計算を公開。
小賀氏が指摘した「TSMCの成長率低下とのタイミングの一致」は、日付上まさにその通りである。TSMCの発表は勉強会の前日であり、13F公表から1週間後にあたる。なお、その16.9%という伸び率自体はアナリスト平均予想(約16%)とほぼ一致しており、絶対額としては月次で過去最高を更新している。「予想通りだが伸びは鈍化した」という内容が、AI相場の持続性への懸念という文脈で受け取られた、という構図である。
基準日から公表までの間隔について、小賀氏は「2ヶ月のタイムラグ」と表現したが、実際には9月30日から11月3日までの34日間である。期限どおり11月14日に提出されていれば45日だった。講師と小賀氏が指摘する「公表時点の建玉は分からない」という論点自体は、日数がどちらであっても成立する。
この勉強会の2日後、2025年11月13日、バーリ本人がXでPalantirプットの内訳を公開した。彼が買ったのは50,000枚のプット契約、1枚あたり1.84ドル、1契約は100株、権利行使価格50ドル・2027年満期である。支払総額は 50,000 × 100 × 1.84 = 920万ドルにとどまる。13Fに記載された9億1,200万ドルは、原資産500万株を当時の株価(約182ドル)で評価した想定元本であり、彼が拠出した現金ではない。バーリはメディアの計算が「およそ100倍ずれている」と揶揄した。
これは講師の懐疑の正しさを、講師が想定していた角度とは別の角度から証明している。講師が問題視したのは「アウトライトかスプレッドか」であり、方向性の解釈の問題だった。実際に起きた誤読は、それより手前の金額の桁の問題だった。13Fはオプションを想定元本で記載するため、数字をそのまま「賭け金」として読むと100倍規模で誤る。講師が示した原則――「データの計算式まで分かっていれば、その議論が的を射ているのかが判断できる」――は、この事例において文字どおり適用可能だった。
あわせて、権利行使価格50ドル・2027年満期という条件は、当時の株価(約180〜207ドル)から見て極端に深いアウト・オブ・ザ・マネーである。つまりこれは「短期の下落に賭けた売り」というより、低コストで巨大な下方シナリオを買う保険的な建て方に近い。この構造は、講師が疑った「単純な売りではないかもしれない」という直感の方向とは合致している。
この日の議論には出てこなかったが、勉強会の前日にあたる2025年11月10日、Scion Asset Managementは投資顧問としてのSEC登録を抹消している(報道は11月13日)。バーリは「この最後の期間は本質的に友人と家族のためのファンドだった」「市場では引き続き活動している」と説明した。登録抹消により、以降は13Fの提出義務がなくなる。つまりこの日の勉強会で議論された「四半期ごとの届出」という手がかり自体が、直後に消滅していた。
その後バーリは自身のニュースレターを通じて発信を続けている。主張の中心はハイパースケーラーの減価償却である。Microsoft、Google、Oracle、Metaといった企業がGPU等の耐用年数を長めに設定することで減価償却費を過少計上し、利益を実際より大きく見せている、というのが彼の批判で、2026年から2028年にかけて約1,760億ドル分の減価償却が過少計上されうると試算している。この論点は、講師が同日の別テーマ(バリュエーション指標の回)で触れた「ストックオプションの費用計上がEPSを動かす」という会計基準の話と、構造としては同じ系列にある。
建玉のその後(2026年8月時点)。2026年5月時点でバーリはポートフォリオの最大80%をNVIDIAとPalantirのプットに配分していると開示しており、想定元本はおよそ11億ドル規模とされる。内訳は、NVIDIAが権利行使価格110ドル・2027年満期、Palantirが100ドル・2026年12月満期と50ドル・2027年半ば満期を組み合わせ、さらに現物の空売りも併用した重層的な建て方である。単一のアウトライトではなく複数の脚を組み合わせている点は、講師がこの日に疑った構造そのものにあたる。
成績は分かれている。Palantirは2026年8月3日の決算(第2四半期の売上高19.4億ドル、前年比+93%)を受けて8月だけで約35〜46%上昇し、8月26日の終値は177.50ドルとなった。2025年11月3日の史上最高値207.18ドルはまだ下回っているものの、プット側にとっては厳しい展開である。NVIDIAの110ドルプットも含み損の状態にある。他方でOracleは2025年第3四半期のピークから51%下落しており、こちらでは利益が出ている。バーリは2026年8月26日付の投稿で、NVIDIA・Oracle・Palantir・Nebiusの売りをさらに積み増したことを明らかにしている。
この回でもっとも長く、もっとも実践的だったのが、参加者の遠藤氏と講師のあいだで交わされた質疑である。議論が噛み合わなかった過程そのものが記録として価値を持つため、順を追って整理する。
遠藤氏の最初の質問はこうだった。「SECの提出書類の話があったんですけれど、最後のところに記載がされていないというお話だったんですが、提出書類というのは、記載されていないというところの意味が分からなくて。提出をするということは……」。講師は「アウトライト取引なのか、スプレッド取引なのかということが記載されていなかったので、両サイドで持っているか片方だけで売ったのかが分からないんですよ」と答えたが、遠藤氏はさらに「それは記載のところに売りとか買いとかということがなかったということなんですか」と重ねた。
講師はここでチョコレートの比喩を持ち出す。「チョコレート買いましたって言って、これがビックリマンチョコなのかチロルチョコなのか分からないので、チロルチョコにもかけられないし、ビックリマンチョコにもかけられないって状態です」。だが遠藤氏の理解は進まず、講師は「絶対分かってないです、今の返事」と踏み込んだ。
遠藤氏は角度を変えて質問した。「SECの提出っていうのは、例えば日本だと三菱商事の株を3%買いますとかっていうような書き方のものではないというところなんですか。取引委員会への提出書類って何を書くものなのかがよく分からなかったんで」。この質問は本質的だった。講師は「これから売買しますよ、売買した後に報告するんですよ。買いますよ、売りますよというのを報告するものです」と答え、「チョコレートを買いますとは書いてあっただけの話であって、チロルチョコかビックリマンチョコか分からなかった」と繰り返した。
ここで前田氏が別の比喩に置き換えて助け舟を出した。「買うものじゃなくて、チョコレートを買いますと、それがクレジットカードで買うのか、ペイで払うのか、現金で払うのかっていうので、これが違います。ある意味お金の出し方とかこの買い方の話なんです。買う方法に種類があります。その種類が違うと意味が変わってくるだけなんです」。
それでも噛み合わないため、講師は前提のさらに手前に降りた。「アウトライト取引とスプレッド取引の違いが分かっていないです。アウトライト取引だったら本当に売っているから落ちる可能性があるじゃないですか。スプレッド取引だったら落ちないんですよ、価格を挟んでいるから。簡単に言うと、自分の利益を確定しに行っているのか、それとも値段が下がるのに賭けているかの違いなんです」。
そして講師は為替の例に置き換えた。100万円を持っていて、50万円を日本円のまま、50万円をドルに替えて保有する。ドルの価値が下がれば円換算した資産は減るが、同時に円の価値は上がっている。「5,000ドルと50万円っていうのは一緒のまんまですよね」「数字で見ると」。講師の主張は、両建てにしておけば通貨の変動に対して総量が減らない、という点にある。「ヘッジするってそういうことなんですよ。今持っている自分の持っている量を減らさないためにヘッジするんですよ」。
講師の説明は、ライブでの口頭説明という制約もあり、途中の数値が整理されていない。「1ドル150円になると75万円の価値しかなくなる」「1.5倍になっちゃったら半分になっちゃいますよね」といった箇所は、円高・円安の方向と倍率が混在しており、そのままでは計算が追えない。趣旨としては「通貨建ての数量(50万円と5,000ドル)は動かないが、単一通貨で評価した合計額は動く。両方を持てば片方の変動が他方で相殺される」という分散・ヘッジの説明である。
厳密には、円とドルを半々で持つことは為替変動の影響を「消す」のではなく「半減させる」ことにあたる。円換算した合計額は、ドル部分の変動に応じて依然として動く。完全にヘッジするには、為替先物やオプションで反対のエクスポージャーを取る必要がある。講師の言う「量を減らさないためにヘッジする」という目的の説明は正しいが、通貨を半々に持つ例では「量が減らない」ことの証明にはならない。この例え話は概念の入口としては有効だが、そのまま定量的な主張として受け取らないほうがよい。
それでも通じなかった時点で、複数の参加者が原因を特定した。前田氏は「売りのシステムがそもそも把握できていない。ポジションという概念は信用がないと絶対生まれないじゃないですか」と述べ、小賀氏は「ショートが分からないと、この説明はずっと分からないですよね」と応じている。講師も「そこでつまずくので、スプレッド取引の話が全く入ってこないんじゃないか」と同意した。
決着をつけたのは小賀氏だった。「遠藤さんがつまずいているのはそこじゃなくて、私が聞いている限りだと、規制当局に提出する書類のルールの話で『売りを出したんですか』という話があったので、スプレッド取引の話があったのであれば買いも報告しているんじゃないの、という意味合いで聞いているんじゃないかなと思ったりして」。講師はこれを「そう、そういうところですよね」と受け、遠藤氏も「そうです、まさに」と同意した。講師の最終回答は「買いでなきゃ売りは入れなくていいんですけど、今回出たのは売りのポジションなわけなんですよ。でも小賀さんがおっしゃったように3月ぐらいに買っているんですよね。ということは挟めに行っている可能性があって、これが目的としてはスプレッド取引なのか、アウトライト取引なのか分からないという意味なんです」というものである。遠藤氏は「それだったら超分かるっす」と応じた。
質疑の決着後、小賀氏はチャットに実際のデータを共有したうえで、実務側からの解釈を提示した。この解釈が、この日の議論に最も納得のいく着地を与えている。
小賀氏の指摘はこうだ。バーリのファンドの原資産(アンダーライング・アセット)は2024年末から急激に増えている。第3四半期には12億〜13億ドル規模、日本円でおよそ4,500億円に達しており、第1四半期から見て非常に大きく伸びている。「だから何がしたいかって言うと、これだけ上がったんだからちょっとリスクを落としたいなと普通思うじゃないですか。で、その時に何をするかって言うと、通常はプットを買うんです」。
つまりプット保有の増加は、必ずしもPalantirやNVIDIAへの弱気を意味しない。「例えばPalantirに弱気になったとか、NVIDIAに弱気になったかどうかっていうのは、これは分かりません」。ファンドには年末の値洗いがあるため、9月・10月の段階でプットをある程度買ってポジションをヘッジしにいった、と読むほうが自然だ、というのが小賀氏の解釈である。「今年のパフォーマンスを確定したいので、ここからこれ以上のリスクは取りたくないから、ある程度のヘッジをして、そのヘッジとしてはオプションを使いましたっていうのが、あるんじゃないでしょうか」。講師も「年末に向けての配当に向けてある程度利益確定しておいて、配当額でも取ろうという考え方ですもんね」と応じている。
小賀氏はあわせて制度の枠組みを説明した。運用資産1億ドル以上のファンドは四半期ごとの提出義務があり、SECに登録した業者には基本的にこうした開示が求められる。日本とは開示の仕方が違う、と。そして最後に、こう釘を刺した。
「これは弱気の表明ではなくヘッジかもしれない」という小賀氏の読みは、部分的に当たり、部分的に外れた。バーリが2日後に開示した内訳(権利行使価格50ドル・2027年満期のプットを1枚1.84ドルで50,000枚)は、支払額を920万ドルに抑えた低コストの深いアウト・オブ・ザ・マネーの建玉であり、「ポートフォリオ全体の下方リスクに対する保険」という小賀氏の解釈と構造的には整合する。他方でバーリは以後、Xやニュースレターを通じて減価償却の会計処理を名指しで批判し続けており、単なるリスク管理ではなく明確な方向性のある主張として建てていたことも明らかになった。2026年に入ってからも建玉を積み増している。
日本の開示制度については、小賀氏の説明を補う必要がある。小賀氏は「日本はそういう開示の義務はございません」と述べた。四半期ごとに全保有ポートフォリオを提出させる13Fに相当する制度が日本にない、という限りでは正しい。ただし日本には二つの開示制度がある。ひとつは大量保有報告書(5%ルール)で、上場企業の発行済株式の5%超を保有した者は原則5日以内に報告し、保有割合が1%以上増減するたびに変更報告書を提出しなければならない。もうひとつは空売り残高報告制度で、発行済株式総数の0.2%以上の空売り残高には報告義務があり、0.5%以上のものは日本取引所グループのウェブサイトで、投資者の商号・名称を含めて公表される。
つまり空売りに関しては、個別の建玉と主体名が継続的に公表されるという点で、日本のほうが米国より開示が手厚い。米国のForm SHOが2028年まで延期されていることを踏まえると、この差はさらに大きい。この日の議論は「米国は開示があり日本にはない」という前提で進んだが、扱う対象を売りに限れば前提が逆転する。
質疑の途中、参加者から素朴な疑問が出た。「今のは風説の流布みたいのに当たらないんですか。情報を流して誘導するみたいな形で」。
講師の回答は明確だった。「別に本人がそう言っていないし、ちゃんとそこで提出もしていて、理由・根拠も書かれているから、別にそれはそれでちゃんと持っているからいいんじゃないですか」。そのうえで「規制当局に出しているから公開していいんですよ、情報」と述べている。小賀氏も「ファイリングの時期は9月末の段階の数字であって、SECからフォームが出てくるのがたまたま今回は11月3日だった。本人がどうしたいという問題ではない」と補足し、「だったらゴールドマン・サックスがとか、ウォーレン・バフェットが日本の商社の株を買ったとか、何も言えなくなります」と付け加えた。開示のタイミングは提出者が選べるものではなく、報道はいずれも後付けの報告である、という整理である。
会の終盤には、参加者の長川氏から関連する論点が出た。「価格操作、株価操作というのはファンドの方たち、アメリカのファンドは罪にならないけど日本のファンドは罪になるみたいなことをファンドの人から聞いて」「ファンドはやってもいいけれども、一般の人はやっちゃいけないみたいなことをファンドの人が言っていました」。講師はこれを受けて「一般の人は彼らの心理を読んで、どう利用するかを考えるのが一番いいってことです」と締めている。
長川氏が伝聞として述べた「アメリカのファンドは罪にならないが日本では罪になる」という理解は、公開情報の限りでは支持されない。米国では、空売りポジションを取ったうえで虚偽の悪材料を流布して株価を押し下げる、いわゆる「short and distort(空売りして貶める)」は、1934年証券取引所法 Section 9(a)(2) および Section 10(b)、Rule 10b-5、1933年証券法 Section 17(a) に違反する証券詐欺として扱われる。日本でも金融商品取引法が相場操縦と風説の流布を禁じており、ファンドだから免責されるという構造はない。
両国に共通するのは、実際に保有しているポジションを正確に開示し、根拠を示して見解を述べること自体は合法であるという点である。違法になるのは、虚偽の事実を流布する場合、あるいは実際には持っていないポジションを装う場合である。したがって講師の回答(本人が持っていて、当局に提出していて、根拠も書いているのだから問題ない)は、法的な整理として妥当である。長川氏の伝聞は「機関投資家のほうが情報発信の影響力が大きく、事実上許容される幅が広く見える」という実務感覚を法的な区別として受け取ったものと思われるが、条文上の建て付けは日米で共通している。要確認ただし個別事案の摘発実績や執行の強度に日米差があるかどうかは、この場では確認できていない。
マイケル・バーリの事例を終えたところで、参加者から関連する質問が出た。以前バフェットがBYDを全部売り込んだという話があったが、そうするとBYDは今後ダメな企業だと捉える人が結構いるのではないか、という指摘である。講師は「僕のコメント欄にもそれがありました」と応じ、「全然別の話で、多分それはその価格だけしか見ていない。バフェットが何を見ているのかというので、地政学まで見ているので、そこまで研究していますかって話なんですね」と答えている。「理由が全く違いますっていうので」。
バークシャー・ハサウェイは2008年9月にBYD株約2億2,500万株を2億3,000万ドルで取得した(当時の持分約10%)。2022年から売却を開始し、2025年3月末時点で保有額がゼロとなり、17年間の投資を完全に終了したことが同年9月の子会社の届出で判明した。2024年末時点の評価額は4億1,500万ドルだった。取得から2025年3月末までの株価上昇率は4,500%を超えている。
講師の指摘は妥当である。バークシャーの売却は、BYD単体の事業評価だけでなく、20倍超に膨らんだポジションの整理、中国資産に対する地政学的判断、そして代替投資先の有無といった複数の要因の合成である。バフェット自身は2023年の時点でBYDを「並外れた企業」「並外れた人物が経営している」と評価しつつ、「その資金でもっと気分よくできることが見つかると思う」と述べていた。売却=事業への否定的評価、という単線的な読み方が成立しないという点で、この事例はマイケル・バーリの13Fと同じ構造を持っている。
この流れのなかで、講師は自分の立場について踏み込んだ発言をしている。参加者が「単純に値段の上げ下げでしか見ていないと、本当の意味の価値を判断できない。いかに価値を評価する姿勢がないと、ギャンブルにしかならない」と述べたのに対し、講師はこう応じた。「僕自身が自分の分析でも、僕はギャンブルだと思っていますもん」。
参加者が「マイキーさんの分析がギャンブルだったら、ギャンブルしかないです」と返すと、講師は続けた。「100%の確証はないわけであって、絶対に上がるなんてことは絶対口が裂けても言えないわけなんですよね。これを51%から60%でどうやって引き上げて、これを列を上げるのとともに、というので、管理をどこまで、リスクが起こったとしてもその時の範囲をどこまで下げるかだけの話じゃないですか」。
会の最後、講師が渡辺氏に感想を求めた。渡辺氏の応答が、この日の4本のレポートすべてを貫く一文になっている。
「最初のお話が続いているなと。要するに結局、経済論も株価の説明も、まず利益を取りたい人が理論にしていくのかなというところがありますね」。そして続けた。「僕たちは株式操作というところではなくて、結局そういう、誰が理論を作って、それで利益を得ているのかっていう人の思考を読むということしかないんです。それは古典を読むしかないし、僕たちはその構造を知るしかないってことですね」。「ですから理論にしても、それは使ってきた人が、ある意味勝ってきた人なんだということを理解しておく」。