「ガーファムの中で最も時限爆弾を抱えていないのがグーグル」——その理由を九か月後の事実と突き合わせる
(2026年Q2、YoY)
(2026年Q2末)
TPU(1GW超、2026年)
学習用/推論用の分離
TPU共同設計の実績
(文字起こし全量取得)
この日のセッションで、マイキー氏は自分の過去の予測に対する答え合わせを何度も行っている。「決算の時にグーグルが最強になるよと言った通りでしょう」「TPUがやっと来ましたよ、前田さん」「僕の予言が正しければ、下手すると年内にグーグルはNVIDIAとアップルを抜きますよ」。強気の宣言が並ぶ回である。そして本レポートの最大の役割は、それらの見立てが2026年8月時点でどうなったかを公開情報で確認し、当たった部分と外れた部分を分けて記録することにある。
結論を先に置く。方向性としての「グーグル最強論」は、9か月後の数字によってかなりの部分が裏づけられた。しかし時間軸の予測——年内にNVIDIAを抜く——は外れている。 アップルは抜いた。NVIDIAは抜いていない。この非対称が、この回を読むうえで最も重要な事実である。
議論の骨格自体は、同日前半の減価償却リスク論の直接的な帰結として組み立てられている。AI業界全体が抱える時限爆弾——GPUの資産価値が想定より早く劣化し、担保価値と会計上の利益を毀損しうるという問題——に対して、なぜグーグルだけが構造的に露出度が低いのか。答えは自社設計チップである。自分でTPUを設計し、Broadcomと組んで作り、自社データセンターで運用し、電力効率で優位を取り、そして推論用と学習用を分けている。GPUに依存しないという一点で、爆弾の信管が最初から少ない。
後半は経営者論に移る。マイキー氏がこの日のYouTube動画で「日本人が最も参考にすべき経営者」としてサンダー・ピチャイを取り上げた理由が語られる。理由は実績でも学歴でもなく、何も喋らないという選択をしていることだった。イーロン・マスクのように喋らず、ジェンスン・ファンのようにアピールせず、アンディ・ジャシーのように人を罵倒しない。聞かれたことに答えるという一点を徹底している。日本人に最も合っているのはこのやり方ではないか、という提案である。
技術と経営が同じ形をしている。TPUという垂直統合の選択も、ピチャイの「喋らない」という選択も、他人の土俵に依存しないことという一点で同型である。DeepMind買収時に社内で否定されながら押し進めた経緯、Androidを無償で広めた判断、そして「黙ってその間に開発しまくる」という組織文化——この回でグーグルについて語られたことは、すべてこの一つの構えの現れとして整理できる。
なぜTPUが「時限爆弾」を解くのか
同日の前半でマイキー氏は、AI業界全体が減価償却という時限爆弾を抱えていると説明した。GPUの物理的劣化、5年という償却年数の根拠の薄さ、GPUを担保にした資金調達の脆弱性、そして償却しきれない場合の減損リスク。その解決策として提示されたのが、学習には最先端GPU、推論には旧世代GPUという分業だった。
この文脈を受けて、マイキー氏はこう続けた。「いまの説明をすると、分かる人には分かる。なぜTPUが最強になるかが分かるんです」。前田氏が即座に「いまおっしゃった問題が一通り全部解消できるということですね」と応じ、マイキー氏が「そう、解決できるんですよ、TPUにすることによって。しかもグーグルは自分たちで自社で作っている」と受けた。
| 時限爆弾の構成要素 | GPU依存モデルでの問題 | TPU(自社設計)での位置づけ |
|---|---|---|
| 調達コスト | NVIDIAの価格決定力に晒される。粗利は供給側に残る | Broadcomとの共同設計で内製。マージンが外部に流出しない |
| 担保価値の劣化 | GPUを担保に借入。価値下落が資金調達力を直撃 | 自己資金比率が高く、担保依存度が構造的に低い |
| 世代交代の速さ | 3年前のチップが実務で追いつかなくなる懸念 | 自社ワークロードに合わせた設計のため、陳腐化のタイミングを自社で制御できる |
| 電力・エネルギー効率 | 汎用GPUは冗長な演算能力を抱える | 用途特化により電力効率が高い。マイキー氏が「圧倒的」と評した点 |
| 推論への転用 | 旧世代GPUを推論に回すという事後的な対処 | 設計段階から推論を織り込める。第8世代では製品自体を分離 |
| サプライチェーン | NVIDIAの割当と納期に従属 | 時間的な優位性を自社で確保できる(前田氏の追加論点) |
前田氏はここでもう一つの視点を追加した。直接は語られなかったが、サプライチェーンの問題もあるのではないか。サプライチェーンをもう一度見直して、それがコスト的なだけでなく時間的にどれだけ優位性を保っているかを確認することで、その企業の強さの評価は変わってくる、という指摘である。
マイキー氏はさらに、AWSがインファレンシア(Inferentia)にこだわる理由もここで説明できると述べた。現在はトレーニング用チップばかりが売れているが、推論用チップが売れてくれば、アマゾンの株価は上がる。リスクヘッジができるようになるからである。前田氏はこれを聞いて、以前語られた「アマゾンのキャッシュフローが2030年まで最大になる」という話がどこで繋がるのか分からなかったが、いまの話でよく繋がった、と応じている。
「推論を独立した工程として扱う」という2025年11月時点の見立ては、その後チップ製品の構成そのものに反映された。グーグルは2026年4月22日のCloud Nextで、第8世代TPUを学習用の「TPU 8t」と推論用の「TPU 8i」という二つの専用チップとして発表している。前世代比で学習が最大3倍高速、コストあたり性能が80%改善とされ、推論はもはや余った旧世代GPUを回す場所ではなく、専用設計の対象になった。グーグルはこの8iのコスト優位を使って、推論の価格でMicrosoft AzureとAWSを攻めると見られている。裏取り済
TrendForceの予測では、グーグルのTPU需要は2026年に数量ベースで前年比約80%増、後半にv7からv8への移行が進むとされる。一方でNVIDIAのRubinは2026年第3四半期のランプアップ予定だが、HBM4の検証課題やConnectX-9 NICの移行問題、消費電力増と液冷要件の高度化により1四半期の遅延が報じられ、2026年のハイエンドGPU出荷に占めるRubinの寄与見通しは29%から22%へ下方修正された。裏取り済
予測は当たったのか——2026年8月時点での検証
この回でマイキー氏が明示的に述べた見通しを、一つずつ公開情報と突き合わせる。ここが本レポートの中心である。
| 2025年11月26日の発言 | 2026年8月28日時点の事実 | 判定 |
|---|---|---|
| 「年内にグーグルはNVIDIAとアップルを抜きますよ」 | アルファベットは2026年1月12日に時価総額4兆ドルに到達し、アップルを抜いて世界2位となった。しかし2026年8月時点でNVIDIAが約5.09兆ドルで首位を維持し、アルファベットは約4.55兆ドルで2位、アップルが約4.49兆ドルで3位 | 半分的中:アップル超えは実現。NVIDIA超えは未達で、時期の見立ても「年内」より後ろにずれた |
| 「メタはもう契約決まりますよ」(TPUについて) | 2026年2月26日、メタがグーグルのTPUを借りる複数年・数十億ドル規模のリース契約を締結したと報じられた。2027年以降の自社データセンターへの直接購入も交渉中とされる | 的中:ただし時期は約3か月後ろ |
| 「グーグルクラウドは相当成長するかもしれない」 | 2026年Q2、Google Cloudの売上は前年同期比82%増の248億ドル。受注残は5,140億ドル、営業利益率は20.7%から35.6%へ拡大 | 的中:予想より強い |
| 「ブロードコムの株は必ず来る」「TPUがこれだけコストを落とせてエネルギー効率化できたのはBroadcomのおかげ」 | BroadcomのAI半導体売上はFY2026 Q1で84億ドル(前年比+106%)、Q2で108億ドル(同+143%)。TPUはFY2026のAI売上成長の主要因と見られ、ASIC売上の約78%を占めるとの試算もある | 的中 |
| 「Anthropicは最近またGoogle Cloudの契約が大きいのが一つ決まった」 | 2025年10月23日、Anthropicが最大100万基のTPU、1GW超の計算能力を2026年に導入する契約を発表。その約6か月後、Anthropic・グーグル・Broadcomは2027年開始の追加数GW分にも合意した | 事実確認済:発言時点で既報の事実。その後さらに拡大 |
| 「怖いのは独禁法だけ。でも今回、結局逃れたじゃないですか」 | 2025年9月2日、Mehta判事はChromeの分離売却を命じず、独占的なデフォルト検索契約の禁止と検索データの一部共有を命じるにとどめた。同年12月5日に救済措置が確定 | 事実確認済:発言の認識は正確 |
| 「NVIDIA vs グーグルという構図になっている」 | 2026年に入り、カスタムASICとGPUの競合構図は業界の主要論点として定着。グーグルは外部へのTPU販売でNVIDIAのデータセンター売上の10%獲得を狙うと報じられている | 的中 |
「年内にグーグルはNVIDIAとアップルを抜きますよ」という発言のうち、NVIDIA超えは2026年8月時点で実現していない。アルファベットは4兆ドル台に乗り、アップルを抜いて2位に上がったが、NVIDIAは5兆ドル台を維持している。予測市場では2026年12月31日時点でアルファベットが首位になる確率を29.5%程度と見ており(5月時点の23.5%から上昇)、レースは詰まってはいるが決着していない。方向は当たり、時間軸は外れた——この型の外れ方は、強気の見通しで最も頻出するパターンであり、記録しておく価値がある。
なおマイキー氏自身、この回で「他に比べると僕の試算ではまだまだバリュエーション的に低いかなと思っている」と述べており、時価総額の到達点そのものより割安さを根拠にしていた点は付記しておく。また前田氏が「今回の決算で一番気になったのは、投資の規模が他のところに比べて少なかったように見えた」と述べたのに対し、マイキー氏が「それが勝ちなんですよ」と即答した場面がある。設備投資の少なさを弱さではなく効率の証拠として読む——この読み方は、その後の展開を考えると重要である。
「投資規模が他社より少ない」という2025年11月時点の観察は、その後の展開で逆転している。アルファベットは2026年Q2決算で通年の設備投資ガイダンスを1,800〜1,900億ドルから1,950〜2,050億ドルへ引き上げ、2027年もさらに大幅に増加する見込みだと述べた。この発表を受けて決算後の株価は下落している。
つまり、「投資が少ないから効率的」という当時の評価軸は、2026年時点ではそのまま適用できない。効率の優位が残っているとしても、それは絶対額の少なさではなく投下資本あたりの回収速度で測るべき段階に入っている。Google Cloudの営業利益率が20.7%から35.6%へ拡大した事実は、その回収が実際に進んでいることを示す一方、設備投資の絶対額はもはや「少ない」とは言えない。裏取り済
Broadcomという、TPUを可能にした会社
前田氏が「いまの話からすると、Broadcomのプレゼンスはもっと高くなりますね」と述べたのに対し、マイキー氏は「そういうことです。だからBroadcomは上がるんです」と応じた。「Broadcomの株がなぜ必ず来るのか」という自身の過去の主張の根拠がここにある、という説明である。
論理は単純である。TPUがこれだけコストを落とし、エネルギー効率化を実現できたのはBroadcomのおかげである。カスタムASICの設計と製造を支える側が、TPU戦略の実質的な共同当事者になっている。しかもNVIDIA自身もそこにリーチしているし、OpenAIもBroadcomと組んだ。マイキー氏は「だからOpenAIは他のAI企業と比べて一本も二本も先に進んでいる」と評価している。他のAI企業でここにリーチできているところはほとんどない、という指摘だった。
前田氏は「長期的に見ればまだバリュエーションとしては高いような感じもする」と留保を置いており、強気一辺倒の議論ではなかった点も記録しておく。
BroadcomのAI半導体売上はFY2026 Q1で84億ドル(前年比+106%)、Q2で108億ドル(同+143%)に達し、受注残は300億ドルを超えた。グーグルは2014年以来7世代にわたってTPUを共同設計してきた最古参のパートナーであり、HSBCの試算ではグーグル向けTPUがBroadcomのASIC出荷数量の約58%(179万個)、ASIC売上の約78%(221億ドル)を占めるとされる。
OpenAIとは2025年10月に10GW規模のカスタムアクセラレータに関する複数年契約を締結し、3nmと2nmの設計で2026年後半に初期展開の予定。コードネーム「Titan」と呼ばれるこの案件は、複数年で1,500億〜2,000億ドル規模と推計されている。Broadcomはグーグル、メタ、Anthropic、OpenAIを含む6社のカスタムチップ顧客を抱え、2027年にAI半導体売上1,000億ドル超という見通しを示している。「Broadcomが上がる」という見立ては、2026年8月時点では事業実績として裏づけられている。
データが枯渇するから、みんなエッジへ行きたい
会員から「学習するものがもうあまりないから推論型に移っていくという話か」という質問が出た。マイキー氏の答えは違う角度からのものだった。「学習するものがないというより、データが枯渇している」。以前から話している通り、2027年までに枯渇する。
では枯渇させないために何が必要になるか。答えはIoTである。ロボット、携帯、ビジョンプロ、スマートウォッチ——だがこれらのデバイスで取れる情報量は限られている。スマート家電などでさらに吸い上げてデータ量を増やさなければならない。だからみんなエッジコンピューティングに行きたいのである。そしてエッジコンピューティングのチップで来るのはどこか、という問いに対して、マイキー氏はクアルコムを挙げた。
この論点は、セッション前半のロボット議論とも接続している。ロボットを家庭や工場に置くとき、必ず安全保障とセキュリティの問題が出る。そしてそれはエッジコンピューティングのセキュリティ問題である。前田氏はここで、以前から自分たちが話していたセキュリティ企業群——具体名は伏せられ「愛社、視社、C社、Z社」といった形で言及された——の位置づけを確認した。AIが出てくればデータセンターがあり、発電があり、最終的にはデバイスに至る。ということはセキュリティが必要になる。流れが分かっていればそういうところに注目できる、という整理である。
マイキー氏はこの流れの中で、なぜグーグルの話をしている最中にエッジコンピューティングの話を出したかったのかも説明している。TPUは今後、形を変えてエッジコンピューティングへ繋がっていく。そうすれば端末の電池持ちが良くなる。グーグルのTensorエコシステムの中ですべて使えるようにさせる——Pixelの流れになっていく、という見立てだった。
公開されている高品質テキストデータが2026〜2032年頃に枯渇しうるという推計は、Epoch AI などの研究機関から複数出されており、想定するデータ利用効率によって幅がある。「2027年」という特定の年を裏づける単一の確定した推計は確認できなかったため、話者の見立てとして記録する。ただし、学習データの制約が推論・合成データ・実世界データ(IoT)へと開発の重心を移す要因になっているという方向性自体は、業界の共通認識になっている。
マイクロソフトもメタもチップを内製している。なぜグーグルだけ差がついて見えるのか
分野氏から、この回で最も本質的な質問が出た。マイクロソフトもNPUを作っているし、メタも自社チップを開発している。各社ちゃんと手を打っているはずなのに、なぜグーグルとの差がついているように見えるのか。
マイキー氏の答えは一言だった。アプリの数である。
実用的な場所で活かせるのはアプリが一番だ、という論旨である。グーグルマップ、YouTube、そのほか私たちが使っているアプリのほとんどがグーグルのものである。だから転用しやすいし、データの収集もしやすい。一方でマイクロソフトにはアプリがない。アップルもApple Intelligenceのようなものを作ったが、誰が使っているのか。さらに決定打として、アップルのユーザーも結局は中でグーグルのアプリを使っているという指摘が出た。「動画もApple TVよりYouTubeを見るでしょう、絶対に」。アプリの囲い込みという点でグーグルは最強である、という結論だった。
チップの性能や設計能力ではなく、そのチップを載せる先の表面積で優劣が決まるという論点である。垂直統合の価値は、上流(自社設計チップ)と下流(自社アプリ)の両端を押さえていることにあり、片方だけでは効かない。マイクロソフトは上流を押さえたが下流の消費者接点が薄く、アップルは下流を押さえているが上流のAIチップとモデルで後れを取った——という読み方になる。
Androidを広めた判断は、ここまで見越していたのか
この議論を受けて、前田氏が推測を述べた。サンダー・ピチャイは、Androidを広めるときにここまでAIの流れが来ることをある程度予想して、あそこまで強く押したのではないか。マイキー氏はこれに対して、DeepMindを買収した時のCEOはラリー・ペイジだったという事実を確認したうえで、ラリー・ペイジのビジョンを思い切り受け継ぎ、引き継いだのがピチャイである、と応じた。ただし「どこまで構想していたのかは分からない。当時のピチャイに聞かないと」と留保している。
そのうえで、ラリー・ペイジらから当初は上から否定されながらプロジェクトを推し進めたという経緯にも触れ、こう結んだ。「だからグーグルの価値は黙っていた強さですよね。沈黙して、その間にバンバン開発しまくって。返しすらしないですもんね」。
グーグルによるDeepMind買収は2014年1月で、当時のCEOはラリー・ペイジ。サンダー・ピチャイがGoogleのCEOに就任してAlphabetが設立されたのは2015年、Alphabet全体のCEOを兼務するのは2019年である。したがって「DeepMind買収時はラリー・ペイジだった」という発言は正確である。
Androidについては、ピチャイが2013年にAndroid部門を引き継いだ(それ以前はアンディ・ルービンが率いていた)。ピチャイが2011年からChromeとApps(Gmail、Docs、Drive)のSVPを務め、2013年にAndroidを加え、消費者向けプロダクト群を統合的に見る立場にいたことは事実だが、Androidの初期普及戦略そのものはピチャイ以前の判断であり、「ピチャイがAIを見越してAndroidを押した」という推測は、時系列上は成り立ちにくい。セッション内でも推測として提示され、マイキー氏自身が留保をつけている点と整合する。
通信、衛星、そしてWaymo——弱点はどこか
会員から、NVIDIAの強みはCUDAのようなソフトウェアだけでなく、NVLinkやInfiniBandといった通信インフラも握っている点にあるのではないか、という質問が出た。グーグルはBroadcomと組んで現行のイーサネットを高速化する方向で来ているが、それが精度よく仕上がればNVIDIAへの対抗範囲が広がるのか、という問いである。
マイキー氏は「広がってきますね」と認めたうえで、ケーブル・通信に関してはグーグルはすでに「むちゃくちゃ引いている」——メタと並んで最も敷設している——と述べた。そこもBroadcomなどと組んで進めており、最近は大きなセキュリティ企業の買収もしている。必要なピースは今後も揃えてくるのではないか、という見立てである。
そして分野氏に対して、名指しで宿題が出された。「プロジェクト・タラを調べてください。プロジェクト・タラとグーグル。これを見ると通信関連の強さが分かると思いますよ。パフォーマンスが圧倒的に高いので」。
ただし衛星だけが弱い
マイキー氏は弱点も明示した。「ただね、一個だけ弱いのが衛星なんですよね。衛星がスターリンクなんですよ」。そのうえで、グーグルがSpaceXの大口株主であり、初期段階で10億ドル規模を投資していること、その後にAST SpaceMobileのようなスターリンクの競合になる衛星企業にも出資していることを挙げた。「かなり自分たちで通信企業に投資している」という整理である。SpaceXへの投資は10年前だという言及もあった。
Waymoについては、前田氏から「グーグルの次の戦略を見るならWaymoをどうしていくかを見なければ」という指摘が出た。マイキー氏の評価は明確で、アメリカ国内ではWaymoがロボタクシーで最も進んでいるが、中国のほうが圧倒的に早い。ただしWaymoはアメリカでかなりシェアを締めており、ヨーロッパでもテスト試験が始まりそうな勢いで、テスラよりは進んでいる。日本でもテストをしており、日本交通と組んでいる、と述べた。
プロジェクト・タラ:Google X発の自由空間光通信(無線光通信)事業。レーザー光線で最大20km・20Gbpsの通信を実現し、光ファイバー敷設が困難な地域に高速接続を提供する。2025年3月にAlphabetのXからスピンオフして独立企業となり、Alphabetは少数株主として残った。2026年2月には「Taara Beam」を発表している。「衛星ではなく光でカバーする」というアプローチであり、Starlink・AST SpaceMobileとは異なる層で競合する。
AST SpaceMobile:AT&T、グーグル、ボーダフォンから最大2億650万ドルの戦略的投資を受けたと発表している。スマートフォンへの直接衛星接続を提供する企業で、発言中の「AST SpaceMobileに投資している」という点は正確。
Waymo日本:2024年12月に日本交通およびGO(旧・JapanTaxi系)との提携を発表し、2025年初頭に全電動のJaguar I-PACEが東京に到着。港区、新宿区、渋谷区、千代田区、中央区、品川区、江東区などで走行し3Dマップを作成している。2026年1月時点でも試験走行が継続中で、商用展開の目標日は設定されていないと報じられている。発言時点の内容は正確である。
日本人が最も真似しやすい経営者は、何も喋らないから
この日、マイキー氏はYouTubeで「日本人が一番参考にすべき経営者はサンダー・ピチャイ」という趣旨の動画を公開していた。セッション冒頭で前田氏がその感想を述べる場面がある。「ほとんどの人は、サンダー・ピチャイがものすごい実績を持っていることに気づいていないのではないか。Googleの(CEO)になる前にすごい実績を上げている」。Chromeの時からピチャイはやばかった、という評価も出た。
前田氏はピチャイの経歴を「材料工学から入ってMBAを取って、さらにエンジニアで」と要約し、いま必要なものが一通り学習として完結していると評した。マイキー氏はこれに、グーグルの株が上がる前にピチャイの話をしていたという自負を重ねている。ただしYouTubeのランキングでは10位中6位にとどまった、と苦笑する場面もあった。
そしてセッション終盤、マイキー氏がその理由を正面から語った。
「日本人が一番真似しやすい経営者なんじゃないかな。なぜかと言うと、皆さんのように彼は何も喋らないからです」——余計なことを喋らない。口数も少ない。イーロン・マスクのようにペラペラ喋るのでもなく、ジェンスン・ファンのようにアピールするのでもなく、アンディ・ジャシーのように人を罵倒するのでもない。喋らないという選択肢を取っているので、日本人に最も合っているのはピチャイなのではないか、というのがマイキー氏の提案である。
ただし補足も同時に置かれた。「当たり前ですけど、必要なことは喋っていますからね」。前田氏も「必要なことは喋っています」と繰り返し、わけの分からない誇大広告のようなことは一切していない、全面的に誠実だ、と評した。周囲からは人格者だと言われている、と続く。
興味深いのは、グーグルのCEOになった時点で社内の大半の人が「ピチャイって誰?」という状態だったという指摘である。圧倒的な実績を持っていたにもかかわらず、社内での影が薄かったと言われるほど目立たない性格だった。「知る人ぞ知るという感じだった」と会員が応じている。
前田氏はさらに、インタビューでの受け答えの型の違いを分析した。ジェンスン・ファンはどちらかというとサービス精神が旺盛で、相手がこう言ったら喜ぶかなという方向で話をする。一方サンダー・ピチャイは聞かれたことに答える。しかもそれをある程度相手が聞きやすい形に整え、「この人はこういうことを求めている、この質問についてはここを求めているからここを答えていきましょう」という判断をする。返答のスタンスがかなり違う、という指摘である。
前田氏が要約した経歴は正確である。ピチャイはIIT(インド工科大学カラグプル校)で冶金工学を学び、スタンフォード大学で材料科学・工学の修士号、ウォートン・スクールでMBAを取得している(Siebel Scholar、Palmer Scholar)。スタンフォード修了後はアプライドマテリアルズに約5年在籍し、プロセスエンジニアリングとR&Dに従事した。半導体製造装置の実務を経てからグーグルに移った人物であり、TPUという垂直統合の選択との相性は経歴からも読める。
グーグルではGmailのローンチ当日に面接を受け、初期の担当はGoogle Toolbarだった。2008年にChromeを世に出し、2011年にChromeとApps担当のSVP、2013年にAndroidを引き継ぎ、2015年にGoogleのCEO、2019年にAlphabetのCEOも兼務している。「Chromeの時からやばかった」というセッション内の評価は、この経歴に符合する。
レジリエンスに投資できる経営者と、数字が出ないと叩かれる構造
この回にはもう一つ、経営者を評価する軸が提示されている。前田氏が減価償却リスクの議論の途中で持ち出した論点で、時限爆弾を抱えているように見える企業を分類するときの考え方である。
本当に危険を抱えているのか。それとも穴が埋められていないだけなのか。他社が既にやっていることに追いついていないのか。リスクを承知のうえで進んでいるのか。あるいは資源や資金を効率化させるために、ただ単にレジリエンスを無視しているのか。どれなのかを考えなければならない、という整理である。
そしてレジリエンスを作るということは、短期的にはキャッシュフローにも利益にも繋がらない。数値にもできない。だからこそ、そこに投資できるかどうかが経営者の質を分ける。前田氏はここで、アンディ・ジャシー、サティア・ナデラ、サンダー・ピチャイの三人を挙げ、この人たちはみんなレジリエンスに投資できると述べた。順風満帆でずっと来たわけではなく、危機的状況でどういう対策と準備をしていたかを含めての評価である。
「数字が出ないとすぐに記事が出るんですよ。この人、無能じゃねって」——マイキー氏は、サンダー・ピチャイが12年前には相当叩かれていたと証言している。レジリエンスへの投資は定量化できず、成果が出るまで時間がかかる。その期間、市場と報道は経営者を無能と評価する。この非対称が、多くの企業でレジリエンス投資を難しくしている構造要因である。
マイキー氏はこの流れの中で、投資家側の行動も説明している。時限爆弾をしっかり見抜いている投資家は当然、そこに対して懸念を持つ。だから過剰投資に反対するのである。時限爆弾を抱える量が増えるからだ。大手の中でGPUに依存しない状況を作ろうとしているのが今のグーグルだ、というのがこの回の締めくくりだった。
そしてもう一つ、この構図はオラクルのクレジット・デフォルト・スワップに需要が集まっている理由にも接続する、と前田氏が指摘している。減価償却の話と負債の話を合わせて考えると、リスクを消費しすぎているということになる——マイキー氏も「そうっすね」と同意した。
質疑応答
マイキー氏:それが勝ちなんですよ。電力関連やエネルギー効率はもう圧倒的である、グーグル自体が。そして GAFAM の中で最も時限爆弾を抱えていないのがグーグルである。
※ この評価軸は2026年に入って前提が変わっている。Claude補足(PART 2)を参照。
マイキー氏:そうである。ただしTPUは今後また形を変えて、エッジコンピューティングのほうへ繋がるようにしていくだろう。そうなれば端末の電池持ちが一気に良くなる。グーグルのTensorエコシステムの中ですべて使えるようにさせる方向で、エコシステムがかなり拡大していく。Pixelなどの流れになっていく。
※ 2026年2月にメタがGoogle CloudからTPUを借りる契約を結び、自社データセンターへの直接購入も交渉中と報じられた。前提は変化している。
マイキー氏:そうである。学習用の最先端GPUと推論用の旧世代GPUを切り替えられる構造が、資産価値の担保に直結する。
マイキー氏:アプリの数だと思っている。実用的な場所で活かせるのはアプリが一番である。グーグルマップ、YouTube——私たちが使っているアプリのほとんどがグーグルのものなので、転用しやすいしデータ収集もしやすい。マイクロソフトにはアプリがない。アップルもApple Intelligenceのようなものを作ったが、誰が使っているのか。アップルユーザーも結局は中でグーグルのアプリを使っている。動画もApple TVよりYouTubeを見る。アプリの囲い込みという点でグーグルは最強である。
マイキー氏:広がってくる。ただしケーブル・通信に関して、グーグルはむちゃくちゃ敷設している。いま最も敷設しているのはメタと並んでグーグルである。そこもBroadcomなどと組んで進めているし、最近は大きなセキュリティ企業の買収もしている。必要なピースは今後も揃えてくるのではないか。
マイキー氏:Waymoはアメリカの中ではロボタクシーで最も進んでいる。ただし中国のほうが圧倒的に早い。それでもWaymoはアメリカでかなりシェアを締めているし、ヨーロッパでもテスト試験が始まりそうな勢いで、テスラよりは進んでいる。日本でもテストをしていて、日本交通と組んでいる。
マイキー氏:ぶつかると思う、NVIDIAとグーグルは。グーグルは完全に内へ向かっている。アメリカの記事を見ればいい、もう「NVIDIA vs Google」になっている。
マイキー氏:データが枯渇している。2027年までに枯渇する。枯渇させないために必要になるのがIoTである。ロボット、携帯、ビジョンプロ、スマートウォッチ——デバイスで取れる情報量は限られているので、スマート家電などで吸い上げてデータ量を増やさなければならない。だからみんなエッジコンピューティングに行きたい。エッジのチップで来るのはクアルコムである。
マイキー氏:その通りである。『ファスト&スロー』のあれをそのまま作っている。だから化け物なのである、あの会社は。早い思考と遅い思考をうまくラーニングのほうで分けて作っている。だからデータの量ではなく質のほうが重要だということ。質の高いデータを集められるほど優位性が高まる。僕が言っている「量から質に変わる」というのはこれである。推論能力のポイントで、ライバルになってくるのはSapient Intelligenceで、中国のこのぶつかり合いが来年・再来年に一気に出てくるのではないか。
マイキー氏:インテルやサムスンにも分散させるが、さすがにそうである。TSMCは最強である。
マイキー氏:おそらくあまり知っている人はいないと思う。その転用があるから、担保としての価値が維持される。この構造を理解するとAI企業の戦略の見方が一気に変わる。
宿題・アクションアイテム
- プロジェクト・タラとグーグルを調べる。 分野氏に名指しで出された宿題。自由空間光通信という、衛星でもファイバーでもない第三の経路。2025年3月にAlphabetからスピンオフしている点も含めて確認する。
- この日のサンダー・ピチャイ回のYouTube動画を視聴する。 セッション中に二度、「見ておいてください。見ないと話が全く分からないと思います」と指定された。
- サンダー・ピチャイのインタビューを複数本見て、返答のスタンスを分析する。 ジェンスン・ファンとの対比で、「聞かれたことに答える」型がどう機能しているかを観察する。
- 「NVIDIA vs Google」という枠組みで米国メディアの記事を読む。 日本語の報道では拾いきれない対立軸として指定された。
- Sapient IntelligenceのHRM(階層的推論モデル)を調べる。 『ファスト&スロー』のシステム1/システム2の構造をアーキテクチャに落とした設計。「量から質へ」という転換の実例として。
- エッジコンピューティングのチップ競争を追う。 クアルコムが名指しされた。データ枯渇→IoT→エッジという流れの終着点にあたる。
- Google Cloudの受注残と利益率の推移を継続して見る。 TPU戦略の成果が最も直接的に現れる指標。設備投資の絶対額ではなく、投下資本あたりの回収速度で評価する。