この回の冒頭十五分は、マイキー氏がソウルのホテルから中継で参加し、その日の打ち合わせについて話すところから始まっている。形式としては雑談だが、内容は韓国エンタメ産業の収益構造分析そのものである。本レポートは、この冒頭部分(動画0分00秒〜15分15秒)を主軸に、この回の議論のなかで韓国に関連する部分を収録している。
その日の打ち合わせの相手は、K-POPの音楽プロデューサー陣だった。マイキー氏は6年ぶりの韓国訪問で、芸能関係の分析を持ち込んでいる。「多分向こうも気づいていないような内容だと思うんですけど」と述べたうえで、彼が整理したK-POPの稼ぎどころは五つである。チケット売上、ストリーミング、アルバム、CMなどのスポンサーとブランドアンバサダー、そしてテレビ番組。さらにそれらをマーケティングするための人員構成のデータも分析対象に含めていた。分析結果は無償で相手に渡している。「お役に立てればいい」というスタンスである。
そして、この回で最も戦略的に重要な指摘が出る。6年前にがっつり入っていた時と何が変わったかという問いに対し、彼はこう答えた。「やっぱりインターナショナル化しちゃってるって感じで、なんかK-POPって言葉のこの『K』をなくしたいのがすごくあると思うんですよね。」そして参照モデルを挙げる。映画イコールハリウッドと同じように、ポップミュージックイコールコリアだよね、という状態に持っていく。いまはあくまでポップミュージックのなかのK-POPという位置づけだが、その関係を逆転させたい、というのである。
この見立ては、公開されている決算データと突き合わせると強く裏づけられる。2025年のHYBEの海外売上比率は63.7%で、4大事務所のなかで最も高い。JYPが55.7%、SMは韓国国内が約7割を占めて最も国内依存が強い。さらに収益構造そのものが転換した年でもあった。HYBEはコンサート収益が前年比69%増、グッズが36%増となる一方、アルバム売上は10%減。「盤を売る」産業から「興行と体験を売る」産業へ、稼ぎ頭が入れ替わっている。興行はアルバムと違って国籍を問わない。「Kを外す」という戦略と、収益構造の重心移動は同じ方向を向いている。
後半では、マイキー氏がスポンサー枠の買い取りを申し出た経緯、有明アリーナで観たaespaのライブ評、そして2026年のBTSワールドツアーへの計画が語られる。会場の音響、ファンダムの熱狂度、失神者の数といった、通常の産業分析には出てこない評価軸が並ぶのがこの部分の特徴である。これらは雑談に見えて、実際には「体験の強度をどう測るか」という指標の話をしている。
この冒頭部分を貫いているのは、「産業の国籍をどう扱うか」という問いである。K-POPは韓国発であることをブランドにして成長してきたが、成長し切った段階でそのブランドが天井になる。だから「K」を外してポップミュージックそのものになりに行く。同じ回の後半で扱われた重商主義の議論――自国ファーストで囲い込むことが最終的に自分の足を引っ張るという構図――と、この戦略は正面から響き合っている。囲い込みから外へ出るタイミングをどこに置くか。それが、この回の冒頭と本編を貫く共通の問題設定になっている。
勉強会は、マイキー氏が韓国のホテルから接続した状態で始まった。開始前の雑談は、その日の打ち合わせの報告である。彼はまず「スポンサー枠をまず確保して」と切り出し、続けてもう一度やってみてもいいかと思っていることとして、過去の実績を挙げた。以前BTSで化粧品を売ったことがあり、3か月で100億円を売ったという話である。「クオリティのことはさておき、売れまくったというのは」と本人も言い添えている。
その実績を踏まえ、日本のメーカーをいくつか繋げて販売権を売り渡そうかと考えている、と述べた。「BTSが絡むんだったら、まあ100億くらい行くだろうっていう売上だとしてね。」そういう話もあったので「いいっすよ、やりますよ」と受けた、という流れである。参加者からは「じゃあ来年のワールドツアーに、BTSのライブに『マイキーの非道徳社会学』って名前が乗るかもしれないですね」という冗談が飛び、笑いが起きている。
この数値について、今回のWebSearchでは裏づけとなる公開情報を確認できなかった。要確認 BTSがアンバサダーを務めた化粧品ブランドは複数存在するが、「3か月で100億円」という具体的な売上規模を特定の案件に結びつける公開データは見つかっていない。本レポートでは発言としてそのまま記録し、数値の裏づけは行わない。なお、この数字が正しいとすれば、後述するK-POPの収益5本柱のうち「スポンサー/ブランドアンバサダー」の破壊力を示す事例になる。
手土産の話も出た。マイキー氏は、TWICE全員から「マイキー佐野さん家へ」という宛名でサインをもらってきたという。同様にBLACKPINKからも、aespaからもサインを取ってきた。「いいお土産できたなみたいな。」そのうえで「BTSはいらないの」と聞かれ、めちゃくちゃ欲しいと答えたところ、その日BTSの作曲プロデューサーと食事に行くことになり、好きなメンバー(テテ)のサインを頼んで「分かりました」という返事をもらった、という経緯である。相手は来月日本に来ると言っていたので、そこで打ち合わせをしましょうという話になった。
途中、勉強会の会場側では別の参加者が入室し、AIエンジニアの友人と一緒にいるという説明があった。マイキー氏は「新宿にいません。僕、今韓国にいるんで」と応じ、「ユッケを食ってお腹がぐるぐる回っているんで、もう無理っす」と言って講義に入っている。打ち合わせがあっという間に過ぎてしまい、「やべえ、僕Zoomの講義なんで」と言ってホテルまで送ってもらった、というのがこの日の直前の動きだった。
参加者から「韓国の社会というか、6年ぶりに行ってみて印象は変わりましたか」という問いが出た。マイキー氏の答えは、大枠では「変わらなかった」である。だが具体的に挙げられた変化は、いずれもインフラと生活の水準に関わるものだった。
第一に、空港から出るまでの時間である。以前は1時間ほどかかっていたのが、今回は10分で出られた。国際空港は10分から15分くらいで出られるようになっており、「早えな」と思ったという。第二に、カカオタクシーが非常に増えていたこと。第三に、化粧品関連のフランチャイズを何十店舗も展開している人がドライバーを買って出てくれて、4人ほどで移動していたこと。「いつも通りって感じなので、あんまりサプライズという感じではないですけど」というのが総括だった。
ビジネスの温度感についても率直だった。「言ってしまうと、ビジネスをやって、例えば一発当てようというだけでBTSを絡ませたら、それで終わるじゃないですか、全部。」それはもう終わりであり、だから別に金にはあまり興味がないが、せっかく来たし、せっかく会ったし、もう一度乗ろうかなという感じだ、と。外枠的にはそんなに変化はなかった、というのがこの節の結論である。
そのうえで、彼が実際に時間をかけたのは芸能関係の分析だった。6年前と比べれば勢力図は当然変わっており、いろんな結びつきが変わっている。それをデータで全部見せた。「多分向こうも気づいていないような内容だと思うんで」というのが彼の評価である。
マイキー氏が挙げた変化は、いずれも「摩擦の減少」である。入国審査の時間が6分の1になり、配車アプリが普及し、現地のビジネスパーソンが自ら運転して移動する。これらは韓国側の対外的な取引コストが下がったことを意味する。後述する「Kを外す」戦略は、この摩擦低下の上に乗っている。国外の人間が入ってきやすく、動きやすい環境が整っていなければ、産業の国籍を外すという発想自体が成立しない。
マイキー氏が持ち込んだ分析の骨格が、この節である。彼は「まずそのK-POPの稼ぎどころって何かというと」と切り出し、順に挙げていった。
| 収益の柱 | この回での言及内容 |
|---|---|
| ①チケット売上 | 最初に挙げられた柱。後述するワールドツアーの規模を考えれば、単独で最大の収益源になりうる |
| ②ストリーミング | デジタル配信からの収益。国境を持たない収益源であり、インターナショナル化と最も相性がよい |
| ③アルバム | 実物盤の売上。K-POP特有のフィジカル購買文化に支えられてきた柱 |
| ④スポンサー/ブランドアンバサダー | CMなどのスポンサー収入と、ブランドアンバサダー契約。マイキー氏が「以前BTSで化粧品を売った」という実績を持つのもこの領域 |
| ⑤テレビ番組 | 「ちょっと分からないので、僕もそこはリーチできない」と本人が限界を明示した唯一の領域 |
| +人員構成データ | 上記をマーケティングするための人員構成の分析。マイキー氏はこのデータも「全部あげますよ」と相手に渡している |
この五本柱の整理自体は、公開されている決算構造とよく一致する。そして重要なのは、この五本柱の比重が、まさにこの時期に大きく入れ替わっていたことである。
HYBEの2025年売上高は2.65兆ウォンで過去最高を記録した。だが注目すべきは中身である。最大の収益源はコンサートで、コンサート収益は前年比69%増、グッズは36%増。一方でアルバム売上は前年比10%減となった。マイキー氏が挙げた五本柱のうち、①チケット(と④に近いグッズ)が伸び、③アルバムが縮んでいる。
他社の2025年業績も押さえておく。SMエンターテインメントは約5億9,500万ドル(前年比22.6%増)、JYPエンターテインメントが約5億ドルで第3位、YGエンターテインメントが約2億4,800万ドルで前年比71.3%増である。
この構造転換は「Kを外す」戦略と直結している。アルバムというフィジカル商品は、購買文化そのものが韓国のファンダム文化と結びついており、国籍を強く帯びる。対してコンサートとグッズは現地で消費される体験であり、開催地の文化に溶け込む。稼ぎ頭が盤から興行へ移ったということは、収益の重心が「韓国発であること」から「その場で体験されること」へ移ったということでもある。(出典:THE PATH「K-POP4大事務所の売上・収益構造を徹底比較【2025年決算】」、KbizoOm、SBI証券 海外トピックレポート)
マイキー氏はこの分析を、対価を取らずに相手に渡している。「もうあの、全部私あげますよって言って、僕が分析したやつを。なんでそれで、なんかお役に立てればいいですねぐらいな感じ。向こうもなんかちょっと、なるほどみたいになってたんで。」相手の反応は「確かに」というものだったという。
参加者から「6年前とか、前にがっつり入っていた時と、どういうところが変わってきましたか」という問いが出た。ここで出てきたのが、この回で最も戦略的に鋭い指摘である。
やはりインターナショナル化してしまっている、という感じである。K-POPという言葉の「K」をなくしたいという意識がすごくあると思う。だから、映画イコールハリウッドという構図と同じように、ポップミュージックイコールコリアだよね、という状態に持っていく。いまはあくまでポップミュージックのなかのK-POPという位置づけだが、そこを逆転させたい、ということである。
この構造をもう少し丁寧に展開しておく。「K-POP」という呼称は、ジャンルの内部に国籍を埋め込んでいる。これは市場に参入する段階では強力なブランドとして働く。まだ知られていない音楽を、産地表示によって差別化できるからである。ところが市場を取り切った段階で、同じ表示は天井になる。「ポップミュージックのなかのK-POP」という位置づけは、定義上、ポップミュージック全体の部分集合でしかないからだ。
ハリウッドはこの逆をやっている。ハリウッドは米国ロサンゼルスの一地区の名前でありながら、「映画産業そのもの」を指す語として機能している。産地表示が部分集合を示す語ではなく、全体を指す語になった。K-POP側が狙っているのはこの位置である、というのがマイキー氏の読みである。
この戦略が言葉だけでないことは、各社の海外売上比率に表れている。2025年時点で、HYBEの海外売上比率は63.7%と4大事務所で最も高い。次いでJYPが55.7%。SMは4社のなかで最も韓国国内の比重が大きく、およそ7割が国内である。
つまり「Kを外す」度合いは各社で大きく違う。売上の6割超を海外で稼ぐHYBEにとって、K-POPという括りはすでに実態を説明していない。逆に7割を国内で稼ぐSMにとっては、韓国国内のファンダムこそが基盤である。マイキー氏が「Kをなくしたいのがすごくあると思う」と述べたのは、業界全体の総意というより、海外比率の高いプレーヤーが直面している構造的な必然として理解するのが正確だろう。
なお米国市場については、K-POPアルバム・グッズ市場が5億ドル規模に到達したという分析があり、うちアルバム輸出は6,029万ドル規模とされる。スーパーファンの73%が実物盤を購入しているというデータもあり、フィジカル購買文化そのものは海外にも輸出されている。「Kを外す」ことと、K-POP固有の購買行動を維持することは、必ずしも両立しないわけではない。(出典:デバク「K-POP4大事務所 海外売上比率」、Calywire 2025輸出戦略データレポート、THE PATH)
この打ち合わせでは、エンタメ以外の話題も出ている。マイキー氏によれば、会社の打ち合わせのなかでSKやハンファグループの話も結構したという。「向こうも詳しかったので、まあ色々聞いたりとか」という程度の言及だが、韓国の財閥系企業の動向が話題に上っていたことは記録しておく。「そんなことをしたら3時間くらい経っちゃいますんで、久しぶりに3時間も打ち合わせしたなっていうぐらいでしたけど、半分以上は僕が『僕はここのライブに行きたいんだ』とか、なんかそういう話でぶっ潰しましたけど。」実際の打ち合わせ時間は正味1時間ほどだったという。
マイキー氏がこの案件に関わることになった経緯は、彼自身の言葉によれば互恵の設計である。彼はまず、なぜ手伝う気になったのかを説明した。「僕のすごい話を聞いてくれたから、僕も手伝いますよっていうスタンスなんすよ。」TWICEやaespaのサインを、直接「マイキー佐野さん家へ」という宛名で書かせてその場でくれた。「そんだけやってくれたんだったら、僕もじゃあ何かしてあげなきゃいけないじゃないですか。」
そこで彼が申し出たのが二つである。第一に、資金調達やファンド組成なら全然いいですよ、という提案。相手からは「ぜひ協力していただきたい」という返答があった。第二に、スポンサーの枠。相手がスポンサー枠の話をしてきたので、「あ、じゃあスポンサーの枠が空いているんだったら、よかったら買い取りますよ」という話をした。それでいいですよね、ということで話がまとまった、という流れである。対象はジャパンツアー、そしてワールドツアーのスポンサー枠だった。
この一連のやり取りで注目すべきは、入り口が金銭的な条件交渉ではなく、非金銭的な好意の交換だった点である。相手がサインという手土産を用意し、それに対してマイキー氏が資金調達支援とスポンサー枠買い取りで応じる。「なんかやってもらったら、なんかお返ししなきゃいけないんで、こっちも。」これは同じ回の後半で語られた、韓国側が「日本人が一人だから」という理由でその人を中心に会話の輪を作るという配慮の話と、同じ行動原理の上にある。互恵を先に設計する側が、結果として取引条件を有利に運んでいる。
なお、この日の打ち合わせについては、同じ回の後半(宗教と異文化理解を扱ったセッション)でも別の角度から言及されている。マイキー氏が「韓国の人たちは、僕一人が日本人だという理由で、僕を中心に会話を作り出そうとする。これがものすごく仕事をしやすい」と述べ、日本人のなかに外国人を一人入れた場合との非対称を指摘した箇所である。本レポートでは重複を避け、詳細は「宗教・経済・金融の三層構造」に譲る。
この節は一見すると単なるライブの感想だが、実際には「体験の強度をどう評価するか」という指標の話である。マイキー氏は勉強会の前週にaespaのライブを観ており、その評価を率直に述べた。
まず席について。彼は関係者席に座っていたが、「僕の席がいちばんつまんなかったっすね」という。周りはみんなバキバキのスーツを着ていて、みんな座っているだけ。立っているのは自分ひとりだけだった。参加者からは「関係者席はマジでつまんないって言うよね」という同意があった。初めてaespaを生で見たことについては「あ、こんな感じか」という反応で、同行者は「ウィンターの時間や」「ウィンターのためのやつや」と言っていたという。
次に会場である。ここでの評価は辛辣だった。「有明アリーナにはコンサートは絶対に行かねえと思ったっす。音響システムがゴミすぎるっす。」参加者から「それは有明アリーナじゃなくて、そのリース業者の問題じゃないの、手配して」という反論が出たが、マイキー氏は「わかんないけど、なんか有明自体が」と応じている。
マイキー氏が「先週」と述べた公演は、『2025 aespa LIVE TOUR – SYNK : aeXIS LINE – in JAPAN』の東京・有明アリーナ公演と考えて矛盾がない。同アリーナでは2025年10月11日(土)、12日(日)、および追加公演として13日(月・祝)に開催されている。勉強会が10月17日であることを踏まえると、時期的に整合する。
興行としての評価も付記しておく。このアリーナツアーは全国5か所11公演で、全公演が即完売となった。有明アリーナ公演は当初分が完売したため追加公演が決定されている。チケット価格は全席指定14,800円(税込/別途システム手数料1,000円)。つまりマイキー氏が「しょぼく見えた」と評した公演は、興行としては完売続きの成功公演である。彼の評価は動員力についてではなく、音響と観客の熱量という体験の質に向けられたものだと読むべきである。(出典:aespa JAPAN OFFICIAL WEBSITE、SMTOWN OFFICIAL JAPAN、ENCOUNT、OTOTOY)
会場の音響に加えて、マイキー氏が挙げたのがファンの側である。「あとファンが面白くなくて。」参加者から「面白いファンいるの、逆に」と問われ、彼はこう答えた。BTSやTWICE、BLACKPINKになると、もう狂っているくらい熱狂的だからクラブ状態になる。「めっちゃうわあ」みたいな感じになる。ところがaespaはめっちゃ静かで、大人しい。
その静けさがどれほどだったかを示す逸話が続く。会場が静かすぎて、同行していたYouTubeチームの中田氏と勝山氏の声が会場中に響いていたという。「勝山君の声やとか分かるのよ。でかすぎて。声が。あれ絶対勝山君でしょ、みたいな状態になってたから。」参加者が「それってお通夜じゃん」と応じている。みんなで行った後には、TWICEのライブと比べるとaespaはしょぼかった、という話になったという。
ただし彼は、この評価に留保を付けた。「いや、多分あれが普通で、今回のTWICEのライブ自体が神興行すぎて、あまりにもすごかったから。」比較対象が良すぎたために、そう見えてしまったのかもしれない、というのである。
マイキー氏が「神興行」と評したTWICEのライブは、『TWICE <THIS IS FOR> WORLD TOUR IN JAPAN』を指すと考えられる(文字起こしでは「ディーズ4」と聞き取られているが、公演名の音声認識ゆれと判断した)。要確認
この公演の規模は次のとおりである。TWICEにとって6度目のワールドツアーで、日本公演は大阪・愛知・福岡・東京の4大ドームで各2公演。全国で40万人を動員した。最終日は2025年9月17日の東京ドーム公演で、全国の映画館に生中継された。全会場で360度のステージ構成を採用し、ステージと客席の境界をなくす設計だった。演出のクリエイティブ・ディレクションは、オリヴィア・ロドリゴ、ビリー・アイリッシュ、エド・シーラン、マドンナらとの協業実績を持つマルチメディア・クリエイティブ・スタジオ「Moment Factory」が担当している。
マイキー氏の「神興行すぎた」という評価は、単なる主観ではない。4大ドームで40万人という動員規模と、国際的なクリエイティブ・スタジオを起用した360度演出という制作水準は、アリーナ規模の公演とは前提条件が異なる。彼自身が「多分あれが普通で」と留保を付けたのは正しく、比較の土俵が違っている。(出典:THE FIRST TIMES、Billboard JAPAN、Musicman、TWICE JAPAN OFFICIAL)
全国5か所11公演のアリーナツアー。全公演即完売、有明は追加公演も決定。チケット14,800円。
マイキー氏の評価:音響が悪い、観客が静か、関係者席は退屈。「コンサートは絶対に行かない」。
6度目のワールドツアー日本公演。4大ドーム各2公演で全国40万人動員。360度ステージ、Moment Factory演出。
マイキー氏の評価:「神興行すぎて、あまりにもすごかった」。
マイキー氏が使っている指標は三つある。①音響を含む会場設備の質、②観客の熱量(クラブ状態になるか、静かか)、③演出の制作水準。いずれも動員数やチケット売上には直接現れない。だがスポンサー枠を買う側から見れば、これらは投資対象の質そのものである。完売した公演が良い体験を提供しているとは限らない。この区別を持っているかどうかが、興行に金を入れる側の目利きになる。
マイキー氏がこの日いちばん熱を込めて語ったのが、翌年のBTSワールドツアーである。「来年の2月のやつは、BTSのワールドツアーは俺、全部の国に行ってやろうかなと思って。」参加者が「え、全部の国?」と驚くと、「できるだけ行ってやろうかなと思って。まあマジですごいから、何回見てもわけないから」と答えている。
そして彼が挙げた、独特の評価指標が出てくる。「まあ、どこの国がいちばん失神者が出ましたか、って聞くんで。」彼が最初に行った公演では、担架が600台出たという。要確認
参加者が「マイケル・ジャクソン超えてんじゃん」と応じ、マイキー氏はこう続けた。「そうだ、あの、気絶したバカなやつがたくさんいたんですよ。で、それを見てゲラゲラ笑ってんのが超楽しくて。」なんで倒れていくんだよ、周りに人がいるのに、と。あまりに発狂しすぎて、もう出てきた後で倒れたり、意識を失いかけていたり、めまいがしていたりする人が、普通に探せばいくらでもいるという状態になっていた。「あ、BTSってすげえなと思ったんだけど、それを見るのがすげえ楽しかったんだよね。」参加者は「苦労して手に入れたチケットで、特攻で気を失うでしょ」と応じている。
この勉強会の時点(2025年10月17日)で公表されていたのは「2026年春の復帰」までだった。BTSは2025年7月、Weverseのライブ配信で2026年春に新音楽とワールドツアーで戻ると発表している。この配信はメンバー7人全員がそろって放送した2022年9月以来のもので、リアルタイムで730万人以上が視聴した。全メンバーの兵役はSUGAの2025年6月21日除隊をもって完了している。
その後に確定した日程は、マイキー氏の「来年の2月」とはずれている。HYBEはBTSの5枚目のスタジオアルバム『Arirang』のリリース日を2026年3月20日と正式に発表し、ワールドツアーは2026年4月9日の韓国・高陽公演から始まる。初期日程は韓国と東京で、その後4月下旬から5月にかけて北米スタジアム公演が続く。ツアー規模は34地域・全82公演で、東京、メキシコシティ、ラスベガス、釜山、ロンドン、パリ、シカゴ、トロント、イーストラザフォード、ブエノスアイレス、シドニー、バンコク、香港、マニラなどを回る。
食い違いの明示:マイキー氏は「来年の2月」と述べたが、実際のツアー開始は2026年4月9日である。発言時点では日程が未確定だったため、これは誤りというより見込みのずれと理解するのが妥当だろう。ただし「全部の国に行ってやろうか」という計画については、34地域82公演という規模が確定したことで、実行可能性の水準がはっきりした。(出典:Variety、Hypebeast、Rolling Stone、Consequence、Time Out Tokyo)
この数値については、今回のWebSearchで裏づけとなる公開情報を確認できなかった。要確認 特定の公演で救護用の担架が600台使用されたという記録は見つかっていない。本レポートでは発言としてそのまま記録する。なお文字起こしでは「単価600台」と認識されているが、直後に「気絶したやつがたくさんいた」という説明が続くこと、および参加者が「マイケル・ジャクソン超えてんじゃん」と反応していることから、救護用の担架の台数を指していると判断して表記を補正した。
この指標そのものについて一点だけ付け加える。失神者数を興行の評価軸に使うという発想は、PART 5 で扱った「ファンダムの熱量」という指標を、より極端な形にしたものである。動員数やチケット単価は供給側の指標だが、失神者数は需要側の熱量が物理的に表出したものであり、供給側が操作できない。操作できない指標を探すという点で、これは投資判断の考え方と同じ発想である。
この節は短いが、ビジネス上の判断として重要な内容を含んでいる。参加者から「今回の韓国は、もう全部芸能関係で回るんですか」という問いが出た。マイキー氏の答えは明確だった。「あ、韓国でもうファイナンスは絶対僕、触らないです。めんどくさいから。」
参加者が「そのめんどくさいというのは、1回関わると抜けられないという意味ですか」と確認すると、彼は否定した。「あの、いや、じゃなくて、仕事をする気がないから。」
そして彼は、その徹底ぶりを具体的に述べた。今回、既存の韓国の会社には一切連絡を入れていない。InstagramかXで訪韓を知られているので、そこから話が伝わって何本か連絡があったが、無視している。「あの、俺、明日ライブ行くから、会ってらんねえし、っていう。」
さらに、より踏み込んだ判断も語られた。彼がアメリカで上場させる予定のセキュリティ会社の開発部門が一部韓国にあり、その副社長はアメリカ系韓国人で、当時ソウルにいた。会ってもいいかとは思ったが、「ライブのチケットが手に入ったから、もう仕事とかどうでもいいや」と思って連絡するのをやめた、という。「なんかこれでまた足を突っ込むと、また何かめんどくさいことに巻き込まれて僕の仕事が増えるのもめんどくさいから、あそこはもう何も触れずにという形にしてますね。あの、気力ゼロなんで、仕事する。」
この節で語られているのは、機会の放棄である。訪韓の情報が伝わって複数の引き合いが来ており、既存の取引先もあり、自社の関係会社の幹部も現地にいる。通常であればすべて拾いに行く状況で、彼はすべて拾わないことを選んでいる。理由は「仕事が増えるのがめんどくさい」という一点である。
一方で、芸能関係には自ら資金調達支援とスポンサー枠買い取りを申し出ている。つまり彼は「韓国で仕事をしない」と言っているのではなく、「韓国で金融の仕事をしない」と言っている。領域を切って、片方に全振りしている。この選択の背景に何があるかは、この回では語られていない。