STUDY REPORT / 2026年9月度 勉強会

TOCで読むAI・ロボティクス投資

――NVIDIAが「全体最適」を理解した投資をしている理由

HBM
AIの真のボトルネックは
GPUではなくメモリだった
50%超
ヒューマノイドロボットの
想定利益率
60.1%
UNITREE Robotics
2025年粗利率
$3.5万→$1.7万
ヒューマノイド製造コスト
2025→2030年予測
24秒
Huaweiスマホ1台の
組立〜検査〜箱詰め
RaaS
Robot as a Service
次の収益モデル

セッション概要

勉強会の中盤から後半にかけて、マイキーさんは制約条件理論(TOC)のフレームワークを使い、AI産業とロボティクス産業のバリューチェーンを読み解いた。AIの真のボトルネックがGPUではなくHBMメモリだったこと、自動車メーカーがヒューマノイドロボットに参入する経済合理性、NVIDIAが業界全体のボトルネックに投資する戦略の卓越性、そしてHuawei工場の驚異的な生産効率まで、一気通貫で語られた。

議論の核心は「EVが必要かどうかという議論に入る人は、先のことも業界のことも考えていない」というマイキーさんの断言にある。EVは単独の製品ではなく、ロボティクスへの技術転用を見据えたバリューチェーンの一部として位置づけるべきだという視座が繰り返し強調された。

セッションを貫く1本の線

TOCで見れば、NVIDIAの投資はバリューチェーン全体のボトルネック解消に向けられており、ソフトバンクのような「バリューチェーンを揃える」アプローチの一段上にある。業界のボトルネックに投資し、全体の排出量を上げることで自社の製品価値も最大化する――この全体最適の設計がNVIDIAを5兆ドル企業にした。

AIの真のボトルネック――GPUではなくメモリだった

マイキーさんは、AI産業のバリューチェーンにおいて最大のボトルネックがどこにあったかを問いかけた。多くの人が「GPUの数字が遅いからAIが開発できない」と思い込んでいたが、真のボトルネックはメモリ、具体的にはHBM(High Bandwidth Memory)だった。

Samsung、SK Hynix、Micronが製造するHBMという積層型メモリの供給が追いついて初めて、GPUの性能が最大化できる。この事実は2023年のChatGPT登場時点ですでに業界では有名だったとマイキーさんは指摘する。MicrosoftやAmazonの決算発表でも必ずメモリの話題が出ており、ハイパースケーラーたちは共通の課題としてメモリの制約を認識していた。

📌 Claude補足:HBMボトルネックの実態

HBMは高帯域幅メモリの略称。AI向けGPUに積層実装される専用メモリで、2021〜2024年にかけてHBM3世代が採用された。SK HynixがNVIDIA H100向けの独占サプライヤーとなり、供給逼迫が常態化した。さらにTSMCのCoWoS(Chip-on-Wafer-on-Substrate)パッケージングラインもNVIDIA・AMDの注文でフル稼働状態が続き、「GPUの設計ではなく、メモリとパッケージング能力がボトルネック」という構造が確認されている。TSMCは2025年までに月産約5万ウエハーパッケージまで拡大を目指していた。

出典:EnkiAIThe Rational Investor

NVIDIAの投資=TOCそのもの

マイキーさんはNVIDIAの投資戦略をTOCのフレームで解説した。NVIDIAはバリューチェーン全体のボトルネックに投資している。メモリ、スイッチング、電源、通信――ボトルネックが移動するたびに、そこに資金を投入して業界全体の排出量を上げる。これが「全体最適を理解した投資」であり、ソフトバンクとの違いだという。ソフトバンクはバリューチェーンを揃えるところから始めるが、NVIDIAはすでに存在するバリューチェーンのへこみを潰しに行く。だからNVIDIAの方が評価が高い。

ジェボンズのパラドックス

同時にマイキーさんが注目しているのが「ジェボンズのパラドックスがAIで本当に起きるのか」という論点だ。データセンターの建設コストは上がり続けているのに、1トークンあたりのコストは下がっている。特にオープンソース化によってさらに価格が下落している。生産コストの削減よりも売値の下落が速い場合、利益が圧迫される。一方、ジェボンズのパラドックスが発動すれば、効率化が需要を喚起し、トータルの消費量は増える。市場はこの行方を注視している。

📌 Claude補足:ジェボンズのパラドックスとAI

19世紀の経済学者ウィリアム・スタンリー・ジェボンズが石炭消費で発見した逆説。効率が上がると単位あたりコストが下がるが、使い道が増えてトータル消費は増える。AIの推論コストは2年で98%以上下落したが、GPU需要はNVIDIAの売上爆増が示すように拡大を続けている。企業のAI支出は減っているのではなく「構造転換」している――人件費からコンピュート費用への移行が起きており、リバウンド効果で総消費は拡大中。

出典:NPR Planet MoneySSRN

出典:マイキーさんの説明に基づきClaude作図(概念図)

自動車メーカーがロボットを作る経済合理性

自動車産業のボトルネック=利益率の天井

マイキーさんは自動車産業が抱える根本的なボトルネックを「利益率が15〜20%で頭打ちになること」と特定した。何百何千の部品からなる資本集約型産業であるため、コモディティ化と価格競争から逃れられない。いくらEVを安く効率よく作っても、この構造的な利益率の天井は変わらない。

第一の突破口:自動運転ソフトウェア

この制約を最初に突破しようとしたのが、テスラやBYDによる自動運転ソフトウェアのオプション販売だった。車単体ではなくFSD(Full Self-Driving)をサブスクリプションで売ることで、追加の収益ポイントを作る。しかし、これも数%の利益率上乗せに留まり、根本的な解決にはならない。

第二の突破口:ヒューマノイドロボット

ここで気づかれたのが、自動運転の技術基盤がロボティクスに転用できるという事実だ。カメラでの映像認識、ぶつからない制御、リアルデータの蓄積――これらはそのままロボットに使える。さらに、ロボットの部品構成の50〜60%は自動車と共通しており、関節部品・バッテリー・ハードウェアはもちろん、ソフトウェアもある程度同じシステムで対応できる。

決定的なのは利益率だ。ロボットの価格は「人間の人件費の代替」として設定されるため、自動車とは全く異なるプライシング構造になる。マイキーさんの発言では「自動車メーカーが出産しているヒューマノイドロボットの利益率は50%超」と言われているとのこと。

📌 Claude補足:UNITREE Roboticsの実績値

発言中の「UNITREEの利益率69%」について検証した。UNITREE Roboticsは2026年8月19日に上海STAR市場に上場し、初日629%の急騰を記録。2025年の売上高は17.08億元(前年比335%増)、コア事業の粗利率は60.13%、ヒューマノイド事業単体では約62.9%(2025年1〜9月)。発言の「69%」は若干高いが、粗利率60〜63%は確認できた。差異はヒューマノイド事業単体の特定四半期データに基づく可能性がある。

出典:KraneSharesRobotopian

項目自動車(従来)ヒューマノイドロボット
利益率15〜20%(上限)50%超(現時点の見込み)
価格決定要因部品コスト+競合価格代替する人件費コスト
部品共通率50〜60%が自動車と共通
データ活用走行データ走行+操作+力学データ
収益モデル車両販売+FSDオプション本体+オプション+メンテ+RaaS

製造コストの見通し

マイキーさんはゴールドマン・サックス等の試算を引用し、中国で1体のヒューマノイドを作るコストが現在約35,000ドル、2030年までに17,000ドルまで半減すると述べた。コストが下がれば利益率はさらに上がるが、将来的にはコモディティ化で利益率は圧縮される。その時に備えて、IoTを活用したスキルのオプション販売やメンテナンス収益が次の収益源になるという構図だ。

📌 Claude補足:製造コスト予測の出典

「35,000ドル→17,000ドル」の数値について、Bank of Americaの推計で「中国製ヒューマノイドのBOM(部品表)コストが2025年に約35,000ドル、2030年に17,000ドル未満」と報告されていることを確認。ゴールドマン・サックスの推計は2024年初頭時点で1体30,000〜150,000ドルとレンジが広く、2030年に89万台、2035年に650万台の市場規模(約1,380億ドル)を予測している。発言の「ゴールドマン・サックスの試算」は、実際にはBank of Americaの数値と混同している可能性がある。

出典:Goldman SachsRoboZaps

各社のアプローチとHuaweiの化け物ぶり

XiaomiのIoT戦略

Xiaomiは車・家電・スマートデバイスを通じたIoTエコシステムを持っているため、B2CとB2Bの両方にロボティクスでアプローチできる。データ収集能力の広さが他社にない優位性だとマイキーさんは評価した。

ヒュンダイとボストン・ダイナミクス

ヒュンダイがボストン・ダイナミクスを買収したのは、ロボットの「揺れ」の制御技術と自動車メーカーの生産基盤を融合させるためだ。歩行・走行・ジャンプ時のカメラブレの中での映像認識という、車にはない高度な課題に取り組む基盤を得た。

📌 Claude補足:ヒュンダイ×ボストン・ダイナミクスの最新動向

ヒュンダイは2020年にボストン・ダイナミクスの80%株式を取得。2026年6月にはソフトバンクの残り9.9%持分(約3.25億ドル=企業価値約33億ドル評価)の買い取りを検討中と報じられた。ヒューマノイドロボット「Atlas」の生産版はジョージア州サバンナのEV工場に2028年までに配備予定。2026年のFIFAワールドカップでは試合球を運ぶデモンストレーションを実施し、23kgの小型冷蔵庫の持ち上げ・搬送も実証済み。

出典:Yahoo FinanceNBC News

ロボットの技術的難しさ

マイキーさんは車とロボットの難易度差を明確にした。車の目標は「人を移動させてぶつからない」こと。ロボットはそれに加えて「力学」が必要になる。卵を握ったら割れるし、重い部品なら強い力が要る。映像で物体を瞬時に判断し、適切な握力を自動調整する能力が求められる。さらに歩行・走行時のカメラブレの中での認識能力も車とは次元が違う。

中国のロボットは走行速度でボルトの記録を破り(8秒台で100m)、ブレイクダンスまでこなすレベルに達しているが、映像認識能力はまだ弱い。ボクシングをさせると「敵を見失う」という状態だという。

Huaweiという化け物

議論の中でHuaweiの話題が繰り返し浮上した。GPU、エッジ、ソフトウェア、通信、エネルギー(発電・蓄電・分散型グリッド)――どの領域を調べても出てくる。マイキーさんと長野さんはともにHuaweiの実力を高く評価し、長野さんは2019年に深圳のHuawei工場を視察した経験を語った。

スマホ1台を部品集めから箱詰めまで完了するのに24秒。5レーンの100mほどのラインで、人は5人ほどが歩いている程度。砂・水・風の検査も0.5秒で完了する。ファナック製のロボットで全工程を自動化しており、6年前の時点でこのスピードだったと長野さんは証言した。

📌 Claude補足:Huaweiアニュアルレポート2025

長野さんがコメント欄にHuaweiの2025年アニュアルレポートを共有した。非上場ながら上場企業並みの開示水準で、一流の公認会計士がチェックしている。三つ折りスマートフォン「Mate XT」は三つ折りでも厚さ9.9mm、価格は約35万円。現在のCEO任正非(にんせいひ)は80代であり、長野さんは「任正非が生きている限りは日本企業との関係は良好だが、次の世代は分からない」と指摘した。

中国バイアスの問題

長野さんは「日本がHuawei製品を入れないのは中国バイアス」と指摘した。Huaweiの品質はApple並みであり、安物ではない。任正非が日本好きであるうちに関係を深めるべきだが、次世代の経営陣はそうとは限らない。時間的な制約がある問題だと警鐘を鳴らした。

EVは手段であり目的ではない

技術の連続性という視点

神原さんが指摘したのは「技術の連続性」の重要性だ。AIで遅れるとロボティクスにも行けず、宇宙にも行けず、量子にも行けない。短期的に見ると理解できないことも、技術の連続性を理解すれば判断できる。TAM(Total Addressable Market)の広がりを連続的に見ない限り、正しい投資判断はできない。

なぜEVは必要か

マイキーさんは「EV必要か不要か」の議論自体が見当違いだと断じた。EVの技術基盤はロボティクスに転用できるのだから、EVはロボティクスへの開発パイプラインの一部として位置づけるべきだ。EV単体の是非を論じている時点で、先のことも業界全体のことも考えていないことになる。

ロボティクスのTAM自体は計算不能だとマイキーさんは見ている。月面での街づくり、宇宙での作業など、用途が拡大し続けるからだ。一方、EVの市場は人口に規定されており上限が見えている。この差がロボティクスへの参入を加速させている。

出典:マイキーさんの説明に基づきClaude作図(概念図)

経済学の基本法則との整合

技術が進化すると生産コストは低下し、最終的に製品・サービスの価格も落ちる。しかしAI産業では「生産コスト削減 < 売値の下落」が起きている。データセンター建設コストは上がり続け、トークンコストは下がる。この利益圧迫がジェボンズのパラドックスで解消されるかどうかが、AI投資の最大の論点である。

質疑応答

Q:AI業界のボトルネックがGPUではなくメモリだったという情報は、どこから読み取るのか?

参加者

A:2023年のChatGPT登場時点ですでに海外の記事や特集で広く知られていた。日本語では見たことがないが、NVIDIA・Microsoft・Amazonの決算発表では必ずメモリの話が出る。強いところとボトルネックの解消方法を市場に説明するのが決算の場であり、そこで共通話題として上がっていたのがメモリだった。(マイキーさん)

Q:BYDとテスラ以外にソフトウェアまで含めて全部できている自動車メーカーはあるか?

参加者

A:見ている限りではない。ただし、Huaweiとどれだけ仲が良いかが鍵になる。Huaweiは化け物で、GPU・エッジ・ソフトウェア・通信・エネルギーの全領域に顔を出す。中国の自動車メーカーは最終的に5社程度に絞られると見ているが、Huaweiとの関係の深さがその選別基準になるだろう。(マイキーさん)

Q:ヒューマノイドはユースケースが決まったロボットに対して本当に優位か?

神原さん

A:力の入れ具合の制御が完成すれば汎用性は高くなる。ただしアクチュエーター(関節)が50個もあり壊れやすいので、保守運用でロボットメーカーに金を取られるリスクはある。特定用途のロボットは人型である必要がない場合もあり、この議論は今後必ず出てくる。ハイプサイクルの幻滅期も必ず来る。(マイキーさん)

宿題・アクションアイテム

#アイテム対象
1Huaweiの2025年アニュアルレポートを読む(コメント欄にリンクあり)全員
2マイキーさんのYouTubeでHuawei特集(約35分)を視聴する全員
3中国のロボット運動会の映像を確認し、日本(GMO)との差を認識する全員
4Huawei深圳工場の視察ツアーの可否を確認(長野さん経由で打診)マイキーさん・長野さん

用語集

HBM(High Bandwidth Memory)

高帯域幅メモリ。DRAMチップを垂直に積層し、GPU/AIアクセラレータに実装される専用メモリ。Samsung、SK Hynix、Micronが製造。

FSD(Full Self-Driving)

テスラの完全自動運転ソフトウェア。サブスクリプションで提供され、車両販売とは別の収益源。

ジェボンズのパラドックス

効率化で単位コストが下がると使い道が増え、トータルの資源消費はかえって増えるという逆説。19世紀の石炭消費で発見。

RaaS(Robot as a Service)

ロボットを所有ではなくサービスとして提供するモデル。中国で概念が広がりつつある。

TAM / SAM / SOM

Total / Serviceable / Obtainable Addressable Market。市場規模を3段階で分析するフレーム。ロボティクスのTAMは計算不能とされた。

CoWoS

TSMCの先端パッケージング技術。Chip-on-Wafer-on-Substrate。HBMとGPUを一体化する工程でボトルネック化。

ハイパースケーラー

大規模クラウドインフラを運営する企業群。Microsoft Azure、Amazon AWS、Google Cloudなど。

垂直統合モデル

部品調達から最終製品まで自社で一貫して行うビジネスモデル。テスラ、BYD、Huaweiが代表例。