「枠組みを疑う」ことが、最も実践的な業界分析になる
この日のセッションは、ひとつの挑発的な質問から始まっている。「マグニフィセント7という言い方、そろそろ変えたほうがいいと思う人はどれくらいいますか」。参加者の多くが手を挙げ、そこから約1時間、誰を外し、誰を入れ、そもそも何を基準に選ぶのかという議論が続いた。
講師の狙いは、銘柄選定の正解を配ることではなかった。冒頭で明確に述べられているとおり、この問いには正解も不正解も存在しない。決めるのは参加者ではなくウォール街の側だからだ。にもかかわらず問いを投げたのは、「枠組みを疑えるかどうか」がその人の業界理解の深さをそのまま映し出すからである。M7という言葉を所与のものとして受け取っている人は、その枠組みが何を測るために作られたのかを考えたことがない。逆に、外す候補と入れる候補を即答できる人は、時代の変化がどの軸に沿って起きているかを日常的に追っている。
議論のなかで参加者から出た論点は多岐にわたった。台湾企業であるTSMCを入れるべきだという「グローバル視点」論、時価総額という客観指標で見れば現状維持でよいという「実績」論、そして最も鋭かったのが「そもそもこれらの呼称は投資銀行の営業戦略から生まれたプロパガンダである」という指摘だった。この最後の視点は、後述するとおり2026年に入って現実によって裏付けられることになる。
講師自身の答えは、時代区分の歴史をたどることで示された。戦後の製造業・大量消費の時代にニフティフィフティ、PC標準化の時代にWINTEL、インターネット回線の時代に4ホースメン、プラットフォームの時代にGAFA/FANG、そしてAIとEVの時代にM7。つまり枠組みの名前は、その時代の「相場を引っ張る構造」を要約したラベルにすぎない。だとすれば次に問うべきは「次に何が来るか」であり、講師はそれを自律システム経済(ASE)、そのさらに先を量子コンピューティングと宇宙産業と位置づけた。
M7という言葉は「銘柄リスト」ではなく「時代の要約」である。だから正しい問いは「どの株が上がるか」ではなく「今の時代を要約すると何が中心か、そしてその中心はいつずれるか」になる。枠組みを外して考えられる人だけが、次の枠組みが作られる前に、その材料を自分で集められる。
「変えたほうがいい」に手を挙げた人と、挙げなかった人
講師はまず、参加者に対して二つの選択を求めた。M7という枠組みをもう変えたほうがいいと思うか、それともこのままでいいと思うか。手を挙げた人には「どこを外し、どこを入れるか」を、挙げなかった人には「なぜ変えなくてよいと考えるか」を順に尋ねていく。この構成自体が、この日の主題を体現している。賛成側と反対側の両方に理由を言わせることで、判断が何を根拠にしているのかを可視化させる設計になっていた。
入れるならTSMC、外すならApple——ただし迷いがある
最初に指名された参加者は、追加候補としてTSMCを挙げた。外す候補としてはAppleを考えていたが、直近のレポートを見るとまだ生き延びる可能性があると思い始めたところだ、と留保をつけた。理由として挙げたのは、iPhoneの中国での売上がiPhone 16と比べて明確に伸びているという点である。AIでは大きく遅れているが、既存ビジネスの拡大にまだ余地があるかもしれない、という判断だった。
講師はここで二つの質問を返している。ひとつは「マグニフィセント7はこれまで米国企業の枠組みだったが、台湾企業であるTSMCを入れるのはスコープをグローバルに広げるという考え方か」。回答は「その通りで、スコープはグローバルで見るべきだ」だった。もうひとつは「TSMCを技術力で入れるなら、テンセントやアリババ、Huaweiは技術的にGAFAMに負けていない、むしろ上回る部分も多い。それらを入れない理由は何か」。回答は「制裁リスクが極めて高い。これ以上伸びようとすると必ず米国とぶつかり、上限を抑えられる。中国企業を入れるのは抵抗がある」というものだった。
📌 Claude補足:この「Appleを外し切れない」という判断は、10ヶ月後に完全に正しかったことが確認できる
発言時点(2025年10月)で「iPhoneの中国売上が伸びている」という感触は、その後の実績で裏付けられた。Appleの2026年度第1四半期(2025年10〜12月期)は売上・純利益ともに過去最高を更新し、iPhone単体で四半期850億ドル超を計上。中国での売上は前年同期比38%増、iPhone 17シリーズは中国のスマートフォン販売の25%を獲得し、2022年以来最高のシェアとなった。株価は2026年に入って一時289ドル近辺の最高値を更新し、2026年8月時点の時価総額は約4.4兆ドルで世界第3位を維持している。予測的中
一方でTSMCを追加すべきという判断も的中している。TSMCの時価総額は2026年3月末時点で前年比101%増の1.43兆ドルとなり、7月末に2兆ドルを回復、8月時点では約2.1兆ドル前後で世界9位圏に入っている。「米国企業という縛りを外してグローバルで見るべき」という発想そのものが、後述するウォール街の新ラベルで現実になった。予測的中
手を挙げなかった側の論理——戦略と時価総額
次に講師は、手を挙げなかった参加者に理由を尋ねている。ひとりは「愛用型ではなく競争型という意味で、7社はいまだにそれぞれ独自のポジションと独自の戦略で市場を牽引している。データセンターなどで強みと弱みがはっきりしてきたのは事実だが、戦略の立て方には依然として見るべきものがあり、牽引役として足りている」と答えた。もうひとりは「米国企業の時価総額で見れば、M7はまだまだ上位に来ている。特に変える必要はない」と述べた。
この時価総額基準に対して、講師は具体的な反証をひとつ返している。M7の一角であるテスラよりも、M7に入っていないブロードコムのほうが時価総額が大きい。それでも枠組みを変えなくてよいのか、という問いである。参加者は「ブロードコムは最近上がってきたところもあるので、もう少し様子を見たほうがいい」と応じた。
講師はさらに歴史的な事実を持ち出している。テスラは、時価総額がバークシャー・ハサウェイよりも、さらに言えばイーライリリーやウォルマートよりも低かった時期に、すでにマグニフィセント7に組み込まれていた。つまり選定基準は時価総額だけではない。参加者はこれを受けて「世界を変える企業という期待値、イーロン・マスクの企業だから普通の企業よりは何かやってくれるだろうというワクワク感が高かった」と整理し直した。トヨタと時価総額が同程度だった時期から、期待値は相当高かったという指摘である。
📌 Claude補足:ブロードコム対テスラの逆転は、その後さらに拡大した
「テスラよりブロードコムのほうが大きい」という2025年10月時点の指摘は、2026年8月時点でさらに差が広がっている。ブロードコムの時価総額は約1.70兆ドルで世界8位圏、テスラは約1.37兆ドルで11位圏。差は約3,300億ドルに拡大した。テスラ株は2026年6月に52週高値498.83ドルをつけた後、7月末に297.38ドルまで下落し、8月時点で336ドル前後。ロボタクシーの展開規模がマスクCEOの示した計画に届かず、FSD v15のリリースが2026年後半から2027年初頭にずれ込んだこと、AI・ロボティクスへの巨額投資でフリーキャッシュフローがマイナスに転じたことが重荷になっている。指摘は継続して正しい
ただし「テスラはロボティクスが来る可能性があるので残したほうがいい」という当日の留保も、まだ否定されてはいない。Optimusは2026年時点で社内テスト中心の開発・パイロット生産段階にあり、外部への小規模出荷が年後半に始まる可能性が語られている段階である。この論点は現時点で決着していない。要確認
最も鋭い指摘——これは投資銀行の営業戦略である
議論の質を一段引き上げたのは、金融実務の経験を持つ参加者の発言だった。この参加者はまず、こうした呼称の起源に触れている。命名したのは投資銀行の人間であり、自身も現役時代にその人物と話したことがある、と。そのうえで、選定の根拠は時価総額の大きさそのものではなく、「そのとき投資銀行として儲かるビジネス対象がどれか」という発想から出てきたのではないか、という見立てを示した。
比較として持ち出されたのがゴールドマン・サックスのBRICsである。あれもゴールドマンがアセットマネジメントを含めて投資を分散させるために最初に打ち出したプロパガンダだった、という指摘だ。だとすれば「次にどの会社が入るか」は企業側の成長期待ではなく、銀行側が今後どういう営業戦略を取るかで決まる。ストラテジストが自分たちのグループにとって最良の戦略を考え、それを会社として一斉に発信する。だから次に来るのは、未上場企業やプライベート・エクイティを餌にするような枠組みではないか——これがこの参加者の予測だった。
📌 Claude補足:命名者についての発言には食い違いがある。ただし「未上場が入る」という予測は的中した
発言では「ガーファムという名前をつけたのが投資銀行の人間で、マイケル・ハートネットではないか」という趣旨が語られた。公開情報で確認できるのは以下のとおりで、対象がずれている。マイケル・ハートネットはバンク・オブ・アメリカのチーフ・インベストメント・ストラテジストで、彼が2023年5月に命名したのは「マグニフィセント・セブン」である。GAFAはフランス発の呼称、FANGは2013年にCNBCのジム・クレイマーが使い始めた呼称で、いずれもハートネットの命名ではない。発言と公開データに食い違いただし議論の文脈が「M7の命名」であったとすれば、人物の同定自体は正確である。この差は本人に確認する価値がある。
BRICsについての指摘は正確で、2001年にゴールドマン・サックスのジム・オニールが提唱したものである。そして「未上場企業やPEを餌にする枠組みが次に来る」という予測は、2026年に現実になった。2026年6月に報じられた新しい括りのひとつが MANGOS(Meta・Anthropic・NVIDIA・Google・OpenAI・SpaceX)で、6社中3社(Anthropic・OpenAI・SpaceX)が未上場である。この日の議論からわずか8ヶ月での的中だった。予測的中
Apple製品を「次も買いたい」と思えなくなった
別の参加者は、その日の朝に子どもと株の話をしたエピソードから入った。子どもが真っ先にAppleの名前を出したことに対し、「Appleは悪くないけれど、ちょっと」と応じたという。その理由を自己分析して出てきたのが、Apple製品をいくつも持っているのに、次を買いたいと能動的に思わなくなっていた、という感覚だった。新しいことに積極的に取り組んでいるのかもしれないが、それが表面化していない。失速感は否めない、という評価である。
TSMCを入れるかどうかについても、この参加者は独自の理由を挙げた。台湾企業が中国企業と何が違うかといえば透明性であり、自分が購入するとしたら中国企業には手を出しにくい。国家として他のものを動かしていたとしても、中国という国自体から圧力が入ると状況が変わりそうな印象が強い、という判断だった。
M7では説明できない企業が出てくる
最後に指名された参加者は、M7を「テクノロジーで世界中を改革し、イノベーティブにしていく推進力がある企業」と定義したうえで、決定的な違和感を口にした。この7社はすべて上場企業である。しかしOpenAIは上場していない。だから入っていないのではないか。そしてこれからのことを考えると、M7だけでは全然説明できない吸引力の中心になっている会社がまだこれから出てくる。M7はどんどん古くなり、「昔こういう風に呼ばれた会社があるよね」と言われるようになる気がする——だから手を挙げた、と。
「上場していないから入れられない企業が、実質的な中心になる」という違和感は、2026年6月のMANGOSという括りで解消された。Anthropic、OpenAI、SpaceXという未上場3社が公然と同じリストに並べられるようになったのである。上場・未上場という区分よりも「AIの中心にいるかどうか」が優先される時代に入ったことを、この参加者は8ヶ月前に言い当てていた。
枠組みの系譜——ニフティフィフティから M7 まで
参加者の意見が出そろったところで、講師は歴史をさかのぼる。「ガーファムの前に何があったか知っていますか」という問いから始まり、FANGとGAFAはほぼ同時期であること、ではその前は何かという流れで、戦後まで一気に戻っていく。
製造業と大量消費の時代——ニフティフィフティ
戦争が終わり、米国経済で最も強かったのが製造業だった時期がある。物が売れる、あるいは売れる見込みのある会社をとにかく束ねたのがニフティフィフティだった。講師が挙げた具体名はIBM、コカ・コーラ、マクドナルド、ゼロックス、ポラロイド、ファイザー。米国の製品が世界中に広がっていく局面で、大量生産できるB2C製品を持つ企業をパッケージにする、という発想である。
📌 Claude補足:ニフティフィフティの実像と、その後に起きたこと
ニフティフィフティは1960年代後半から1970年代初頭にかけて、モルガン・ギャランティ・トラストが「最も成長の速い企業群」として選定したとされる約50銘柄を指す。IBM、ゼロックス、ポラロイド、コカ・コーラ、マクドナルド、ジョンソン・エンド・ジョンソン、ディズニー、イーストマン・コダック、GE、シアーズなどが含まれ、講師の挙げた社名は実際の構成銘柄と一致している。「一度買えば売る必要がない(one-decision stock)」と呼ばれたことが、この括りの性格をよく表している。
ただし結末は重要である。1972年時点でニフティフィフティの平均PERは42倍とS&P500の2倍以上に達し、ポラロイドは95倍、マクドナルド・ディズニーは71倍だった。1973〜74年の弱気相場でS&P500が約45%下落するなか、ポラロイドは高値から約91%、エイボンは86%、ゼロックスは71%、マクドナルドは約70%下落している。「枠組みに入った銘柄」がバリュエーションの正当化に使われる危険は、この時点ですでに実証済みだった。
PCを個人に届ける時代——WINTEL
次に来たのが1980年代、コンピューターをどうやって個人に届けるかが主流になった時代である。ここではIntelとWindowsの二強があまりに強すぎたため、両者をまとめてWINTELと呼んだ。PCの標準プラットフォームとして競合を圧倒的に支配した構造を、そのまま名前にしたものだ。
ネット回線の時代——4ホースメン
PCの次に何が来たか、という問いに参加者から「スマホ」という答えが出たが、講師は「その前にある」と切り返した。インターネット回線である。回線が引かれてネットの時代になったとき、ナスダック市場で急成長した企業群が4ホースメンと呼ばれた。講師が挙げたのはYahoo、Amazon、Cisco、Microsoftの4社で、当時のCiscoは通信では最強レベルだったという補足がついた。
📌 Claude補足:4ホースメンの構成メンバーには複数の説がある
「ナスダックの4ホースメン」として最も広く記録されているのは、Cisco Systems・Dell・Intel・Microsoft の4社である。2000年3月のピーク時、この4社の合計時価総額は約1.7兆ドルに達し、1999年から2000年にかけてナスダックの値動きの55〜60%を説明したとされる。発言にあったYahooとAmazonは、この定義には含まれない。発言と公開データに食い違い
ただし当時は「インターネットの4ホースメン」としてYahoo・Amazon・AOL・eBayを挙げる用法や、ドットコム後期にCisco・EMC・Oracle・Sun Microsystemsを指す用法も並行して存在した。どの系譜を指していたのかは本人に確認する価値がある。要確認いずれにせよ「回線とネットの時代を代表する4社」という枠組みの性格についての説明は正確である。
プラットフォームの時代——GAFA / FANG / GAFAM
その後に出てきたのがGAFAであり、そこにMicrosoftを加えてGAFAMになった。プラットフォームという言葉で括られる企業群である。講師はここで、プラットフォームという目線で見るならNetflixを含むFANGのほうが実は適切だ、という補足を後半で加えている。依存状態を作り出す構造という意味では、Netflixのほうがプラットフォーム性が高いという評価である。
AIとEVの時代——M7
そしてM7とは何かといえば、米国企業のなかでAIやEVといった「次の新しい製品の時代」を代表する枠組みである。つまりこれらの名前はすべて、米国株式市場を今後引っ張ってくれる構造を要約するために作られてきた。だとすれば、AIがすでに来ている今、次に出てくるのは何かという問いが自然に立ち上がる。
図1:米国株の「枠組み」の系譜と各時代の中心テーマ(勉強会での説明をもとにClaude作図。年代は各呼称が広く使われた概ねの時期)
次に来るのは自律システム経済(ASE)、その先は量子と宇宙
プラットフォームができ、ネットワークがある程度世界中で繋がった。では次は何か。講師の答えは「自律システム経済」だった。物理とネットワークの最適化の時代である。ロボティクス、工場、物流、建設、医療の自動化。自律エージェントやロボット自体が、契約・製造・配送・決済まで統合的に連結し、自律サプライチェーンのインフラを作っていく時代になる、という見立てである。
そしてその後に来るのがおそらく量子コンピューティングで、量子と同時期に立ち上がるのが宇宙産業だと講師は続けた。Blue OriginやSpaceXのような企業がこの枠に入ってくる、いわば「AI宇宙」になっていくのではないか、という展望である。
📌 Claude補足:「ASE(Autonomous System Economy)」という略語の位置づけ
ロボットや自律AIエージェントが生産活動の相当部分を担う経済という概念自体は、2025〜2026年に広く議論されている。ただし定着した英語表現としては「agentic economy」「robot economy」「autonomous economy」が主流で、「Autonomous System Economy / ASE」という略語が業界標準として確立しているとは確認できなかった。要確認
概念の中身は共有されている。機械同士が交渉し、契約を実行し、リソースを配分し、人間の仲介なしに決済まで行う「machine-to-machine トランザクション」の台頭が、この経済圏を定義する特徴として挙げられている。講師が述べた「契約・製造・配送・決済まで統合的に連結する自律サプライチェーン」という説明は、この定義とほぼ一致している。
M10という議論——入れるならPalantir、Broadcom、Oracle
講師によれば、当時のウォール街ではAppleを外すべきか、テスラはもう違うのではないか、といった議論が実際に起きていた。逆に「今いちばん入れたほうがいい」と言われていたのがPalantir、Broadcom、Oracleである。M7ではなくM10でいいのではないか、という意見もあった。BroadcomとOracleはまさにネットワークの最適化企業であり、次の時代の中心軸に沿っている、というのがその論拠である。
外す候補として最も名前が挙がっていたのはテスラとApple。ただしAppleについては「デバイスAIになるから入れておいたほうがいい」という反論があり、テスラについては「ロボティクスがかなり来る可能性があるので残したほうがいい」という反論があった。さらに、AmazonをもうM7から外していいのではないか、という意見もウォール街には存在した。
図2:主要銘柄の時価総額——2025年10月(勉強会当時・概算)と2026年8月(裏取り済み)の比較。単位は兆ドル。2026年8月の数値はWebSearchで確認、2025年10月は当時の株価水準からの推計値を含む
📌 Claude補足:追加候補3社のその後は、まったく違う道をたどった
Oracle——最も厳しい結果になった。2025年9月10日に52週高値345.72ドルをつけ、2025年通年では86.8%高だったが、2026年上半期に24.8%下落し、前年の最高値からは50%超の下落となった。1週間で19%下落した局面は、2001年8月の20%下落以来という記録的な下げだった。原因は明確で、2026年度の設備投資が162%増の約560億ドル、5月末時点の負債が約1,300億ドル、フリーキャッシュフローが約240億ドルのマイナス。債務のデフォルト保険コストが過去最高に達し、AI顧客が契約を履行できないリスクが意識された。「入れるべき」という評価は結果的に外れ
Palantir——2026年8月26日時点の株価は178.13ドル、時価総額は約4,200〜4,280億ドル。2025年10月時点とほぼ同水準で、10ヶ月かけてほぼ横ばいという結果である。ただし途中経過は激しく、52週レンジは106.37〜207.52ドル。高値から約49%下落する局面があった。PERは2026年8月時点で182倍前後と、バリュエーションの高さは解消していない。評価は判定保留
Broadcom——3社のなかで唯一、明確に成功している。時価総額は約1.70兆ドルで世界8位圏、テスラとメタの両方を上回った。当日「もう少し様子を見たほうがいい」とした参加者の判断は、結果的には機会損失だったことになる。「入れるべき」は的中
Amazon——「外していい」というウォール街の一部意見は完全に外れた。2026年第2四半期にAWSが前年同期比37%増と18四半期ぶりの高成長を記録し、四半期売上が初めて2,000億ドルを突破。営業利益は43%増の275億ドル。7月31日に株価が約15%上昇し、時価総額は3兆ドルを突破した。2026年の設備投資計画は2,200億ドル。「外していい」論は外れ
この日「M7はどんどん古くなり、昔こう呼ばれた会社があるよねと言われるようになる」と述べた参加者の予測は、8ヶ月で現実になった。2026年に入り、米国のハイパースケーラー・テック・AI領域の分散(ディスパージョン)が大きくなりすぎたことで、M7という括りに頼ること自体が問題視されるようになった。2026年のS&P500が約9%上昇するなか、マグニフィセント7は約1%下落。3年間機能してきたM7への傾斜が年初来でマイナスに沈み、等ウェイトの米大型株がそれを上回るという逆転が起きている。ハートネット自身の所属先であるBofAからも、M7ポートフォリオがリスク調整後で市場ポートフォリオに劣後しているという分析が出た。代替ラベルとして MANGOS、FAB 10、Parabolic 7 といった呼称が登場している。
枠組みを自分で作るための設計図——コア技術で切る
講師は「入れ替え作業が必要になる」と述べたうえで、その判断をどこから導くかを具体的に示している。見るべきは、これまでの構造が自律型のネットワークやサプライチェーンへ変化していくときに、どのコア技術が変化することでその自律的サプライチェーンが誕生するのかという一点である。ここをベースに考えれば、意見は自然に変わってくる。
問いの立て方も具体的に示された。自律型のAIエージェントが出てくるとして、目的に特化したエージェント化をするには何を変化させればいいのか。デバイス関連で自律エージェントがエッジコンピューティングになるとき、どこが変化すれば最適か。GPUとカスタムASICとFPGAをどう棲み分け、エネルギー効率をどう高めるのか。こうしたコアになる部分を特定していく作業である。
2025年10月時点でのカテゴライズ例
講師はその場で、当時の時代における分類例を口頭で並べていった。整理すると以下のようになる。
| レイヤー | 挙げられた企業 | 問われる変化 |
|---|---|---|
| 基盤モデル/プラットフォーム | OpenAI、Anthropic、Google、Meta、Microsoft、Mistral AI、Cohere | 目的特化型エージェントへの分化 |
| 計算(半導体) | NVIDIA、AMD、TSMC | GPU / カスタムASIC / FPGA の棲み分けと電力効率 |
| 計算インフラ・製造装置 | ASML、Google、AWS | 供給制約と自社チップ内製化 |
| 運用データ | Palantir、Databricks、Snowflake | データの実装と運用への接続 |
| 産業実装(サービス) | Palantir、Adobe、ServiceNow、Siemens、SAP、Salesforce | 現場の業務プロセスへの組み込み |
| AIと物理の融合 | Tesla、Waymo(Google)、医療ロボット企業 | 自動運転・ロボティクスの実用化 |
この分類の意味は、単なる銘柄リストではない。「どのレイヤーのコア技術が変わったとき、自律サプライチェーン全体が動き出すか」を考える座標軸として使うためのものである。だから電力の効率化やコスト削減、エネルギーという軸を入れれば、同じ企業群でも図の形はまったく変わる、と講師は付け加えている。
この日の冒頭で共有されたAI業界の相関図には、Broadcomだけが意図的に含まれていなかった。理由は、あの図が「AI領域における出資関係とサービス関係」だけをベースに作られていたからである。Broadcomは買い手側の企業であり、Oracleとも違う目線が必要になる。同じ企業でも、どの軸で図を描くかによって載る/載らないが変わる——この一点が、カテゴライズという作業の本質を示している。
米国での命名は「ファンディング」と地続きである
議論の締めくくりで、講師は自分の見解をこう整理した。M7を変えたほうがいいか変えないほうがいいか、どちらにも正解はない。決めるのは自分たちではなくウォール街の側だからだ。そのうえで、米国の傾向として名付けが行われるとき、それは資金調達の局面と非常に相性がよい。だからプロパガンダという捉え方もできる。戦略的に見ればTSMCを入れるべきという判断も正解であり、Broadcomはまだ早いという判断も正解であり、Palantirは時価総額的にまだという判断も納得できる。答えは何でもよかった。
重要なのは、自由な発想でカテゴライズできること、そしてその創造性を支えるだけの知識があることだ、というのがこの日の結論である。講師はむしろ「回答が出てこないこと自体に絶望した」と述べている。正解も不正解もない問いに対して意見を持てないという状態こそが、問題として名指しされた。
枠を外すことが「快感」になる
参加者のひとりは、この議論を「当たり前だと思っていたことを根底から考え直すお題」と表現し、ブレインストーミングとして非常に面白かったと述べた。GAFAMからM7に変わったということは、何かから何かに変化した時代だからM7に変わったのであり、その変わった理由こそが重要である、と講師は応じている。スタンダードとなっていたもの自体が変化しているのだから、スタンダードは何なのか、それに対してAppleやテスラは含まれるのか、という問いが立つ。
この参加者はさらに、「M7はCEOの名前が浮かぶ。それがアメリカの力を象徴しているように見えた」と述べ、CEO括りで考えるとM7の枠はもっと広がるのではないかと展開した。講師も「マグニフィセント7はテスラではなくイーロン・マスクが入っている」と応じている。世界のシステムという軸で考えれば、AppleのiOSやApp Storeが欧州のDMA・DSAによって解体されつつある現在、Appleを入れるべきかどうかという別の問いも成立する、という補足も加わった。
質疑応答
講師の答えは段階を分けるものだった。AIで分析できるようになったとして、次に必要になるのはレアアースの代替体そのものであり、さらにそれを大量生産する設備にどれだけかかるかという問題が来る。今はまだ「分析ができるようになるか」という手前の段階である。
そのうえで講師は、新素材が実用化されて一般の工場に入るまでには概ね20〜30年かかると述べた。具体例として挙げられたのが、メリーランド大学発のスタートアップ Ion Storage Systems である。ニッケルやリチウム、パラジウムをほとんど使わずに全固体電池ができるとして注目されたが、当初2025年に量産できると言っていたにもかかわらず、結果として何もできていない状態だという指摘だった。
類例として、太陽光は15〜20年前から注目されていながら世界の電力の数%しか賄えていないこと、ブロックチェーンの論文は1990年代前半に出ているのに実用化されていないこと、mRNAは研究されてから40年経って出てきたことが挙げられた。
📌 Claude補足:この回答に含まれる事実関係を個別に検証した
2025年ノーベル化学賞——正確である。京都大学の北川進、メルボルン大学のリチャード・ロブソン、UCバークレーのオマー・ヤギーの3氏が「金属有機構造体(MOF)の開発」で受賞した。1992〜2003年にかけての一連の発見が対象で、砂漠の空気からの集水、CO2の回収、有毒ガスの貯蔵、化学反応の触媒などへの応用が評価されている。
Ion Storage Systems——「2025年に量産と言っていたができていない」という指摘は正しい。同社はメリーランド大学のエリック・ワックスマン博士が創業したスピンオフで、2026年3月にようやく米国の全固体電池企業として初めてCornerstoneセルの顧客認定を取得。ベルツビル工場の焼結炉設置を経て2026年後半に量産開始予定という状況である。初期ターゲットもEVではなく産業用・防衛用途で、講師の「実用化には時間がかかる」という主張を、この1年でむしろ補強する展開になった。指摘は正確
太陽光の電力シェア——「世界の電力の数%」という数字は、発言の時点でやや保守的だった。Emberの集計では2025年上半期に世界の電源構成に占める太陽光の比率は6.9%から8.8%へ上昇し、2025年通年では発電量が前年比30%増の2,778TWhに達して、世界の電力需要増加分の75%を太陽光が賄った。太陽光は2025年に初めて風力を世界で上回っている。「主流電力になっていない」という趣旨は成立するが、数字は「数%」より進んでいる。数値に食い違い
ブロックチェーン——正確である。暗号学的にリンクされたブロックチェーンの原型となる論文は、1991年のHaberとStornettaによるものが最初期とされる。
講師はまず中国側の構造を整理した。中国製造2025は10項目程度に分かれており、その領域には資金を集中投下する。国の方向性が先に決まっている状態であり、言い換えれば監視された世界のなかで企業をどう成長させるか、あるいは中国という国のために会社がどう動くかがベースになっている。それが中国のやり方である。
これに対し米国は、バイデン政権期までは「自由経済としてやってください」という状態だった。それがトランプ政権になって、国の関与が重要だという方向に合わせてきている——つまり質問者の指摘のとおりだ、というのが講師の回答である。
そのうえで講師は、自身が2024年時点でYouTubeで述べていたことに言及した。2024年と2025年のキーワードは「政府介入」である、と。まさにそれが今起きている、というのがこの日の総括だった。政府の介入があるところの関連会社の株が伸びている、という現象がその証左として挙げられた。
📌 Claude補足:「政府介入」というキーワードは、この時点ですでに実例が積み上がっていた
2025年8月22日、トランプ政権はIntelに交付予定だったCHIPS法の補助金を株式に転換し、米国政府がIntelの10%を保有する取引を発表した。政府は1株20.47ドルで4億3,330万株を89億ドルで取得。原資は未払いのCHIPS法補助金57億ドルと、国防総省のSecure Enclaveプログラム32億ドルである。取締役会の議席や情報請求権を持たないパッシブ保有という形式が取られた。トランプ大統領は「Intelのようなケースをもっと多く手がける」と明言している。NVIDIAとAMDには、対中輸出許可と引き換えに中国での売上の15%を政府に支払わせる仕組みも導入された。「政府介入がキーワード」という2024年時点の見立ては、公開事実によって裏付けられている。予測的中
回答は「制裁リスクが極めて高いため」だった。今以上に伸びようとすると必ず米国とぶつかり、その制約で頭を抑えられるリスクがある。だから中国企業を入れることには抵抗がある、というものである。講師はこれを「あなた個人としてはそう考えるということですね」と確認したうえで受け止め、正誤の判定はしていない。
持ち帰るべき課題
- 自分でM7を組み替えてみる。誰を外し、誰を入れるかを、時価総額・期待値・コア技術のどの軸で判断したのかを明示しながら書き出す。正解はないが、軸を言語化できない状態は問題である。
- コア技術のレイヤーで業界を切り直す。基盤モデル/計算/インフラ/運用データ/産業実装/物理融合という6レイヤーで、自分の追っている業界の企業を配置してみる。そのうえで、電力効率やコスト削減という別の軸に切り替えたとき図がどう変わるかも試す。
- 自分の業界で同じ作業をする。AIでもEVでも半導体でも、映画業界でもゲーム業界でもよい。自分が知っている業界の関係図を作り、何かが起きるたびにそこへ情報を加えていく。全体像が理解できるようになるまで更新し続ける。
- 「次の時代」の仮説を立てる。自律システム経済(ASE)、量子コンピューティング、宇宙産業という順序で本当に来るのか。来るとすれば、どのコア技術の変化がその引き金になるのかを自分で調べて仮説を持つ。