STUDY REPORT / 全4本中 2本目
なぜNVIDIAは競合を潰しにいかないのか。CoreWeaveとNebiusは何が違うのか。ERRCを回し続ける企業の姿と、規制の差を収益源に変えるネオクラウドのビジネスモデルを、講義とQ&Aから再構成する。
この回のNVIDIAパートは、前田氏への質問から始まっている。「ブルーオーシャン戦略を取った企業が今も勝ち続けている。ERRC(Eliminate/Reduce/Raise/Create)を繰り返して到達した企業がブルーオーシャンだと理解したが、そういう企業はそもそも他社の参入を受けづらい構造だからできるのではないか」。この問いに対する答えが、この回の骨格になった。
前田氏の回答は「参入を防ぐのではなく、自分のエコシステムの中に他社を受け入れて、エコシステム自体を大きくしてしまう」というものである。参入は受ける。しかし市場全体が大きくなるため、その中でリードし続けるかぎり自分の利益の幅も広がる。100万人しかいなかった市場に他社が入ることで10億人まで広げられるなら、シェア率が下がっても取り分は増える。前レポートの「非破壊的創造」が、企業戦略の実装として現れた形である。
そのうえで、ネオクラウド各社の位置づけが解説された。CoreWeaveやNebiusは、あえてNVIDIAのエコシステムに取り込まれることを選んでいる。結果としてお互いの産業規模が大きくなる相乗効果が生まれる。NVIDIA側もLambdaを含む複数社に資本を投じ、意図的に「割り振り」をしている──というのがマイキー氏の見立てだった。
そして両社の差は、GPUというハードでも基本インフラでもなく、どの法域に立っているかにあると整理された。CoreWeaveは米国企業であり、データセンターで扱ったデータは米当局の要求対象になりうる。Nebiusはオランダ籍で、GDPRと個人情報保護の枠組みが企業情報を守る。だから欧州案件やエシックス(倫理・規制)が問われる案件はNebiusに投げやすい。規制の差そのものを商品にしている、というのがネオクラウドのビジネスモデルの本質だという読み解きである。
セッションを貫く1本の線
「エコシステムは囲い込みであると同時に拡張装置である」。NVIDIAは相手を潰さない代わりに、相手が成長するほど自分の市場が広がる位置に立っている。ネオクラウドはその中で、技術差ではなく法域差・用途差でポジションを取り分けている。競争の軸が「性能」から「どこに立つか」へ移っている、というのがこの回の核心。
前田氏は、ブルーオーシャンとは一度到達して終わるものではなく、ERRCを継続して回し続けることでしか維持できないと明言した。ただし「継続の仕方」は時代によって変わる。前レポートで扱った破壊型から非破壊型へのシフトが、ここでも効いてくる。
具体例としてAppleとNVIDIAが挙げられた。Appleはビジネスモデルがシンプルで分かりやすい。一方NVIDIAはビジネスモデルが何度も大きく変わっており、全部を説明するのが大変なほどERRCを繰り返している企業だという。GPUメーカーから、CUDAというソフトウェア基盤の提供者へ、さらにデータセンター全体のアーキテクチャ提供者へと、事業の輪郭そのものを何度も引き直してきた企業として位置づけられた。
📌 Claude補足 ― ERRCグリッドの定義
ERRCは『ブルー・オーシャン戦略』の中核ツール。業界で当然とされている競争要因について、Eliminate(取り除く)/Reduce(減らす)/Raise(増やす)/Create(付け加える)の4操作を行い、新しい価値曲線を描く。重要なのは「増やす」だけでなく「取り除く」「減らす」が同じ重みを持つ点で、コスト構造と差別化を同時に動かすための道具である。
質問者の直感は「ブルーオーシャンにいる企業は参入障壁が高いから守れているのだろう」というものだった。前田氏の答えはこれを反転させる。参入は受ける。むしろエコシステムの中に受け入れる。そのうえでエコシステム自体を大きくしてしまう。市場が大きくなり、その中でリードし続けるかぎり、取り分は増える。
マイキー氏はこれを数字の桁で表現した。今まで100万人しかいなかった市場に、いろいろな人たちが入ることで10億人まで広がるなら、話がまったく変わる。NVIDIAが目指しているのはそこだ、と。競合を排除して100万人の中で90%を取るより、10億人の市場で相対的リードを保つほうが遥かに大きい──という単純だが強い論理である。
他社を入れない。市場規模は固定。
指標:シェア率。
限界:市場が伸びなければ、シェアの奪い合い=レッドオーシャンに戻る。
他社を取り込む。市場規模そのものを拡大。
指標:エコシステム総額 × 自社の取り分。
条件:中核レイヤー(GPUとCUDA)を握り続けていること。
前レポートとの接続
これは「非破壊的創造」の企業版である。ハイパースケーラー各社が互いを潰しにかかっていないのは、共存したうえで自分たちの境界線を広げているから、というマイキー氏の説明と完全に一致する。ただし本人は「これは今アメリカ企業がやっていることで、多くの人にとっては早すぎる内容」と釘を刺した点も併記しておく。
質問者が「両社の違いはデータセンターを貸し出すかどうか、IaaSかどうかの違いだけではないのか」と尋ねたのに対し、前田氏は「ビジネスモデルが実は全く違う」と否定した。狙っている場所が違う。地域なのか、技術なのか、エコシステムのどのポジションを押さえるのか──この視点で見ないとネオクラウドの関係は見えてこない、と。そしてNVIDIAはかなり明確に「割り振り」をしているという。
マイキー氏の説明はより具体的だった。CoreWeaveはアメリカの会社なので、データセンターで扱ったデータも米当局への提出対象になりうる。一方Nebiusはオランダの会社で(元をたどればロシア発)、GDPRと個人情報保護法があるので企業情報が守られる。だから一部のトレーニングはNebiusに任せられるが、アメリカ市場に参入するならCoreWeaveを使うことになる。
さらに用途の分岐がある。CoreWeaveの戦略はどちらかというとトレーニング特化に寄っている。対してNebiusはトレーニングよりむしろ推論のほうが強く、フィジカルAIやロボティクス方向に向いている。一気通貫で置けるのがNebius、トレーニングに特化したのがCoreWeave、という整理だった。両社ともNVIDIAのGPUを使う以上、ハードウェアとソフトウェアの基本インフラ部分ではそこまで差別化できない。差がつくのは法的枠組みと用途である、と。
| 比較軸 | CoreWeave(CRWV) | Nebius Group(NBIS) |
|---|---|---|
| 法域・本拠 | 米国 | オランダ(旧Yandex N.V. の再編体) |
| データ規律 | 米法域。当局の開示要求が及びうる | GDPR圏。企業情報の保護が強い |
| 講義での用途特性 | トレーニング特化寄り | 推論寄り。フィジカルAI/ロボティクス |
| 時価総額(2026年8月) | 約480億ドル | 約600億ドル |
| 年初来騰落率(2026年) | 約 +30% | 約 +196% |
| 粗利率 | 24.39% | 18.81% |
| 2026年 売上成長率予想 | 151% | 544% |
| 2027年 売上成長率予想 | 105% | 250% |
| 収益性 | 両社とも現時点で最終黒字ではない | |
📌 Claude補足 ― 数値の裏取りと、発言との差
出典:https://www.fool.com/investing/2026/08/21/coreweave-vs-nebius-group-which-artificial-intelli/ / https://www.tradingkey.com/jp/analysis/stocks/us-stocks/261867172-neocloud-coreweave-nebius-iren-analysis-tradingkey
CoreWeave vs Nebius ― 時価総額と年初来騰落率(2026年8月)
単位:時価総額=十億ドル/騰落率=%(右軸) 出典:The Motley Fool(2026年8月21日)
アナリストによる売上成長率予想(2026年/2027年)
単位:%(前年比) 出典:The Motley Fool(2026年8月21日)掲載のウォール街コンセンサス
この回でもっとも実務的な示唆が出たのがこの部分である。マイキー氏の言い方を借りれば、「規制とか、そういった枠組みをうまく使っているのがこのビジネスモデルの特性」。基本インフラ部分、ソフトウェアとハードウェアの部分でそこまで差別化できるかというと疑問である。にもかかわらず両社が別々に成立しているのは、法的な枠組みが違うからだ。
言い換えれば、ネオクラウドは計算資源を売っているのではなく「その計算をどこで行ったか」という属性を売っている。欧州の顧客が欧州法域での学習・推論を求めるとき、米国籍の事業者では要件を満たせない。逆に米国市場に本格参入するなら米国籍の事業者が要る。技術が同質化するほど、この属性の価値が上がる。
📌 Claude補足 ― 「米国企業はデータを提出しなければならない」の実際 要確認
講義の「アメリカの会社なのでデータセンターで扱ったデータも全部アメリカに提出しなければならない」という表現は、法制度上はやや強い言い方。実際に対応するのは米国の CLOUD Act(2018年)で、米国の事業者が管理するデータは国外に保管されていても、令状等に基づく開示命令の対象になりうる、という枠組みである。「すべてを常時提出する」義務ではなく、「域外保管でも米当局の要求が及びうる」という性質。これがGDPR側の越境移転規制と緊張関係にあることが、欧州顧客が欧州籍事業者を選ぶ実務的な理由になっている。講義の趣旨(法域が差別化要因になる)は正しいが、条文レベルの正確な確認は各自で行う価値がある。
マイキー氏は、NVIDIAがNebiusのほかLambdaにも投資しており、それぞれ別の戦略があると述べた。前田氏の「NVIDIAはかなり割り振りをしている」という指摘と重なる。単に資本を撒いているのではなく、地域・用途・エコシステム内ポジションで役割を分担させている、という読みである。
そのうえでマイキー氏はこう表現した。「どんどんNVIDIAに巻き込まれていく」「金の使い方がバカみたいにうまい会社」。自社で全部やるのではなく、外部プレイヤーを育てながらGPU需要の受け皿を増やす。育った分だけ自社の中核レイヤーの需要が増える構造である。前パートのエコシステム拡張モデルの、資本面での実装がこれにあたる。
投資家として見るときの注意点
この構造は上げ相場では強力に働くが、循環取引的に見えるリスクも同時に抱える。NVIDIAが投資した先がNVIDIAのGPUを買い、その売上がNVIDIAの業績を押し上げる、という循環は、需要が鈍った局面で厳しく問われる。ネオクラウド各社が未黒字であることと合わせて、需要前提が崩れたときの脆さは把握しておくべき論点。