この回のレポートは全2本に分割しています。本ファイルはその2本目、テーマは「セキュリティ勢力図」です。
防御側もAIでの対抗を迫られているサイバーセキュリティ業界を、端末を守るSOC、ネットワークを守るSASE、クラウドを守るCNAPPの3領域に整理し、市場規模・成長率・利益率・スイッチングコストの観点から相対比較する。そのうえで同じSOC領域で強さを持つPalo Alto Networks・CrowdStrike・Microsoft3社の戦略の違いを、自社開発による囲い込み型・他社製品を集約する連合型・OS標準搭載型という切り口で比較する。
業界再編の動きとして、Palo Alto NetworksによるCyberArk買収、GoogleによるCNAPP最強企業Wiz買収を取り上げるほか、2024年に発生したCrowdStrike障害とその後のMicrosoftによるカーネルアクセス見直し、2026年10月1日施行の日本「サイバー対処能力強化法」による報告義務化にも触れる。
Fortinet・Check Point・Zscaler・CloudflareはSASE領域で比較するのが適切とする位置づけの議論(Zscalerには「絶望的」という厳しい見立ても示された)、CrowdStrikeがSOC領域で強い理由、MicrosoftとEUの独占禁止法の関係を問う質疑応答を扱うほか、Wizの動向調査や日本の法制度への対応確認、今回の内容をYouTube向けに複数回へ分割公開する予定といった次回までの宿題も併せて扱う。
サイバーセキュリティ業界では、AIが防御側の脅威検知・対応自動化に使われる一方、攻撃側もLLMや自律型AIエージェントを用いて攻撃手順を高速に生成し、侵入の痕跡を隠蔽する能力まで持つようになっている。人間の手によるログ分析・対応はすでに物理的な限界を迎えており、防御側もAIでの対抗を迫られている状況にある。これに伴い、セキュリティの基本思想も「境界を守る(盾で防ぐ)」という従来型から、通信・振る舞いを常時監視し無効化・予測まで行う現在型へとシフトしている。
セキュリティ業界は大きく3つの領域に分類できる。
| 領域 | 対象 | 代表的な進化の流れ |
|---|---|---|
| SOC(統合・エンドポイント) | PCやサーバーなどの端末(デバイス) | EPP(旧来のアンチウイルス)→ EDR(侵入後の異常検知)→ XDR(端末・ネットワーク・クラウド横断分析)→ エージェンティックSOC(AIによる自律監視) |
| SASE(ネットワーク) | ネットワーク接続とセキュリティ機能の統合 | 社内=安全・社外=危険という旧来の境界防御(ゼロトラスト以前)が、クラウド利用の拡大により崩壊し、ネットワークとセキュリティ機能をクラウド上で統合するSASE/ゼロトラストへ移行 |
| CNAPP(クラウド) | クラウド上の開発・運用環境全体 | 設定ミス検知・権限管理などバラバラだったクラウド向けツールを、開発から本番運用まで1画面で統合監視するプラットフォームへ |
講師は、3領域について市場規模・成長率・利益率・スイッチングコスト(乗り換えコスト)/維持率という観点で相対比較を行った。あくまで講師の見立てとしての相対評価であり、正確な数値の言及はなかった点に留意されたい。
| 評価軸 | SOC | SASE | CNAPP |
|---|---|---|---|
| 市場規模 | 3領域ともおおむね同水準 | ||
| 年間成長率 | 中位〜低位 | 最も低い | 最も高い |
| 利益率 | 最も高い | 中位 | 最も低い |
| スイッチングコスト・維持率 | 大〜中 | (言及少) | 最も高い |
この比較を踏まえ、講師は「継続的に固くお金が入り続けるのはSOC」であり、長期的な収益構造としてはSOC領域が最も魅力的である一方、成長率で見ればCNAPPが最も勢いがあるとした。
SOC(統合・エンドポイント)領域を主戦場とする代表的な3社として、Palo Alto Networks・CrowdStrike・Microsoftが挙げられた。3社は同じSOC領域で強さを持つものの、SASE・CNAPPへの強さや、営業戦略の出発点が異なる。
| 企業 | SOC | SASE(ネットワーク) | CNAPP(クラウド) | 営業の出発点 |
|---|---|---|---|---|
| Palo Alto Networks | ◎ | ◎ | ◎ | ネットワーク(ファイアウォール)から全方位に拡大。自社開発による囲い込み型 |
| CrowdStrike | ◎ | △ | ○ | 端末(デバイス)へ直接営業。他社製品を自社プラットフォームに集約する連合型 |
| Microsoft | ○ | △ | △ | Windows/Microsoft 365への標準搭載による低価格・広範囲型 |
Palo Alto Networksは、乗り換えを検討する顧客に対して契約が残っていても自社製品を無償提供し、既存契約の違約金まで肩代わりするなど、資金力を使って顧客を自社エコシステムに囲い込む「力技」の営業スタイルを取る。突出した技術的No.1領域があるわけではないが、SOC・SASE・CNAPPすべてで一定水準以上を自社開発で揃えている点が最大の強みとされた。
CrowdStrikeは端末(デバイス)に最も多くの情報が集まるという発想から、自社の統合プラットフォーム「Falcon」に他社製のセキュリティ機能を集約させる連合型の戦略を取る。ネットワーク領域の開発は自社で持たず外部(Zscaler、Cloudflareなど)に委ねることでコストを抑え、顧客の予算内でカスタマイズ提案ができる「財布に優しい」ポジショニングを取っている。
MicrosoftはWindowsという圧倒的なOSシェアを武器に、セキュリティ機能を無償・低価格で提供する形で顧客を囲い込む。ID管理領域の「Entra」は強力だが、ネットワーク(SASE)とクラウド(CNAPP)領域ではAWSやGoogleと比較して弱いとされた。
Palo Alto Networksは、ID・アクセス権限管理(IDセキュリティ)の大手であるCyberArkを買収したことで、監視・ネットワーク・サーバーに加えて「誰がどの権限でアクセスしているか」まで一気通貫で押さえる体制を築いた。セッションでは「天才的なM&A」と評価されている。
CNAPP(クラウド)領域で最強とされる企業として、Wiz(ウィズ)が紹介された。講師は「今年からM&Aが流行る可能性がある大型案件」として以前から言及していたとしており、セッション後の展開も含めてWizの動向は要注目とされた。
セッションでは2024年に発生したCrowdStrikeの大規模障害についても振り返られた。この障害は、CrowdStrikeがWindowsのOS中枢部(カーネル)で動作するセキュリティソフトを提供していたことに起因する。背景には、MicrosoftがEUの独占禁止法対応の一環としてWindowsカーネルへのアクセスをサードパーティのセキュリティベンダーに開放してきた経緯があった。
講師は最後に、日本でもセキュリティに関する法制度が変わり、2026年10月1日からセキュリティインシデントの報告が義務化される旨に触れた。
質疑応答では、FortinetやCheck Pointの位置づけについても議論された。講師は、両社は元来ファイアウォールを起点とする企業であり、SASE(ネットワーク)領域ではZscalerやCloudflareと同じカテゴリーで比較するのが適切だとした。またZscalerについては、直近の状況を踏まえて「絶望的」という厳しい見立てが示された。総じて、Zscaler・Cloudflareなどのネットワーク専業企業は「技術セントリック(技術起点)」の事業と捉えるのが適切であり、事業設計・営業戦略を起点に拡大したPalo Alto NetworksやCrowdStrikeの方が優位に立ちやすいという見解が述べられた。