STUDY REPORT / 2025年11月度 勉強会

ナデラの横断設計と3対3対3 ――なぜMicrosoftだけは「1本折れても死なない」のか

「皆さんにとって最強の経営者は誰ですか」。この問いに答えられる経営者がほとんどいない、という指摘からセッション後半は始まった。サッカー選手の凄さは説明できるのに、経営者の凄さは説明できない。その空白を埋めるための実演として、Microsoftの売上構成と利益構造が一枚ずつ解体されていく。

EXECUTIVE SUMMARY

事業とは、崩れても死なない比率を先に作っておくことである

売上構成(AIブーム後)
4:4:2
生産性事業・クラウド・デバイスの比率。講師によればAIによって「偏り始めた」状態
売上構成(AIブーム前)
3:3:3
どこが崩れても問題ないよう設計された比率。ナデラが就任後の数年で作り上げた
10年間の成長倍率
4.6/1.3/4.4
生産性事業・デバイス事業・クラウド事業の順。バルマー時代からの伸び
Microsoftの営業利益率
46%
講師が板書した数字。販管費26%、原価率28%という内訳で提示された
デバイス事業の利益率
2.5
売上が1.3倍にしかなっていないMPCで、営業利益率だけを2.5倍にしたという指摘
社債利回り
国債を下回る
通常は危機のサインだが、米国では逆。そこにMicrosoftの信用力が現れるという読み

この日のセッションは2時間18分あり、前半は中国企業の香港上場と金融情報規制、中盤はJ.S.ミルの生産と分配の法則、そして功利主義とジェンダーの話が続いた。本レポートが扱うのは1時間19分55秒以降、講師が「ちょっと話をしていこうかな」と切り出してから終了までの約58分間である。テーマは経営者論、より正確には事業設計の読み方である。

入り口は挑発的な問いだった。皆さんにとって最強の経営者は誰か。そしてその人は何がすごいのか、説明できるか。講師によれば、これはほとんど答えが返ってこない質問だという。サッカーであればメッシがどれだけすごいか説明できる。バスケットボールならマイケル・ジョーダン、テニスなら大坂なおみ、歌手でも格闘家でも「誰が一番か、なぜか」を語れる。ところが経営者だけは、経営者自身がやっていながら説明できない。「これ、矛盾を感じませんか」というのがこの日の出発点である。

そこから講師が取り上げたのがサティア・ナデラだった。理由は明快で、六角形のパラメーターが全部埋まっているからだという。開発も、ファイナンスも、設計も、教育も優れている。アンディ・ジャシーは武闘派としてエッジが効いており、ティム・クックは非常に強いが開発だけが弱い。サッカーで喩えるなら、ナデラがクリスティアーノ・ロナウドで、ジャシーがメッシである――メッシは飛び抜けてうまいが右足やヘディングに偏りがあり、ロナウドは全部できる、という比喩が使われた。

セッションを貫く1本の線
Appleの売上の半分はiPhoneで、Googleとメタの大半は広告で、Amazonの多くはECである。どのGAFAM企業も、1本の柱が折れれば利益構造が崩れる。ところがMicrosoftだけは、独占的な広告も独占的なECも独占的なデバイスも持っていない。持っていないからこそ、どの1本が折れても残る。

ナデラがやったのは、新しい事業を作ることではなかった。既存の事業に別の意味を持たせ、別の需要を捕まえ、サービスを媒体横断させることで、比率そのものを設計し直したことである。「こんなことをやる化け物な経営者はいない。絶対に何かしらの事業をやると何かの事業に偏る。3対3対3なんて綺麗に作れるわけがない。それを設計しちゃったんですよ、AIブームが来るまでに」というのが講師の評価だった。

そして、この回でもっとも重要な問いは講師自身が投げた自己反駁である。レジリエンスを高めるために3対3対3にしたのに、なぜ今それを崩して4対4対2にしているのか。それはレジリエンスと反対方向ではないか。この疑問が参加者から出てこなかったことに講師は不満を述べ、そのうえで自分で答えを出している。答えは「崩した後に戻す能力があるから」だった。この一往復が、この回のもっとも密度の高い部分である。

PART 0

「最強の経営者は誰ですか」――答えられない質問

講師はまず、経営者向けの場でこの質問がほとんど機能しないことを指摘した。事業をやっている人に「あなたが尊敬する、一番すごいと思う経営者は誰か」と聞いても出てこない。出てきても、孫正義、三木谷浩史、柳井正といった名前で止まる。もちろん彼らはすごい。しかし「それよりすごい経営者は世の中にいっぱいいるわけじゃないですか。その中で最強の経営者って誰ですか」という問いになると、答えが続かない。

比較として持ち出されたのがスポーツである。サッカーであればメッシが好き、昔ならマラドーナやペレ、バスケットボールならマイケル・ジョーダン、少し前ならコービー・ブライアント、今ならレブロン・ジェームズ。そしてその選手の何がすごいかも説明できる。格闘家でも歌手でも同じである。ところが経営者だけができない。「なぜアンディ・ジャシーがすごいのか」「なぜティム・クックが素晴らしいのか」「なぜサンダー・ピチャイがすごい経営者なのか」「なぜサティア・ナデラがすごいのか」を説明できる人がいない。経営者をやっておきながらおかしくないか、という問いかけである。

この問いの実務的な意味
講師の言い方は「じゃあ、誰を目安にビジネスをしているのか」だった。参考にすべき手本がなければ、自分の事業判断を測る基準もない。この回の後半で講師が繰り返す「モデルになる経営者は誰なのか」という表現は、憧れの話ではなくベンチマークの話である。世界のトップ企業の事業形態が分からないまま経営をするのは、比較対象を持たずに自己評価をするのと同じだ、という指摘になっている。

参加者の一人が、Microsoftを理解するにはナデラだけでは足りないと補足を入れた。スティーブ・バルマーも分からなければならないし、ビルゲイツの何がすごかったのかも分からなければならない。三者三様で、どれも別の会社になっているのだから、会社がどう変わったのかが分からないとMicrosoftを分かったことにならない――という指摘である。講師はこれに全面的に同意し、「全然、意味が違うわけなんですよ、これ自体が」と応じている。

この日は前回の講義でGAFAMのリサーチを扱っていた。その続きとして、決算の数字を読むだけでなく経営者の動きも見ておきましょう、というのがこの回の位置づけである。講師は締めでもこう述べている。「なんでこんなに会社がうまくいっているのかという、全然違うでしょ。日本の経営者とやっていることはマジで全然レベチなんです。ただ適当に広告を打っておけばいいとか、勝手に商品を作って売ればいいとか、そんなことを言っているわけじゃないんで、彼らは」。

講義の直前に置かれた連絡事項――リアルイベントと懇親会

この「最強の経営者」の問いが投げられる直前、講義は一度中断され、十分近くが事務連絡に充てられている。テーマ本体とは無関係だが、当日の記録として落とさずに残しておく。

登場したのは小山氏のアシスタントを務める杉村氏で、講師から「杉ムー」と呼ばれて紹介された。用件は、翌週木曜日にあたる2025年11月13日、東京・浅草橋で開催されるリアルイベントの案内である。小山氏にとっては約3年ぶりのリアル登壇で、講師と小山氏、そしてもう一名を加えた三名が並ぶ。講師は「なかなか揃わないよね、この3人」「小山さんと登壇するのは初めてなんで」と述べている。

依頼の中身は集客ではなく人手だった。募集開始から28時間で満席となり、来場者が想定を上回った結果、当日のスタッフが足りなくなる見込みだという。杉村氏はチャットワークとLINEの連絡先を共有したうえで、手伝える参加者からの申し出を求めた。無料枠や立ち見での受け入れも調整中である旨が添えられている。

講師の応答が、この回のテーマと不意に接続する箇所がある。講師は運営側に対し「いくら売ればいいの。損益分岐点を教えてくれれば、その分だけ上げるから」「大きめに出しておいたほうがいいですよ。少なかったら本当にふざけるんで」と申し出た。イベントの赤字は自分の売上で埋めるので、その分は登壇内容を自由にやらせてもらう、という交換条件である。この日の講義でMicrosoftの横断設計を成立させた要因として名指しされたのは「営業」だった(PART 5)。その営業力を、講師自身が自分の登壇枠の裁量と引き換えに差し出している場面になっている。

登壇順についても言及があった。前半に他の二名が話し、講師は中盤に入る。「後半つまんなそうだけどね」という軽口に続けて、講師は自身が力を出せる状況をこう説明した。「アウェイのほうがいいんですよ。ドアウェイのほうが面白いので。(過去の登壇)のときみたいにひっくり返すみたいなやつのほうが面白いので、今回はアウェイ感もなさそうな感じもするので、なんか中立みたいなやつが一番面白くないからね」。会場の空気が敵対的であるほど価値を出せる、という自己認識である。

この場面には参加者どうしの軽口も残っている。講師は杉村氏を「めちゃくちゃ男前で仕事ができる」と評したうえで、「1個だけ問題点があるんですよ。静岡出身なんですよ」といじり、直後に自分も静岡出身であることを明かしている。あわせて、今週土曜日の懇親会と、その前に行われる「0次会」への参加も呼びかけられた。「0次会は悪口しか言ってないんであんまりあれですけど」という断りが入っている。

なお、この日の最後、2時間16分を過ぎたところにも運営への指示が追加されている。QRコード付きの配布物を500枚用意し、椅子に置くのではなく一人ひとりに挨拶しながら手で渡すこと。理由は「椅子に置いておくと捨てられるんで」である。あわせて500〜600本分の水の手配も指示された。配布物の受け渡し方まで接触の設計として扱っている点は、後段の「全部これも打点はプレゼンテーションと営業なんです」という主張と地続きになっている。

📌 Claude補足:この連絡事項は外部から裏取りできない
要確認本節で扱ったイベントは会員向けの私的な催しであり、開催の事実・登壇者・会場・満席までの所要時間は、いずれも当日の発言のみを典拠としている。公開情報による裏取りは行っていない。

また、講師とともに登壇する三人目の氏名、および会場の管理会社名は、文字起こしの当該箇所の音声が不鮮明であるため本レポートでは表記しない。同様に、講師が「ひっくり返した」過去の登壇として挙げた回も特定できていない。推測での補完は行わず、判別できなかったこと自体を記録する。
PART 1

売上構成比クイズ――どの1本が折れたら死ぬか

講師は説明に入る前に、参加者へ順番に問いを投げた。Appleの売上構成比を占めているのは何か。答えはiPhoneで、それだけで50%。Amazonは何か。ECで60%程度。ただし利益率で見れば圧倒的にAWSが多い。Googleは何か。広告で80%。メタは何か。広告で98%。

この並べ方には仕掛けがある。各社を「何が主力か」で見るのではなく、集中度で見ているのである。98%というのは、その1本が折れたら会社が終わるということを意味する。80%も同じである。50%や60%でも十分に危うい。そしてこのクイズの答えが出そろったところで、講師はMicrosoftを持ち出す。Microsoftだけは、独占的な広告も、独占的なECサイトも、独占的なデバイスも持っていない。

📌 Claude補足:売上集中度の実データ照合
講師が板書した概数を、直近の公表決算で確認する。

Apple:2024年度(9月期)の売上高3,910億ドルのうちiPhoneが約2,010億ドル。比率は約51%で、講師の「50%」と一致する。
Alphabet:2024年12月期の売上高3,500億ドルのうち、Google広告(検索・YouTube広告・ネットワーク)が約2,644億ドル。比率は約76%。講師の「80%」はやや上振れだが、Google Servicesセグメント全体で見れば約87%になるため、区切り方の違いの範囲に収まる。
Meta:2024年12月期の売上高1,645億ドルのうち広告が約1,603億ドル。比率は約97〜98%で、講師の数字と一致する。
Amazon:2024年12月期の売上高6,380億ドルのうちAWSが約1,076億ドル(約17%)で、残りがオンラインストア・実店舗・サードパーティ販売・広告など。広義のEC関連で6割前後という講師の整理と矛盾しない。一方、営業利益ではAWSが約396億ドルと全社営業利益686億ドルの約58%を占めており、「売上はECだが利益はAWS」という講師の指摘は数字の上でも正確である。発言と一致

いずれも各社の年次報告書(Form 10-K)による。

六角形が全部埋まっている、という評価

講師のナデラ評は、能力の総合性に置かれていた。知能家でもあり、設計家でもあり、開発もファイナンスも設計も教育も、すべての面で優れている。六角形のパラメーターがあったら全て網羅している人だ、と。対してアンディ・ジャシーは武闘派の側面が出る。ティム・クックは非常に強いが開発の部分だけが弱く、「最強ではあるけれど、どこか欠落している」という評価になる。

ナデラ=ロナウド型

足も速く、両足で蹴れて、ヘディングもできる。全部できる。講師の言葉では「知能家でもあって、設計家でもあって、全ての面で優れている」。この総合性が、事業ポートフォリオを均等に設計するという仕事に直結している、という読みである。

ジャシー=メッシ型

飛び抜けてうまいが、ヘディングができない、右足が利かないといった偏りがある。講師自身は「僕はナデラも好きだけど、それでもジャシーのほうが好き」と述べており、あの冷酷さと完全な弱肉強食の会議文化を評価している。好みと評価は別、という整理になっている。

なお講師は、経営を勉強していてナデラを知らないのは相当まずい、という言い方をしている。「スティーブ・ジョブズを知っているなら、ナデラくらいは知っておいてくれ」「経営をやっている方でナデラを知らないのは、サッカーをやっていてメッシとロナウドを知らないぐらいやばい」。これは煽りだが、後段の「本当に経営のことが分かっているなら、ジョブズがすごいとは言わずにこいつがすごいと言うはずだ」という主張につながっていく。

PART 2

営業利益率の分解――どこが崩れると死ぬのか

次に講師が板書したのは、過去5年平均の営業利益率ランキングだった。1位がMicrosoft、2位がメタ、3位がアルファベット、4位がApple、5位がAmazonという順である。そしてメタとアルファベットが高い理由を参加者に問い、「広告だから」という答えを引き出したうえで、無形と有形という軸を導入する。広告は無形資産を使っている。Appleはスマホなので有形。Amazonは流通なので両方持っている。Googleも無形と有形の両方を持っている。

ここから各社の内訳が示された。数字は講師が口頭で板書したものである。

企業営業利益率販管費率原価率講師のコメント
Microsoft46%26%28%どこも突出せず、上がったときにどこかへ転換できる仕組み
メタ42%40%18%原価率は低いが、どこよりも大きく販管費をかけなければならない
アルファベット32%26%42%システム開発の原価率が高い。サービスをどんどん出しているため
Apple32%15%54%ブランドがある分だけ販管費は少ないが、デバイスなので原価率が高い
Amazon11%38%51%実はAppleと同じぐらい原価率が高く、そのうえ販管費率も高い

図1:主要5社の損益構造(原価率・販管費率・営業利益率)。数値は当日板書された概数。出典:勉強会での発言をもとにClaude作図

この表の読み方を、講師はこう説明した。今の話は、どこかが崩れると利益率が崩れるモデルなんですよ。GAFAMでさえ。メタは販管費率が上がってしまうと営業利益率が落ちる。アルファベットもAppleも原価率が上がれば落ちる。ところがMicrosoftだけは仕組みが違う。販管費26%、原価率28%という均衡を保っているため、どちらかが上がったときにもう片方へ転換できる構造になっている、と。

Appleについては具体的な脆弱性も語られた。デバイスを作っているので原価率が高くなる。だから中国に進出して原価率を落としてきた。ところが関税や半導体価格、人件費が上がると原価率が上がってしまい、そこを叩かれるとダメージが大きい。実際にそれが起きた、というのが講師の見立てである。Amazonについても、かつては独占だったが、SHEINやTemuが出てきて独占的ECサイトの地位が崩れつつある、と補足された。

📌 Claude補足:板書された数値は、直近の実績と概ね一致する
講師が口頭で出した数字を、各社の直近通期決算と突き合わせた。

Microsoft(2025年6月期):売上高2,817億ドル、営業利益率は45.6%。板書の46%とほぼ一致する。ただし内訳は、売上原価が約31%、研究開発・販売管理費の合計が約23%であり、板書の「原価率28%・販管費26%」とは数ポイントずれる。合計(約54%)は一致しており、原価と販管費の線引きの差と見るのが妥当である。
メタ(2024年12月期):売上高1,645億ドル、営業利益率42.2%、売上原価率18.4%、営業費用(R&D+マーケ+一般管理)約39.5%。板書の42/40/18とほぼ完全に一致する。
アルファベット(2024年12月期):営業利益率32.1%、売上原価率41.8%、営業費用約26.1%。板書の32/26/42と一致する。
Apple(2024年9月期):営業利益率31.5%、売上原価率53.8%、営業費用約14.7%。板書の32/15/54と一致する。
Amazon(2024年12月期):営業利益率約10.8%、売上原価率約51.1%。板書の11/38/51と一致する。

この一致は記録しておく価値がある。5社ぶんの3指標、計15個の数値を口頭で並べて、ほぼすべてが1〜2ポイント以内に収まっている。本レポートは通常、発言と公開データの食い違いを重点的に記録するが、この箇所については食い違いがないこと自体が所見である。発言と一致

ひとつだけ留保を付けるなら、講師は「過去5年間」の平均だと述べており、上記は直近通期の単年である。5年平均で取ると、メタは2022年に営業利益率が25%まで落ちているため、Appleとの順位が入れ替わる可能性がある。順位そのものは集計期間の取り方で動く。発言との相違点
PART 3

バルマーからナデラへ――セグメントの切り直し

講師の説明は、まずバルマー時代のMicrosoftがどういう会社だったかから始まる。売上構成比は6対4で法人向けと消費者向けという分け方だった。これが基本的な指針であり、講師の表現では「大雑把にやっていた」。

ナデラはこれを切り替えた。切り替えた先がモバイルファースト、クラウドファーストである。この分け方に変えると何ができるようになるか。今まで企業向けだったものも消費者向けだったものも、モバイルにもクラウドにも持っていける。つまり顧客セグメントで切るのをやめて、提供形態で切ったということである。これによって、それまでの事業やサービスではできなかった横断が可能になった。

バルマー時代の切り方

法人向け/消費者向け。顧客の属性で分ける。この分け方だと、法人向けに作ったものを消費者向けに転用する動機が生まれない。事業部が顧客ごとに縦割りになり、サービスの横断が構造的に起きにくい。

ナデラの切り方

モバイルファースト/クラウドファースト。提供形態で分ける。法人向けだろうが個人向けだろうが、同じクラウド基盤に載る。だから同じ資産を両方の顧客に対して展開できるようになる。

そのうえで、Microsoftは3つのセグメントを持つに至る。講師が挙げたのは次の3つである。

略称正式名称主な中身10年間の成長
PBPProductivity and Business Processes(生産性とビジネスプロセス)Office、Microsoft 365、Dynamics 365など4.6倍
MPCMore Personal Computing(モア・パーソナル・コンピューティング)Windows、Surface、Xbox、Webブラウザなど1.3倍
ICIntelligent Cloud(インテリジェント・クラウド)Azure、Windows Server、GitHub、Visual Studio、OpenAI関連など4.4倍

図2:Microsoftの3セグメント売上高(2015年6月期 → 2025年6月期、単位:10億ドル)。出典:Microsoft各年度Form 10-K。Claude作図

📌 Claude補足:10年間の倍率は、決算書の数字とほぼ完全に一致する
講師が挙げた「PBPは4.6倍、MPCは1.3倍、ICは4.4倍」という倍率を検証した。

2015年6月期:Productivity and Business Processes 264億ドル/Intelligent Cloud 237億ドル/More Personal Computing 430億ドル(総売上936億ドル)。
2025年6月期:Productivity and Business Processes 1,208億ドル/Intelligent Cloud 1,063億ドル/More Personal Computing 546億ドル(総売上2,817億ドル)。

倍率を計算すると、PBPが4.57倍、ICが4.48倍、MPCが1.27倍となる。講師の挙げた4.6/4.4/1.3という数字は、四捨五入の範囲で正確である。発言と一致

構成比も確認しておく。2025年6月期は42.9% / 37.7% / 19.4%で、講師の言う「4対4対2」と一致する。AIブーム前として言及された「3対3対3」については、2022年6月期が売上高1,983億ドルに対しPBP 634億ドル(32.0%)、IC 753億ドル(38.0%)、MPC 597億ドル(30.1%)であり、おおよそ3対4対3となる。ICがやや厚めではあるが、「どこが崩れても問題ないよう均した」という主張の趣旨は数字に表れている。

なお2015年の構成比は28.2% / 25.3% / 45.9%で、MPCが半分近くを占めていた。10年でこの偏りが解消されたという事実こそが、講師の言う「設計」の実体である。

Windows Phoneだけがうまくいかなかった

講師は、モバイルファースト・クラウドファーストへの転換で唯一うまくいかなかったのがWindows Phoneだったと述べている。そのうえで、ナデラはどのように膨大な情報処理をリアルタイムに解析するかを考え、顧客だろうが法人だろうが個人だろうが関係なく一気に集めてしまう仕組みとして、クラウドのAzureを置いた。目的は顧客の情報処理を速くしてあげることであり、Office 365やDynamics 365といったCRMは、そのための生産性向上の道具として定義し直された、という説明である。

📌 Claude補足:Windows Phoneの失敗は「ナデラの失敗」ではなく「ナデラが処理した失敗」だった
ナデラのCEO就任は2014年2月4日。就任直後の全社メモで「我々はモバイルファースト、クラウドファーストの世界に生きている」と述べており、講師の説明する方針転換の時期は正確である。

Windows Phoneについては、時系列を分けて見る必要がある。ノキアの端末事業買収を決めたのは前任のスティーブ・バルマーであり、社内の複数の幹部が反対する中で押し切った案件だった。ナデラはその反対派の一人だったと報じられている。買収は2013年9月発表、2014年4月完了。そして2015年7月、ナデラは76億ドルの減損処理と7,800人の人員削減を発表した。これは当時のMicrosoft史上最大の減損であり、2012年のaQuantive減損(62億ドル)を上回った。

講師の「Windows Phoneだけはうまくいかなかった」という言い方は結果として正しいが、経営判断の帰属は逆である。ナデラの実績として評価すべきなのは「Windows Phoneを成功させられなかったこと」ではなく、前任者の目玉案件を就任1年半で全額償却し、そこから撤退したことである。3対3対3という比率を作るには、まずMPCの過大な部分を切り落とす必要があった。減損はその第一歩と読むほうが、この回の「設計」という主題には整合する。発言との相違点
PART 4

3本柱と、それを自分で崩したこと

講師の整理では、ナデラは3つのセクターに分けたうえで、それらを組み合わせたサービスを作ろうとした。情報(情報処理の基盤・スピード)、企業(企業の生産性)、個人(個人の生産性)の3本柱である。既存の商品を使って、この3つを組み合わせたサービスを設計し直す。結果としてセグメントが一気に伸び、3対3対3まで持っていった。

ここで講師が強調したのは、売上ではなく利益率のほうだった。MPCは1.3倍にしかなっていない。にもかかわらず営業利益率は上がった。デバイスという、原価が変動しやすく利益率が出にくいと言われる領域で、営業利益率を2.5倍まで持っていった。他方でクラウドやPBPはもともと利益率が高いのでそのまま維持した。この非対称な打ち手を10年で作り上げたのがナデラのすごさである、という主張である。

講師の中心的な主張:レジリエンスの設計
「Appleなんか、iPhoneが死んだら終わりでしょ。Googleとメタは広告が死んだら終わりでしょ。でもMicrosoftは1個死んでも残っちゃいます」

1個の事業がこけたら死ぬ会社はいっぱいある。それをしっかりと自社内のサービスの中でクロスさせて、レジリエンスを上げている会社が、最もMicrosoftである。ビルゲイツやバルマーがずっと凝り続けていたものを一旦破壊して、横断させるようなサービスを作ってしまった――これがナデラの仕事だ、というのが講師の結論だった。

自己反駁――なぜ今、4対4対2に崩しているのか

ここが、この回でもっとも重要な部分である。講師は説明を終えたあと、参加者に向かってこう言った。「今の説明で皆さんにちょっと疑問に思ってほしいと思う。レジリエンスを高めるために3対3対3にしたのに、なんで崩すんですかっていう質問、出ないですか。レジリエンスと反対側に行っていませんかっていう疑問、出ないですか。

この疑問が出てこなかったことに講師は不満を示しつつ、自分で答えを出している。崩したことによって投資家からは叩かれた。しかし重要なのは、崩した後に戻す能力があることだ。この会社にはその基盤がある。それがMicrosoftの仕組みなのだ、と。

この論法の構造を取り出しておく
ここで語られているのは、静的な比率の話ではない。比率そのものが目的なのではなく、比率を任意に動かせる能力が目的だという主張である。3対3対3は結果であって、目的は「どの比率にも移行できる状態」だった。だからAIという機会が来たときに一時的に4対4対2へ振ることができ、機会が去れば戻せる。

この読み方に立つと、「レジリエンス=分散を保つこと」という一般的な理解が一段修正される。レジリエンスとは分散の維持ではなく、集中と分散を往復できる可動域のことになる。講師は「懸念点も解消されたんで」と述べており、この往復可能性こそが自分の疑問への答えだ、という立て方をしている。

なお、クラウドを広げなければならない理由についても補足がある。クラウドが広がるということはソフトウェアも売れるようになるということであり、AI需要がICを膨らませればPBPも連動して伸びる。この連動が組み込まれているために、4対4対2という一見アンバランスな状態でも構造が破綻しない、という説明だった。

📌 Claude補足:「戻す能力がある」という主張に対する、9か月後の反証材料
講師の「崩しても戻せる」という主張には、セッション後に確認された二つの材料がある。ひとつは主張を補強し、ひとつは主張に負荷をかける。

補強する側:Microsoftは2024年度から2025年度にかけてAIデータセンターへ巨額の設備投資を続けたが、営業利益率は45.6%を維持している。投資フェーズにありながら利益率が落ちていないという事実は、「他の柱が支えている」という講師の説明と整合する。

負荷をかける側:AI事業の中身に集中がある。報道によれば、直近会計年度においてOpenAI関連がMicrosoftのAI売上の半分以上、おそらく7割程度を占めていたとされる。つまり4対4対2の「4」(Intelligent Cloud)の成長ドライバー自体が、単一パートナーへの依存という形をとっている。セグメント単位では分散していても、その中身では集中が起きうる。講師が示した「セグメント比率」という粒度では見えない集中リスクがここにある。要確認この売上比率はMicrosoftが正式に開示している区分ではなく、開示資料からの推計にもとづく報道であるため、本レポートは断定しない。

2026年4月の契約改定(PART 7参照)は、この依存関係そのものが変化したことを意味する。「戻す能力があるか」という問いの答えは、この改定後の数四半期に出る。
PART 5

横断を成立させたのは、営業だった

参加者から質問が出た。今の話を聞く限り、みんなが使うもの、たとえばデータ処理をどこで行うかという効率化を突き詰めたのがMicrosoftで、高い利益率を実現したように思えるが、そういう感じか。計算リソースはみんな必要で、パソコンのように分割してやるとコストがかかるから、1箇所でやって、できあがったハードウェアリソースを最大限に活用する展開をしたのがMicrosoftなのか――という問いである。

講師の答えは「それも一理ある」としつつ、付加価値をつけたのがうまかったという言い方だった。そして質問を返す。「じゃあ、それをやっておくためにMicrosoftはどんなふうに、これを横断させるためのことをやりましたか」。

講師の回答:これ全部、営業なんですよ
「全部これも打点はプレゼンテーションと営業なんです。このMicrosoftぐらいのIT企業でさえ、これを全てやってたわけです。営業で。営業がめちゃくちゃ強いんですよ。じゃないと、営業ができなかったら、こんなことを言ったら『何を言ってるんですか』で終わるわけなんです。意味が分かりません、で」

製品の横断は技術的に可能でも、それだけでは売れない。法人向けだったものを個人向けに、個人向けだったものを法人向けにカスタマイズして出す――その組み替えを顧客に納得させるのは、技術ではなく説明の仕事である。事業設計と営業力は別々の能力ではなく、後者がなければ前者は実装されない、というのがこの回での主張である。

この論点は、この日の勉強会の別の場面とも接続している。講師はセッション中盤で、月商500万円だった会員が2年で月商1.5億円・純利益1億円に到達した事例を挙げ、その要因は「プレゼン能力のアップだけだった」と述べていた。個人の売上を作るのも、世界最大級のIT企業がサービスを横断させるのも、突き詰めれば説明の力だという一貫した見方である。

文化の転換――何でも知っている人から、知らないことをなくす人へ

参加者から、ナデラは文化創造から社会実装までをやっているという指摘が出た。企業のところから、Microsoftの社内から始めて、内部のビジネスと財務・ファイナンスモデルを設計して、そこに到達して、次に社会実装に向かう――そういう順序ではないか、と。

講師はこれを受けて、社内文化の転換を説明した。スティーブ・バルマーは「何でも知っている奴になれ」という考え方だった。ナデラはそうではなく「知らないことをなくせ」という考え方である。横断的に学問も何かスキルも手に入れていけ、という発想を持っているのがナデラだ、と。この転換によってMicrosoftの社内文化が一気に変わり、Azureもどんどん良くなり、そもそもOpenAIに投資したのもMicrosoftである、という流れで語られた。

📌 Claude補足:この対比は、ナデラ自身の著書の中心概念である
講師が説明した「何でも知っている人」から「知らないことをなくす人」への転換は、ナデラが自著で用いた know-it-all(何でも知っている)から learn-it-all(何でも学ぶ)へ という定式の日本語訳にあたる。原典は『Hit Refresh: The Quest to Rediscover Microsoft's Soul and Imagine a Better Future for Everyone』(2017年、共著者はグレッグ・ショウとジル・トレイシー・ニコルズ、序文はビル・ゲイツ)である。

OpenAIへの投資については、2019年に最初の出資を行い、2023年のChatGPT普及後に100億ドルを追加、累計コミットは130億ドルと報じられている。「そもそもOpenAIに投資しているのはMicrosoftですからね」という講師の指摘は正確である。発言と一致

家庭環境と人間性――渡辺氏の補足

「家庭環境も洗ったほうがいいのかな」という講師の問いかけから、ナデラの背景に話が及ぶ。インド人であること、宗教的背景があること、父親と母親のこと、母親が学者であること。講師は「単純に技術だけではなく、文化の重要性と語学の重要性と技術の重要性を知ったうえでバランスを取ったような教育背景があると思う。だからこの視点ができてきているのではないか」と述べた。

これに対して参加者の渡辺氏が、ナデラの自伝を読んだ立場から補足を入れた。サンスクリット学者だった母親の影響で東西の言葉というものをすごく定義しており、信頼という概念を彼に植えつけている。妻が心理学的に共感性の高い人であり、インドの歴史とアメリカの歴史を突き詰めて研究していた人でもある。息子の闘病生活もそうだが、そういう自己自身の体験が、CEOになる以前から、どういう組織あるいはどういうリーダーシップを取るかというところで独自性を持たせている――という指摘である。

具体例として挙げられたのが、LinuxやOfficeシステムをAppleと共有したことだった。渡辺氏の読みでは、あれは本来自分から相手に譲ることによって、相手を議論の場、あるいは取引の場に引きずり込むことで、ひとつの動きを生むというアクションである。そういうことを計画して作り上げるには、相当大きな代償と計画性がないとできない。その辺りの人間性に惹かれてきている、と述べた。講師も「リーダーシップもすごいですからね」と応じている。

📌 Claude補足:家族背景の事実確認
母親のプラバヴァティ氏はサンスクリット語の講師であり、渡辺氏の「サンスクリット学者だった母親」という記述は正確である。父親のブッカプラム・ナデラ・ユガンダール氏は1962年入省のインド行政職(IAS)の官僚だった。講師は「お父さんが確か20歳で、お母さんが……学者さんなんですよ」と述べていたが、文字起こしの当該箇所は音声が不鮮明であり、父親についての具体的な記述は本レポートでは行わない。

息子のザイン氏は出生時の仮死状態により脳性麻痺を負い、2022年に26歳で亡くなっている。ナデラは2017年の『Hit Refresh』の中で、ザイン氏の誕生が自分自身を人として成長させる必要を突きつけたと率直に書いている。渡辺氏の「息子さんの闘病生活もそう」という指摘は、この記述を指していると読める。発言と一致

セールスフォースとの関係についても言及があった。マーク・ベニオフとスティーブ・バルマーが激しく対立していた状態を、ナデラは1年で解消したという指摘である。講師は「まあ、その後のことは置いといて」と一言添えている。

📌 Claude補足:和解は事実だが、講師が「置いといて」と言った先が現在進行形になっている
バルマー時代、Microsoftとセールスフォースは「実質的に意味のある協業を何もしていなかった」と評される関係にあった。ナデラ就任後、2014年5月に両社は製品横断の検討を開始し、2015年には協調関係が本格化している。「1年で解消した」という講師の説明は、この経緯とほぼ一致する。発言と一致

講師が「その後のことは置いといて」と述べた部分については、記録しておく必要がある。2025年から2026年にかけて、ベニオフはMicrosoftのCopilotを公然と批判し、両社の対立は再燃している。また講師自身が触れているとおり、セールスフォースがAWSに接近したことが摩擦の一因になったとされる。「和解した」という事実と「和解が続いている」という主張は別である。この回の文脈でナデラの功績として挙げられているのは前者であり、その限りでは正確だが、恒久的な関係改善とまでは言えない。発言との相違点
PART 6

需要のないところに需要を作る――買収とエコシステム

講師のまとめはこうだった。ナデラが何をやったかというと、需要がないところに需要を作り出していったのである。これは顧客向け、これは企業向け、という区分をやめる。企業向けのものを顧客向けに出し、個人向けに出し、個人向けのものも企業向けにカスタマイズして出す。それによってエコシステムがどんどん大きくなっていく。囲い込みのような状態を作る。おまけにゲーム会社も「どれだけ買収するんだ」というぐらい買収していった、と。

ここで参加者へのクイズが出た。Microsoftが買収した会社を言える人はいるか。兆円規模で買収したところが2つあり、それ以外にも5〜6社ある。参加者から「LinkedInも買収していますし」という答えが出る。そして講師の追加の問い――「この数年間で一番話題になったMicrosoftの案件で、独占禁止法でずっと裁判していた会社はどこでしょう」に対して、「アクティビジョン・ブリザード」という答えが返った。

📌 Claude補足:主要買収と、FTC訴訟の顛末
アクティビジョン・ブリザード:2022年1月に687億ドルで買収を発表。米連邦取引委員会(FTC)はクレイトン法第7条違反のおそれがあるとして差止めを求めたが、2023年7月10日、連邦地裁のジャクリーン・スコット・コーリー判事は5日間の審理を経てFTCの仮差止請求を却下した。買収は2023年10月に完了。FTCは控訴審でも敗れ、2025年5月に行政審判の申立てを正式に取り下げた。講師の言う「独占禁止法でずっと裁判していた」という表現は、この3年半の経緯を指している。発言と一致

LinkedIn:2016年に約262億ドルで買収。Nuance Communications:2021年発表・2022年完了で約197億ドル。講師の「兆円規模が2つ」はアクティビジョンとLinkedInを指すと読むのが自然だが、Nuanceも約3兆円規模であり、円換算では3件が該当する。要確認講師が念頭に置いていた2件の特定は、発言からは確定できない。

補足として記録しておくべき点:アクティビジョン・ブリザードはMPC(More Personal Computing)セグメントに計上される。売上が1.3倍にしか伸びていないMPCで営業利益率を2.5倍にした、という講師の説明と、この687億ドルの買収は同じセグメントの出来事である。「伸びていない事業」に史上最大の買収を打ち込んでいるという事実は、単純な「低成長事業の効率化」とは異なる読み方を要求する。
PART 7

社債利回りが国債を下回るという異常――と、9か月後の答え合わせ

セッション終盤、参加者の藤川氏から出た質問をきっかけに、講師は最後の論点を提示した。企業の金利と国債の金利はどちらが高いか。通常は企業のほうが高い。ではなぜ、Microsoftの社債利回りはアメリカの国債より低いのか。

講師の説明はこうである。過去のデータを見ると、ロシア危機、アルゼンチン危機、ギリシャ危機のようなときには、国債の利回りが会社の社債を上回る。国債が社債を上回るというのは金融危機のサインになる。ところがアメリカではそうならない。にもかかわらずMicrosoftの社債利回りが国債より低いということは、そこにMicrosoftの信用度が現れている、と。

さらにデリバティブの側面にも触れられた。CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)で見ると、危機的状況になるとソブリンのCDSが跳ね上がり、企業のCDSより高くなる。そこを見るとMicrosoftのすごさがさらに分かる。企業分析をするならそこまで見る必要があり、それによってその会社の基盤の強さが見えてくるというのが講師の主張だった。

講師はこのテーマについて「それを喋るとまたすごい時間がかかりそうなので、YouTubeで撮っておくので是非見といてください」と述べ、この日は深追いしていない。加えて「利回りが国債より低いということは、もちろんWACCが落ちるわけじゃないですか。営業利益率があれだけあるということはROICが上がるわけじゃないですか。って考えたら買いでしょ、となるんです」「これがナデラになってから一気に変わり始めた」と結んでいる。

📌 Claude補足:この現象は実在するが、常態ではない
「Microsoftの社債利回りが米国債を下回る」という現象は実際に観測されており、報道もされている。ただし補足が必要である。

常時そうなっているわけではない。平時においては、AAA格の社債であっても国債よりわずかに高い利回りで取引されるのが通常である。実際、同じくAAA格のジョンソン・エンド・ジョンソン債が米国債に対して数ベーシスポイントの上乗せで取引されている例が確認できる。逆転が起きるのは、米国債側に固有の懸念が出たとき――たとえば債務上限問題でデフォルト期日が意識される局面などである。実際、債務上限をめぐる緊張が高まった局面で「Microsoft債のほうが短期国債より安全と見なされている」という趣旨の報道が出ている。

格付けについて:MicrosoftはS&Pから最上位のAAA格を付与されている数少ない米国企業のひとつで、ジョンソン・エンド・ジョンソンと並び称されることが多い。講師の「信用度に直結する」という指摘は、この格付け構造を指していると読める。発言の方向と一致

なお、この「国債より低い社債利回り」というテーマ自体は、この勉強会シリーズの別の回で1本まるごと扱われている。本レポートでは、講師がこの日「時間がないのでYouTubeで」と述べて深追いを避けた経緯を記録するにとどめ、理論的な掘り下げはそちらに委ねる。

9か月後(2026年8月時点)の答え合わせ

このセッションは2025年11月7日に行われた。約9か月が経過した現在から、当日の議論に関係する事実を確認しておく。

当日(2025/11/7)の論点2026年8月時点で確認できること
Microsoftは3対3対3から4対4対2へ偏っているが、戻す能力がある営業利益率は45.6%(2025年6月期)を維持。ただしIC成長の相当部分がOpenAI関連に依存していたと報じられており、セグメント比率の粒度では見えない集中がある
そもそもOpenAIに投資しているのはMicrosoftセッションの10日前(2025年10月28日)にOpenAIの営利法人化が完了し、Microsoftは約27%・評価額1,350億ドル相当の持分を取得。2032年までの技術アクセス権も確保した
横断とエコシステムによる囲い込み2026年4月27日、両社は契約を改定。Microsoftの技術ライセンスは2032年まで継続するが独占ではなくなり、OpenAIは他社クラウドでも提供可能になった
ナデラがChatGPTを世の中に広げたAzureは引き続きOpenAIの主要クラウドであり最新製品への先行アクセスを維持。ただし排他性は解消された
この答え合わせが示していること
講師は「なぜAIが結局ナデラで流行ったんでしょ、ダボスで。皆さんが使っているChatGPTだって皆さんの手に届くようにはならなかったわけじゃないですか。これを誰が広げたって、ナデラが広げているんですよ」と述べた。この評価自体は妥当である。

しかし、そこで作られた関係はセッションの5か月後に構造が変わった。2026年4月の改定でMicrosoftは独占的ライセンスを失い、OpenAIは競合クラウドでも展開できるようになった。「囲い込み」というエコシステム設計の中核部分が、AI領域については解除されたということである。

これは講師の分析が外れたという話ではない。むしろ講師が示した「レジリエンス=崩しても戻せる能力」という枠組みの検証が、この改定によって初めて実データで可能になった、と読むべきである。独占を失った後に4対4対2が3対3対3へ戻るのかどうかが、この主張の検証条件になる。
PART 8

脱線から拾える論点――他に誰を見るべきか

講師は「これ、氷山の一角ですよ」と述べ、ナデラだけを見て終わりにしないでほしいと釘を刺した。そして他に見るべき経営者の名前が次々に挙がる。

まずアジェイ・バンガ。前田氏が過去に取り上げていた人物として言及され、「マスターカードの彼も、ものすごい素晴らしい経営者だと思う」「アジェイ・バンガについて調べたことがある人いますか。彼が何をやったのか。マジで化け物ですよ」と述べられた。参加者からは、説得力が増すようにロジカルに伝えるためにどう伝えたらいいかという言葉を選び、ステップを非常にしっかり刻んでいるという評価が加えられている。

次にモリス・チャン。「20世紀ですごい人。あれだけ見事に、ファイナンスだけ見てもものすごい設計じゃないですか」「どうやってエコシステムを考えて作り出したのか、何を元にしてエコシステムを作り出したのか、どうやって依存性を生み出すのか」。加えて、テキサス・インスツルメンツにずっといたこと、そしてストックオプションを拒否したという逸話が語られた。

さらに、最近ではジェンスン・ファンも化け物的な行動をしており、サム・アルトマンもすごい、イーロン・マスクは廃れてきている、という評価が並ぶ。そして講師が「最近一番感動した」と述べたのが、TikTokの周受資(ショウ・ジー・チュウ)によるアメリカ議会公聴会での立ち回りだった。「あんな人には勝てないと思います。あんだけフルボッコにされておいて曲げなかったですから」「あの公聴会、マジでいじめだった。ただのリンチ状態でした」。それでも結果として味方を増やしてしまった、というのが講師と参加者の一致した評価である。

📌 Claude補足:挙げられた3名の事実確認
アジェイ・バンガ:2010年7月から2020年12月までマスターカードの社長兼CEO。在任中に同社の売上は3倍になり、時価総額は300億ドル未満から3,600億ドル超へ拡大した。2023年6月からは世界銀行グループ総裁を務めており、同職に就いた初のインド系アメリカ人である。講師の「化け物」という評価は、この時価総額12倍という実績を指していると読める。発言と一致

モリス・チャン:1958年にテキサス・インスツルメンツに入社し、25年間在籍して半導体事業の上級副社長まで昇進。1984年に同社を去り、1985年に台湾政府に招かれて工業技術研究院の院長に就任。1987年、56歳のときにTSMCを創業し、世界初の純粋ファウンドリという事業形態を立ち上げた。講師の「ずっとTIにいた」「エコシステムを作り出した」という説明は経歴と一致する。要確認ただし「ストックオプションを拒否した」という逸話については、本レポート作成時点で裏取りができていない。

周受資(ショウ・ジー・チュウ):シンガポール国籍。2023年3月23日、米下院エネルギー・商業委員会の公聴会に出席し、5時間以上にわたり質問を受けた。ByteDanceとの関係、データの取り扱い、未成年への影響などについて超党派の議員から追及された。講師が「40代前半」と述べた点も、当時40歳という報道と一致する。発言と一致なお「結果的に味方を増やした」という評価については、公聴会後に一部で同情的な反応が生まれたことは報じられているが、定量的な検証はできないため講師と参加者の見解として記録する。

最後に、日本市場についての苦言が置かれている。こういう経営者の判断やアドバイスを見ているとすごいと思うのに、日本人はそれよりも令和の虎やリアルバリューに必死になっている、というものである。「僕、リアルバリューって何回か見たんですけど、何を言っているか、やっぱり分からないんですよ」「誰かが切れているのを見て、あ、怒っている、というぐらいなんで」。参加者からは「側の話しかしていないですからね」という応答があった。

この脱線が主題に接続する点
講師は続けて「多分ほとんどの人が、孫正義がなぜすごいのかも分からない人のほうが多いと思いますよ。稲盛さんがどれだけすごかったのか」と述べている。PART 0で提示された「最強の経営者を説明できるか」という問いに戻っている。

ひとつだけ例外が付け加えられた。講師は日本の経営者について概ね肯定的に触れたうえで、「僕、松下幸之助だけはちょっと認めてないので。あの人だけは、個人的な理由としてね。あの人はちょっと論外ですけど、まあ他の人は素晴らしいなと思うんですけど」と述べている。理由は語られておらず、講師自身が「個人的な理由」と明示している。本レポートは論拠の示されていない人物評を検証も補強もせず、発言があったという事実のみを記録する。

この回の構造は円環になっている。説明できないということは、見るべき水準を持っていないということであり、見るべき水準を持っていなければ、自分の事業をどこへ持っていけばいいのかも決められない。Microsoftの損益分解を1時間かけて実演したのは、その水準を具体的に見せるためだった、と読める。
Q&A

質疑応答

Appleの売上構成比を占めているのは何ですか。

iPhone。それだけで50%になっている。Amazonは売上で言うとECで60%程度だが、利益率では圧倒的にAWSが多い。Googleは広告が80%、メタは広告が98%。

(メタとアルファベットの)営業利益率が高い理由は分かりますか。

広告だから。無形資産を使っている。Appleはスマホなので有形。Amazonは流通で、無形と有形の両方を持っている。Googleも両方持っている。(編注:Amazonの利益率はアンディ・ジャシーになってから変わった、という補足があった。

サティア・ナデラを知らない人はどれぐらいいますか。

経営を勉強するというところでナデラを知らないのは結構やばい。スティーブ・ジョブズを知っているなら、ナデラくらいは知っておいてほしい。(参加者からの補足:Microsoftを理解するには全員を知らないといけない。スティーブ・バルマーも分からなければならないし、ビルゲイツが何がすごかったのかも分からなければならない。三者三様で別の会社になっているのだから、会社がどう変わったのかが分からないとMicrosoftが分かっていないのと同じ。

今の話を聞く限り、データ処理をどこで行うかという効率化を突き詰めたのがMicrosoftで、高い利益率を実現したように思えるのですが。計算リソースはみんな必要で、パソコンのように分割するとコストがかかるので、1箇所でやって、できあがったハードウェアリソースを最大限に活用する展開をしたのがMicrosoftなのかなと。

付加価値をつけたのがうまかった。それも一理ある。ただ、それをやっておくためにMicrosoftはどうやって横断させたのか。これは全部営業なんですよ。打点はプレゼンテーションと営業。MicrosoftぐらいのIT企業でさえ、これを全てやっていた。営業がめちゃくちゃ強い。営業ができなかったら「何を言ってるんですか」で終わる。

(藤川氏)企業の金利と国債の金利は、どちらのほうが高いでしょうか。

通常は企業。ではなぜMicrosoftの社債利回りはアメリカの国債より安いのか。ロシア危機、アルゼンチン危機、ギリシャ危機などでは国債の利回りが社債を上回り、それが金融危機のサインになる。だがアメリカはそうならない。にもかかわらずMicrosoftの社債が国債より低いということは、そこに信用度が現れている。CDSの部分も見るとさらに分かる。企業分析をするならそこまで見る必要がある。時間がかかるのでYouTubeで撮っておく。

レジリエンスを高めるために3対3対3にしたのに、なぜ崩すのですか。レジリエンスと反対側に行っていませんか。

編注:この質問は参加者からではなく、講師が「この疑問が出ないですか」と自ら提示したものである。)実際そこのレジリエンスが崩れ始めており、崩したことによって投資家から叩かれた。しかし重要なのは、崩した後に戻す能力がこの会社にはあるということ。その基盤を作ったのがMicrosoftの仕組みである。

Microsoftが買収した会社を言える人はいますか。

(参加者)LinkedInも買収しています。(講師)兆円規模で買収したところが2つあり、それ以外にも5〜6社ある。この数年間で一番話題になった、独占禁止法でずっと裁判していた会社は――(参加者)アクティビジョン・ブリザード。(講師)そう、アクティビジョン・ブリザード。

この人(ナデラ)こそ、文化創造から社会実装までやっているという意味で、さっきのミルに重なる部分があるのではないですか。

まさにそう。企業のところからMicrosoftの社内で始めて、内部のビジネスと財務・ファイナンスモデルを設計して、そこに到達して、次に社会実装へ。社内文化も変えた。もともとスティーブ・バルマーは「何でも知っている奴になれ」という感じだったが、そうではなく「知らないことをなくせ」という考え方を持っているのがナデラである。

家庭環境なども洗ったほうがいいのでしょうか。

ちなみにインド人。宗教的背景もある。母親が学者。単純に技術だけではなく、文化の重要性と語学の重要性と技術の重要性を知ったうえでバランスを取ったような教育背景があると思う。だからこの視点ができてきているのではないか。

(渡辺氏)僕は逆に、ナデラの人間性から『Hit Refresh』を読んでいたので、そこで彼の人間性にすごく触れました。

サンスクリット学者だった母親の影響で、東西の言葉というものをすごく定義していて、信頼というものを彼に植えつけている。奥さんが心理学的に共感性の高い人で、インドの歴史とアメリカの歴史を突き詰めて研究していた人でもある。息子さんの闘病生活もそうだが、そういう自己自身の体験が、CEOになる以前から、どういう組織あるいはどういうリーダーシップを取るかというところで独自性を持たせている。LinuxやOfficeシステムをAppleと共有したことも、本来は自分から相手に譲ることによって相手を議論の場に引きずり込み、ひとつの動きを生むというアクションだと思う。それを計画して作り上げるには相当大きな代償と計画性が必要で、その辺りの人間性に惹かれている。

アジェイ・バンガについて調べたことがある人はいますか。

彼が何をやったのか。マジで化け物ですよ。マスターカードの彼もものすごい素晴らしい経営者だと思う。(参加者:あの方のプレゼンテーションもすごいと思っていて、説得力が増すようにロジカルに伝えられるようどう伝えたらいいかという言葉を選び、ステップを非常にしっかり刻んでいる。参考にしやすいモデルになっている。

(ルメルトについて)マイキーさんは2012年から、ルメルトが戦略的にすごくよく考えられているという提唱の仕方をしているので、なぜその時から目をつけられたのかという話ですが。

ルメルトがなぜそんなことを提唱したのかということをちゃんと調べるというのも重要だと思う。(編注:これは参加者からの発言で、講師はこれを受けて次の話題――ファーウェイの任正非など――へ移っている。

(TikTokの公聴会について)あんな意地悪な質問をされて、あの公聴会は本当にいじめでしたよね。

ただのリンチ状態だった。でも結果的にあの人は味方を増やしてしまった。シンガポール人で、まだ40代前半。あの立ち回り方がすごい。あんな経営者と戦えと言われても、戦う方法が見出せない。

HOMEWORK

宿題・アクションアイテム

  1. 自分にとっての「最強の経営者」を1人決め、その人の何がすごいのかを説明できる状態にする。スポーツ選手について語れる水準と同じ解像度で語れるかを基準にする。名前を挙げるだけでは足りない。
  2. 世界のトップ企業の売上構成比と利益構造を自分で調べる。講師の言葉では「そもそも世界のトップ企業の事業形態が分からないという意味が分からない。じゃあ誰を目安にビジネスをしているのか」。営業利益率が高い理由を、無形/有形、原価率/販管費という軸で説明できるようにする。(当日の講義では、この問いに答えられなかった参加者へ「全員レポートを出してください」という宿題が出された。)
  3. Microsoftの3セグメント(PBP・MPC・IC)の推移を10年分並べる。売上の伸びと利益率の伸びを分けて見ること。売上が1.3倍にしかなっていないMPCで、なぜ営業利益率が2.5倍になったのかを自分で説明できるようにする。
  4. 「なぜMicrosoftの社債利回りが米国債より低いのか」を調べる。講師はこのテーマについてYouTubeで解説する予定だと述べている。WACCとROICの関係、CDSとソブリンCDSの逆転が何を意味するかまで踏み込むこと。
  5. アジェイ・バンガとモリス・チャンを調べる。それぞれが何をやったのか、どうやってエコシステムを作り、依存性を生み出したのかという観点で読むこと。
  6. ルメルトがなぜあの戦略論を提唱したのかを調べる。結論だけでなく、提唱に至った背景を追うこと。
  7. アンディ・ジャシー版、イーロン・マスク版、ピチャイ版の事業設計も同じ形式で読み解いてみる。講師は「一番分かりやすいのがナデラの事業設計の組み方」と述べており、これは他社にも適用できる読み方として提示されている。
GLOSSARY

用語集

PBP(Productivity and Business Processes)Microsoftの報告セグメントのひとつ。Office、Microsoft 365、Dynamics 365など、生産性向上とビジネスプロセスに関わる事業群。
MPC(More Personal Computing)Microsoftの報告セグメント。Windows、Surface、Xbox、検索・ブラウザなど、個人向けコンピューティングに関わる事業群。原価が変動しやすく利益率が出にくいとされる領域。
IC(Intelligent Cloud)Microsoftの報告セグメント。Azure、Windows Server、GitHub、Visual Studio、AI関連サービスなど。AIブーム下でもっとも伸びた領域。
モバイルファースト/クラウドファーストナデラが2014年の就任直後に掲げた方針。顧客属性(法人/個人)ではなく提供形態で事業を切り直すという発想の転換を表す。
レジリエンス一般には回復力・耐久力。この回では「1本の事業が折れても会社が死なない状態」を指し、さらに講師の議論では「集中と分散を往復できる可動域」という意味に踏み込んでいる。
原価率/販管費率売上高に対する売上原価と販売費及び一般管理費の比率。この2つと営業利益率の合計が100%になる。どこにコストが偏っているかで事業モデルの脆弱性が読める。
無形資産/有形資産広告やソフトウェアのように物理的実体を持たない収益源と、デバイスや流通のように物理的実体を伴う収益源の対比。原価率の高低を分ける主要因として扱われた。
WACC(加重平均資本コスト)企業が資金調達に要するコストの加重平均。負債コストが下がればWACCも下がる。社債利回りが低いこととWACCの低さは直結する。
ROIC(投下資本利益率)投下した資本がどれだけ利益を生んだかを示す指標。WACCを上回るROICを継続的に出せるかが企業価値創造の条件とされる。
CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)債務不履行リスクを取引するデリバティブ。ソブリンCDSが企業CDSを上回る局面は、国の信用が企業を下回っていることを示すサインとして読まれる。
know-it-all / learn-it-allナデラが著書『Hit Refresh』で用いた対比。「何でも知っている」文化から「何でも学ぶ」文化への転換をMicrosoftの再生の核に置いた。
ファウンドリ(純粋受託製造)自社製品を持たず、他社設計の半導体製造だけを受託する事業形態。モリス・チャンが1987年のTSMC創業時に確立した。