Red〜Tealの5段階・TSLとLMXの違い・50:50に近づける関係性設計
この回のレポートは全4本に分割しています。本ファイルはその3本目、テーマは「ティール組織とリーダーシップ」です。
フレデリック・ラルーが2014年に提唱したティール組織の5段階(Red/Amber/Orange/Green/Teal)を、それぞれの特徴・メリット・デメリットとともに整理するパートである。多くの組織が実力主義のOrange段階で足踏みしており、Tealが要求する高い自律性の文化は指示待ちの日本と真逆であるという指摘も扱う。
各段階に対応するリーダーシップ理論をマッピングし、外発的動機づけのTSL(交換型)と内発的動機づけのLMX(リーダー・メンバー交換理論)が、どちらも「差をつける」という同じ心理メカニズムでありながら決定的に異なる点を掘り下げる。放置すれば6:4、7:3、8:2に傾く力関係を50:50に近づける具体策も語られている。
変革期に社員が組織に残るかどうかは、外発的動機づけと内発的動機づけのどちらが効いているかで分かれるという議論から、本人が作り会社が土台を支えるキャリアデザインという帰着点まで扱う。マイキー氏が「NVIDIAが近いかもしれない」と挙げた例や、セールスフォース・マイクロソフト・ソニーの例を引きながら、金銭報酬以外の設計についても触れている。
前回金曜日に提示したティール組織を、今回はリーダーシップ理論と接続するために再整理した。
ティール組織はフレデリック・ラルー(Frederic Laloux)が2014年に提唱したモデルで、生命体のように自律的に進化する組織をどう作るか、その条件は何かを論じたものである。組織の発達を5段階に分けている。
| 段階 | たとえ | 特徴 | メリット | デメリット・限界 |
|---|---|---|---|---|
| Red (衝動型) | 動物の群れ | 圧倒的な力を持つボスが支配。恐怖と報酬で統制する | 危機的状況での意思決定が極めて速い。圧倒的な突破力とスピード | ボスの一存で全てが決まるため変化しにくい。短期目標は達成できるが長期に弱い。リーダーが終わると全て終わる |
| Amber (順応型) | 軍隊・役所 | ピラミッド型。役割分担があり、規律とプロセスを重視 | 大規模組織でも統制が取れる。安定性がある | 変化にめっぽう弱い。柔軟性がなく前例主義。硬直化してルール変更がしにくい |
| Orange (達成型) | 機械 | 完全な実力主義。目標達成を重視し、効率性と競争で成果を最大化する | 効率性と改善の追求。短期的な経済的成功 | メンバーが機械の部品のように扱われる。競争が厳しく燃え尽き症候群が起きやすい。人が疲弊していく |
| Green (多元型) | 家族 | メンバーの感情とエンゲージメントを重視。合意形成による意思決定 | 心理的安全性が高い。高い帰属意識。チームワークが生まれやすい | コンセンサス・パラドックス——合意形成に時間がかかる。仲良しクラブになりがち。結局リーダーが判断する状況に戻ることも |
| Teal (進化型) | 生命体 | 各メンバーが自律的に連携。管理も指示もできる限り少ない | 究極の柔軟性とスピード。個人の才能が完全に解放される | 実際にこんな組織は世の中に存在しない。必ず組織の中にバグがいるため |
Tealが成立するには、従来のマネジメントではなくメンバー個々の高い自律性と能力に完全に依存する。求められるのは高いセルフマネジメントであり、そもそもメンヘラが存在しないことが前提になる。
そしてここは日本と真逆である。指示待ちの文化ではなく自律の文化——自分で判断し、自分で責任を取り、自分で行動する。マイキー氏の見立てでは、これが実在しない最大の理由がここにある。
フレデリック・ラルー(Frederic Laloux)は元マッキンゼーのアソシエイト・パートナー。『Reinventing Organizations』(2014年、邦題『ティール組織——マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』)で、組織の発達段階を人類の意識段階の進化と対応させて色分けした。
正式にはRed(衝動型)→ Amber(順応型)→ Orange(達成型)→ Green(多元型)→ Teal(進化型)の5段階(さらに前史としてInfrared/Magentaを置く整理もある)。Tealの3つのブレークスルーとして①セルフマネジメント(自主経営)、②ホールネス(全体性)、③エボリューショナリーパーパス(存在目的)が挙げられる。
ラルーの理論的下敷きはケン・ウィルバーのインテグラル理論およびスパイラル・ダイナミクスであり、実証研究というより12社の事例研究にもとづく記述的モデルである点は、批判も含めて押さえておく価値がある。マイキー氏の「これはあくまでラルーが言っていることであって、実際こんな組織はございません」という留保は的確である。
マイキー氏は、5段階それぞれに求められるリーダーシップを整理した。Orange以降の対応づけは、マイキー氏自身が考えた独自の整理であると明言されている。
| 段階 | 求められるリーダーシップ | 内容 |
|---|---|---|
| Red | 支配力とカリスマ性 | そもそも理論以前の問題 |
| Amber | 官僚的リーダーシップ/パターナリズム | 村の「家長・お父さん」型。ルールを守らせることを重視 |
| Orange | TSL(交換型リーダーシップ) | 成果を出せば報酬を与えるという交換条件で人が動く |
| Green | LMX理論、TFL(変革型)、シェアード・リーダーシップ、SL型(状況対応型) | 関係性と信頼、内発的動機づけ、状況に応じた対応 |
| Teal | サーバント・リーダーシップ、オーセンティック・リーダーシップ | 理論上の到達点。ただし「的確なだけ」であって、そうでない部分もある |
板書の途中でTSLがGreenの欄に入ってしまい、参加者から指摘があった。TSL(交換型)とTFL(変革型)はまったく別物であり、Greenに入るのはTFL側である。マイキー氏の言葉:「TSL、飴と鞭はGreenでやっちゃいけない」。
ここが本セッションで最も重要な論点である。マイキー氏は「TSLとLMXは心理的メカニズムが同じ」だと指摘する。どちらもえこひいきをする、差別化をする、格差を作るという点で共通している。だが決定的に違う。
飴と鞭。やったら褒める、失敗したら叩く。
基準はルールと条件。公平性重視で、全員に一律の評価を出す。
動機づけは外発的——お金、評価、恐怖といった外部から来るもの。
仕組みで回すので管理コストは安い
えこひいきと信頼の差。関係性と信頼をどう構築するか。
基準は特定の個人に対する親密度。個別に向き合う。
動機づけは内発的——やりがい、承認、責任。
1人ひとりと向き合うので管理コストは高い
Orange段階のリスクは明確だ。
①飴がなくなると人はやる気を失う。②飴をもらうともっと欲しくなる。③しかし飴には限界がある。
したがってどこかのタイミングで、飴から内発的動機づけへ切り替えなければならない。その段階がGreenである。
ただしGreenにも副作用がある。内発的動機づけが効き始めると今度は外を見始める。アウトグループへの不満が生まれ、離れやすくなる傾向が出る。人はやはり飴も欲しいので、外部と比較し始めるのである。
マイキー氏の結論は明確である。ほとんどの組織はRed・Amber・Orangeの範囲で回っている。そしてほとんどの人が欲しがるのは、Tealに必要なサーバント/オーセンティック・リーダーシップである。しかしそれは「アトモスフィア(雰囲気)の話」にすぎない。部分的に取り入れるのは構わないが、リーダーシップとして本気で考えるなら違う。
TFLはすでに出来上がっている。だからLMX理論とSL型(状況対応型)をどう作っていくかが焦点になる。LMXは「えこひいき」だが、一番のポイントは1人ひとりと向き合っていくことである。だからコストが莫大にかかる。それでもGreen型に持っていく土台を作るならここが要になる。
心理的安全性もリーダーと接することで高まる人がいる。そこでどういうコミュニケーションを取るかが決定的に重要になる。
LMX理論で決定的に重要なのは関係性である。下が上に意見を言いやすい環境か。上が下に納得させられるか(センスメイキング)。そしてこれがメンバー→リーダー→課長→部長→役員→社長と連動して機能しているか。
LMXで絶対に必要なのはお互いが対等に言い合える関係である。しかし放置すれば必ず上の方が強くなり、力関係は6:4、7:3、8:2へ傾いていく。
これをどうやって50:50まで下げてあげるかというコミュニケーションが決定的に重要。具体的にはまずリーダーが一度受け止め、そのうえで案を出す。したがってリーダーには相当な素質とスキルが要求される。
逆に、それをやらずに売上の方だけ向いて「売上を上げろ」とやると、組織はOrangeになる。
投資家目線での質問に対して、マイキー氏は次のように答えた。何かを変革するときには、たいていの企業で業績は落ちる。そのとき売上・利益に応じて給料が決まる仕組み(=外発的動機づけ)だけなら、人は離れる。しかしGreenで内発的動機づけが効いていれば、結果として人は残る。
「俺は給料のためにここにいるんじゃない。これを実現したいからこの組織にいるんだ」という内発的動機が強くなることで、最終的に恐怖や金銭といった外部要因に囚われない社員が生まれる。これがベストな状態である。
Greenへの移行には莫大なコストがかかるが、それは時間的コストであって、最終的に金銭的コストは下がる。リテンションコストが下がり、帰属意識が高まり、コミット量が上がる。マイキー氏は「NVIDIAが近いかもしれない」と付け加えた。
参加者から、自社では金銭報酬以外に成長報酬・人脈報酬・精神報酬の3つを設計しているという実務事例が共有された。マイキー氏の評価は「めちゃくちゃいい」「それだけでも十分」というものだったが、より重要な点を付け加えた。
キャリアデザインを押し出しているのがセールスフォースやマイクロソフトであり、ソニーも取り入れ始めたことで成長している、というのがマイキー氏の見立てである。
キャリアデザインは本人が作るもの。会社の役目はその土台を作り、サポートすること。そしてそのキャリアデザインが実際に会社の役に立つという仕組みを設計するところまでがリーダーの仕事になる。
「外部に行っても通用する、外部に行っても戦える人材を作る」——組織には「その技量はいらない」「その能力はいらない」とされるものが必ずあるが、それを活用する場所を作ってあげるのもリーダーの役目である。
TSL=Transactional Leadership(交換型/取引型リーダーシップ)/TFL=Transformational Leadership(変革型リーダーシップ):いずれもバーナード・バス(Bernard M. Bass)が1985年に体系化した対概念。バスはジェームズ・マクレガー・バーンズ(1978)の政治学的議論を組織行動論に持ち込んだ。
LMX=Leader-Member Exchange(リーダー・メンバー交換理論):グラエン(George Graen)らが1970年代に垂直二者連結モデル(VDL)として提唱し、後にLMXへ発展。リーダーは全部下に均一に接するのではなく、イングループ(高LMX)とアウトグループ(低LMX)という質の異なる交換関係を個別に築く、という記述が核心。マイキー氏の「えこひいき」「アウトグループへの不満」という表現は、理論の用語をそのまま使っている。
SL=Situational Leadership(状況対応型リーダーシップ):ハーシー&ブランチャード(Hersey & Blanchard, 1969〜)。部下の成熟度(レディネス)に応じて指示的行動と支援的行動の比率を変える。
サーバント・リーダーシップ:ロバート・グリーンリーフ(Robert K. Greenleaf, 1970)。まず奉仕し、その結果として導く。オーセンティック・リーダーシップ:ビル・ジョージらが2000年代に提唱。自己認識・関係の透明性・内面化された道徳観を柱とする。シェアード・リーダーシップ:リーダーシップを役職ではなくチーム内で分有される影響力として捉える考え方。
センスメイキング理論:カール・ワイク。組織メンバーが不確実な状況に意味を与え、納得を形成していくプロセス。マイキー氏が「上が下にちゃんと伝えられる関係値」の文脈で言及した。