ドルを一度も動かさずに石油と鉄道を交換する仕組みが、20年かけて世界中に張られてきた。その原型はアンゴラにあり、ベネズエラで完成し、エクアドル・イラク・コンゴへ広がった。イランで一本が切れたいま、次はどこか。そして同じ日、テヘランのバザールで起きていたことを、講師陣はニュースとまったく違う枠組みで読んでいた。以下はすべて講師本人が「あくまで仮説」と明言した内容である。
この日の後半は、マイキー氏が自身のYouTube動画で伏せた部分(音声にピー音を入れた箇所)を、勉強会でだけ明かすという形で進んだ。問いは単純である。ベネズエラ、イランと来たなら、次はどこか。参加者からはロシア、サウジアラビア、UAE、クウェート、マレーシア、インドネシア、インド、リトアニアといった名前が挙がったが、マイキー氏の答えはアンゴラ、エクアドル、そして今後はイラクだった。キーワードは「決済」である。
この予想の根拠になっているのが、中国が20年かけて構築してきた「アンゴラモデル」と呼ばれる仕組みである。資源を担保に融資を出し、返済は現金ではなくインフラ建設で相殺する。石油代金はいったんエスクロー口座に留め置かれ、その資金で中国企業が現地に鉄道や病院を建てる。この構造の下では、ドルは一度も動かない。制裁の対象になる送金そのものが発生しないからである。
マイキー氏の仮説は、米国が2024〜25年から、この構造を国ごとに切りに行っているというものだ。ベネズエラは原油の管理を米国が握り、イランは経済そのものが止まった。仕組みが同じである以上、次はエクアドル、アンゴラ、イラクが対象になるのではないか。表向きは鉱物や物価の話をしているが、裏では米中の金融のマウンティングが続いている――という読みである。
そして議論はイラン国内へ移る。ここでマイキー氏と渡辺氏が焦点を当てたのは、抗議運動の主体だった。今回の運動にはバザール商人が絡んでいる。通貨の暴落で商売が成り立たなくなり、体制を支えてきた側が体制から離れた。ネットを遮断しても止まらないのは、彼らのネットワークがアナログだからである――という分析だった。
マイキー氏はまず、2025年10月に扱ったイランと中国の原油決済の話を短く復習した。イラン国営石油会社の貿易部門がスイスにあり、その子会社が香港の会社で受注する。SWIFTが使えないため送金は起きず、売上として計上されるだけで、実際の資金は中国国外の資産運用会社にプールされる。イランへは石油の対価としてインフラが提供され、中国の輸出信用保険会社が中国企業側のリスクを引き受ける。ドルを使わずに経済圏が作れる、という構造である。
そのうえでマイキー氏は、この仕組みの原型を明示した。アンゴラモデルである。正式にはリソース・バックト・ローンズ(資源担保融資)と呼ばれる手法で、アンゴラが一定量の原油を中国に輸出し、その売上をアンゴラに入れるのではなく中国国内のエスクロー口座に直接入金させる。その代わりに中国はアンゴラで不動産やインフラを構築する。つまり中国はドルを支払わずにエネルギーを確保し、アンゴラは現金を受け取らずにインフラを得る。
マイキー氏が次に挙げたのがベネズエラである。2007年に中国とベネズエラの共同基金が作られ、中国開発銀行とベネズエラの経済社会開発銀行、そして中国側の国営石油会社とベネズエラ国営石油会社の四者による協定が組まれた。石油代金はベネズエラのエスクロー口座へ送られるが、そこには130%の担保維持義務がある。中国が融資した額の1.3倍を常に口座に置いておかなければならず、為替や油価の変動で下回れば、その分を原油で補填する。
ベネズエラの景気が悪化して返済が困難になると、中国は融資ではなく債権回収に集中すると宣言し、金利や回収費用として原油を寄越せというやり方に切り替えた。マイキー氏の説明では、中国は目減りした債権の分だけ石油をただで受け取る状態を作っている。そこへトランプ政権がベネズエラの原油をほぼ米国が管理すると表明した。石油が入らなければ、中国の金は戻ってこない。
マイキー氏は、同じ仕組みが複数の国で動いていると説明した。エクアドルも四者でファンドを組み、かなり不平等な条件を突きつけられている。2013年には原油の90%を中国への返済用として、金利を加えたうえで中国に有利な価格条件で引き渡す形になっていた。そこへ2025年に米国が圧力をかけ、ペトロチャイナとの契約見直しと債務再編に米国がバックアップとして入り、インフラと石油を交換するパターンをエクアドルの時点で潰している――というのがマイキー氏の説明である。
イラクについてはソブリン保証とヘッジ口座を使った構造で、エスクロー口座に資金を担保させ、返済に足りない分は石油で立てる。建設を進めれば進めるほど、その分を渡さなければならない仕組みになっている。保険会社が入り、そこから建設業に振り込まれる。
そして重要鉱物版がコンゴである。EVに必要なコバルトと銅。中国はインフラを整える代わりに鉱物を引き渡させ、道路・病院・鉱山開発を手掛けてきた。マイキー氏によれば、国営の鉱山会社の68%を中国が保有している状態で、銅だけで1000万トン、コバルトだけでも60万トンの採掘権を手にしている。
| 国 | 担保にされた資源 | この日語られた特徴 |
|---|---|---|
| アンゴラ | 原油 | この方式の原型。石油代金をエスクローに入れ、インフラで返す |
| ベネズエラ | 原油 | 2007年の四者共同基金。130%の担保維持義務。返済難で債権回収モードへ |
| エクアドル | 原油 | 2013年に原油の約90%が返済用に拘束。四者でファンドを組成 |
| イラク | 原油 | ソブリン保証+ヘッジ口座。建設が進むほど引渡し義務が増える |
| コンゴ | コバルト・銅 | 重要鉱物版。インフラ(道路・病院・鉱山開発)と交換 |
| イラン | 原油 | スイス→香港→中国→建設業者の経路。今回、経済ごと停止 |
マイキー氏の結論はこうである。中国はSWIFTやドル決済を使わず、中国国内のスキームとダークフリート(船籍や積地を偽装する輸送手法)を使って経済圏を作ってきた。それに対して米国が2024〜25年から、エクアドルとアンゴラを中心に叩きに行っている。まだ収まっていないが、イランは経済が止まり、ベネズエラは米国が取った。ならば次に活発になるのはエクアドル、アンゴラ、イラクではないか。中国が脱ドルを進めようとしているなら、これまで作ってきた経済圏を米国が潰しに行くことでドルを強化する――そういう仮定に立つならば、という条件付きの予想である。
参加者から、決済システムの破壊が目的なのか、それとも資源を押さえる次のステップがあるのかという質問が出た。マイキー氏の答えは両方だった。鉱物を押さえたい意図は非常に強く、米国もアフリカにかなり入り込んでいる。そのうえでなぜコンゴなのか、という理由として挙げたのが地図上の位置である。コンゴは大西洋側にあり、大陸の中央から西へ抜ける位置にある。中国は既に西アフリカで港の建設を進めており、コンゴを押さえれば東西アフリカを陸路で結べる。中国が押さえている国としてソマリア、ケニア、タンザニア、モザンビークを挙げ、東海岸と西海岸が繋がることの戦略的意味を、ペルーからブラジルまでを高速道路で結ぶ構想に例えた。
そのうえでマイキー氏が「一番めんどくさい」と評したのがマダガスカルだった。太平洋でいう台湾の位置にあたり、ここにはインドと米国が入っている、という指摘である。
小澤氏からザンビア(銅)、ギニア(鉄鉱石・アルミニウム)、ボリビア(リチウム・天然ガス・石油)についての見方を問われ、マイキー氏はいずれも既にかなり入られていると答えた。そのうえで、中国企業も米国企業も進出が進まない唯一の理由として内戦・民族紛争を挙げている。
ここで語られた米中の手法の違いが、この日で最も議論を呼んだ論点だった。米国は現地人を雇う。中国は教育した中国人を送り込む。現地の人がどうであるかは関係ない。人口が違うので、世界中に何人送っても中国は余裕がある――というのがマイキー氏の説明である。そして彼はこう続けた。「人を大切にしない国のほうが強いんだな、というのがよくわかる。人間は歯車であるという前提の国のやつらが強い」。
渡辺氏はさらに、中国側の進出の歴史的な厚みを指摘した。国家レベルで入ってきたのは20〜30年前だが、それ以前に木材伐採などの一次産業で民間企業として入っていた。現地に根を下ろし、人脈とコミュニティを作ってしまうことが、長期戦や資源獲得において有利に働く。マイキー氏はこれに、人と一緒に現金も送り込んでいる点を加えた。船で現金をそのまま運び、勝手に村を作り、中国国外なのに中国国内のような状態を作って、決済まで人民元で回してしまうことがある、と。スリランカとパキスタンがその典型例として挙げられた。
マイキー氏は、当日のYouTube動画でも触れたイランの現状について、ニュースを見ていても絶対に分からない部分がある、と切り出した。今回の抗議活動にバザール商人が絡んでいる時点で、これまでの運動とは意味がまったく違う――それを説明しないと、どれくらいのインパクトがあるのかが伝わらない、と。
マイキー氏はまず数字を出した。米国の制裁を受けてから、イランの通貨は60%ほど下落している。そして参加者に問いかける。イランの人は怒っている。ただし、この5年間で日本の実質実効為替レートも落ちていて、日本人はそれに気づいていない。そちらのほうが問題ではないか、と。
図1:イラン・リアルの対ドル市場レート(1ドルあたりリアル、概算)。数値が上がるほど通貨は安い。Claude作図・報道ベースの概算値であり、公式レートとは異なる
渡辺氏は今回の状況について、モサデク政権のときと非常に近いと述べた。重要なのは、政治の駆動力になっている人たちがどちらを向いてしまっているかであり、それが巧妙に誘導されたのだろう、と。CIAの潜伏だけでなく、バザール商人がどう動いたかは長い時間をかけて仕込まれたはずだ、という見立てである。
マイキー氏の説明では、バザール商人はランクが高く、自由に経済を動かし、裏で政治も握っていた層である。政治的な不当があっても彼らは動かなかったし、原油が高くなってもそれはそれで商売になっていた。ところが今回は通貨が落ちたことで彼ら自身のビジネスが成り立たなくなった。ここが転換点である、と。
マイキー氏がもうひとつ「今までと違う」と指摘したのが、運動にビジョンと政権転覆後のロードマップが伴っている点だった。これまでは低所得層も中間層もビジョンなく暴れていただけだったが、今回は掲げられたビジョンがあり、その後の道筋まで組まれている。だからこそ賛同が根強い、と。マイキー氏はその出所として、外部からのコントロールが強いパフラヴィー元皇太子の名前を挙げた。
この日、講師陣が最も強い関心を示したのが、運動の通信手段だった。ネットを遮断しても止まらない。スターリンクも遮断できると言われているほど国側が準備していたのに、それでも動いている。ならばアナログのネットワークしかありえない、というのがマイキー氏の推論である。
マイキー氏の想定はこうだった。おそらく暗号的なものができていて、アナログで人が集められ、各地域のリーダーがさらに商業ネットワークに入り込み、そこでプレゼンテーションをして一気に広がる仕組みが構築された。東京でデモが起きても北海道や沖縄では起きないのが普通なのに、全都道府県で同時に起きているような状態である。水面下で相当やっていない限りこうはならない、と。しかもマイキー氏の見立てでは、2025年6月に攻撃を受けてからのおよそ半年で作り上げたネットワークである。
渡辺氏はこれを、情報の切り分けの問題として整理した。銀行に火を放つような行為には扇動者がいるはずで、民衆の行動ではない。これが民衆の行動なのか、バザール商人の行動なのか、一部の国政に関わる富裕層の問題なのか――全部切り分けたうえで情報を精査しなければならない、と。マイキー氏も、権力構造は変わらず国民の生活が良くなるとも思えない、中間層は踊らされているに過ぎないのではないか、と述べた。バザール商人のネットワークの中核にいる人物は表に出てきていない、というのがその根拠である。
小澤氏は、決済システムを壊しに行くという発想について、「それしかないと思っている」と応じた。中国が米国に挑むということはドルに挑むということであり、デジタル人民元も同じ文脈にある。現地での資源獲得うんぬんよりも、最後は金融の勝負になる、と。国際銀行間決済システムやmBridgeの動向に注目している、という発言だった。人民元はそのままでは国際通貨になれないので、デジタル化するタイミングで勝負を仕掛けてくるだろう、という読みである。
マイキー氏も同意し、金融を押さえた者が勝つ、と述べた。イギリスが経済規模の割に世界最強と言われるのは金融を押さえているからだ、というのがその論拠である。表向きは鉱物や物価の話をしているが、裏では米中の金融のマウンティングが永続的に続いている、と。
先に金融から押さえる。決済システムと基軸通貨を握り、そこから個別案件に影響を及ぼす。マイキー氏はこれを「卵が先か鶏が先か」の一方の解として提示した。
ミクロから積み上げる。資源・インフラ・現地コミュニティを一件ずつ押さえ、経済圏を作り、最終的に金融を取りに行く。黙って淡々と進めるのが特徴、とマイキー氏。
マイキー氏はここで自分の仮説の限界も示した。もし米英型の方程式(金融から押さえる)が正しいなら、今回の「次はアンゴラ・エクアドル・イラク」という予想は外れる。中国のやり方を前提にした場合の予想だからである。「これは中国とアメリカに聞いてみないと分からない。あくまで仮説なので」と繰り返していた。
政策を設計している人物は誰かという質問には、ラトニックの名前が挙がった。マイキー氏は「証券会社の会長をやっていたから、そういう意味でのところにも繋がるかもしれない」と付け加えている。
終盤、中国がバーターとエスクローを続けた場合、通貨や紙幣の価値を無視した作戦になるのではないか、という質問が出た。マイキー氏の回答は、最終的に外貨を稼ぎまくれば通貨は強くなり輸入品が安くなる、というものだった。そして中国の貿易黒字が1.2兆ドルという史上最高になった点に触れ、その資金を民間に投げず、指定した産業に集中投下しているだけだ、と説明した。中国製造2025や五カ年計画がその枠組みである。優秀な人間に金を投じ、そうでない人間は駒として働け、というのが露骨に見えるのが中国の戦略であり、これが最も合理的だと思う――という評価だった。200人に100万円ずつ配るより、一人に2億円を投げたほうがリターンは早い、という例え話で締められている。
Q1.ベネズエラでは米国企業が油田も含めて押さえに行くステップがあった。コンゴのコバルトなどは、決済システムの破壊が目的か、それとも資源を押さえる次のステップがあるのか。
A.鉱物を押さえたい意図が非常に強く、米国もアフリカに入り込んでいる。コンゴは大陸中央から大西洋側にあり、押さえれば東西アフリカを陸路で結べる。中国は西アフリカで港を建設中で、ソマリア・ケニア・タンザニア・モザンビークを既に押さえている。
Q2.(小澤氏)ザンビア、ギニア、ボリビアあたりはどう見ているか。
A.いずれも既にかなり入られている。銅生産ならザンビア、アルミニウムならギニア、ボリビアは石油も鉄鉱石も出て資源が非常に豊富。ただし中国企業も米国企業も、内戦・民族紛争のせいで進出が進まない。
Q3.この仮説はどうやって検証するのか。
A.見るしかない。防犯的に何かできるわけではないので観察する。ただしマイキー氏自身は、この系統の運用案件が舞い込んでくるだろうという準備はしておく、と述べた。
Q4.政策を中心になって作っている、戦略を練っている人物は誰か。
A.ラトニックあたりになる。証券会社の会長をやっていたので、そういう意味でも繋がるかもしれない。
Q5.内戦という不安定な状況では、現地人を使う米国よりも中国人を送り込む中国のほうが事業継続やインフラ整備を進めやすい構造になっているのか。
A.(渡辺氏)中国は国家レベルの進出より前に、木材伐採などで民間として入り込み、現地に根を下ろして人脈とコミュニティを作った。それが長期戦・資源戦争で有利に働く。(マイキー氏)アフリカに限らず東南アジアも含め世界中でやっており、人と一緒に現金も送り込む。中華街を作り、決済まで人民元で回してしまうことがある。スリランカとパキスタンが典型例。
Q6.中国の若者が海外に出るのは、国内に自己実現の場がないからか。
A.(渡辺氏)ゴールドラッシュと同じ感覚で行っている。ナイジェリアのラゴスだけで中国人が10万人規模。親が反対しても行く新卒がいて、10代20代が夢を描いて出ていく。無理やり行かされているわけではない。(マイキー氏)日本では地方から東京・大阪へ行って止まってしまうが、中国は都市部の次に海外へ出る。視野が一段上。
Q7.アンゴラモデルは中国以外の国もやっているものなのか。
A.やっている国はあったとしても、中国は国単位でやっているのが違う。企業単位なら珍しくない。米欧に目をつけられる前提でやっている振り切り具合がすごい。
Q8.この仮説は何を参考にして立てたのか。先行研究にあたるものはあるか。
A.仮説は疑問と好奇心から生まれるので、その人の知識ベース・経験ベースによって立てられる仮説が違う。決済システム、鉱物、宗教、地政学、地理、政治を勉強してきた総合的な蓄積からたどり着いた。(渡辺氏がプロ倫の先行研究について補足:オッフェンバッハーの調査、およびアメリカとピューリタニズムの関係を扱った研究)
Q9.中国がバーターとエスクローを続けると、通貨や紙幣の価値を無視した作戦になるのではないか。
A.外貨を稼ぎ続ければ通貨は強くなり輸入品が安くなるので、どこかで反転する。ただし中国は黒字を民間に投げず、指定した産業に集中投下している。優秀な人間に資金を集中させる戦略で、これが最も合理的だと考えている。