STUDY REPORT / 2025年9月度 勉強会

Huawei自立とブラックウェル交渉――データセンターの隠された数字から、TikTok取引の裏側まで

フーバーダムがなぜ引き合いに出されるのかという豆知識から始まり、データセンターの電力・水量が公開されない仕組み、Huaweiの垂直統合、TikTok取引がGPU規制に開ける穴、Intel事業分割論までを一続きの構造として再構成。
EXECUTIVE SUMMARY

この回で語られたこと

数字の出所
全部逆算
データセンターの電力・水量は実測ではなく気候変動データからの推計
Huawei R&D
1797億元
2024年。売上比20.8%。R&D人員11.3万人(全社の54.1%)
中国当局の指示
H20不要
2025年9月17日、CACが国内企業にNVIDIA製AIチップの購入停止を指示
狙いという仮説
Blackwell
TikTok米国法人化を通じて中国側技術者がBlackwellに到達する経路
Intelへの資本
159億ドル
米政府89億+NVIDIA50億+SoftBank20億(2025年8〜9月)
提言
事業分割
ファブレスとファウンドリの分社化なしに資金は集まらない、という見立て

前田氏のコモンズ講義が「回避によってどんな事業が生まれたか」という問いに着地した直後、マイキー氏はその問いをそのまま巨大なインフラの世界に持ち込んだ。ダムのような水資源インフラも、独裁国家も、コモンズの悲劇の回避で説明できる――そう言った次の瞬間から、この日の後半は現在進行形の半導体・AI地政学の話になる。共有資源の管理という抽象論が、情報を「開示しない」ことで成立している産業構造の話へ変換された格好である。

後半の議論には、投資家として押さえておくべき論点が三つ層をなして現れた。第一に、米国のデータセンターが公表している電力・水の数字は逆算による推計であり、企業側は非上場化・NDA・管理会社の分離によって実数を隠しているという指摘。第二に、Huaweiがチップ・クラスタ・ソフトウェアスタックを垂直に揃えつつあり、中国政府がNVIDIA製品を不要と宣言できるところまで自信を持っているという状況認識。第三に、TikTokの米国法人化が、対中GPU規制に事実上の抜け道を開けるのではないかという仮説である。

そして最後に、これらの帰結としてIntelの再建論が来る。NVIDIA・SoftBank・米政府の三方向から資本を受け入れたIntelは、それでもなお設計だけでは投資を呼べない。ファブレスとファウンドリを分割しない限りAMDやQualcommと組めず、資金も流れない――というのがマイキー氏の見立てだった。本レポートでは、この2025年9月時点の見立てに対して、その後(2026年1月まで)に何が実際に起きたかを Claude補足として並記する。予測がどこで当たり、どこで外れたかが検証できるようにするためである。

セッションを貫く1本の線

この日の後半で繰り返し現れたのは、「公開されていない数字こそが構造を規定している」という認識である。データセンターの水と電力は逆算値であり、Huaweiは非上場ゆえに研究開発と人材投資を外部に説明する義務を負わず、オープンソースAIは全ての情報を開示していない。前半の講義で言えば、これは全て「共有する範囲と制限を設計する」ことによって価値を守る側の実装である。裏を返せば、公表された数字だけを見て投資判断を組み立てている人は、この産業の最も重要な変数を見ていないことになる。

PART 1

なぜフーバーダムなのか――隠された水と電力

マイキー氏がまず提示したのは、米メディアの報道でよく見かける「フーバーダム何個分」という表現の由来だった。多くの人はダムに水が溜まっている分かりやすい比喩として使われていると思っているが、そうではない、というのが彼の説明である。

背景にあるのは水利権の歴史である。1922年にコロラド川協定が結ばれ、上流と下流で使える水量が取り決められた。それを実装するために1928年にボルダー・キャニオン・プロジェクト法が成立し、水の分配率を担保するために建設されたのがフーバーダムである。そしてアリゾナ、カリフォルニア、ネバダ、コロラドといった、このコロラド川協定が縛る7州こそが、現在アメリカ西海岸でデータセンターが最も集中している地域なのだ。東側ではバージニア州がほぼ独占している。

つまり「フーバーダム何個分」という表現は、単位として便利だから使われているのではなく、今まさに各州が協定のルール変更を交渉している最中だから使われている。データセンター開発のために、この協定で分配された水をもっと使わせてほしいという交渉が進行中であり、米メディアはその文脈で「今後これだけの水量が必要になる」という表現を選んでいる、というのがマイキー氏の読みだった。

📌 Claude補足:コロラド川協定とフーバーダムの事実確認

この箇所の年代・州数は正確だった 裏取り済。コロラド川協定は1922年11月24日にニューメキシコ州サンタフェで調印され、流域を上流域(コロラド、ワイオミング、ユタ、ニューメキシコ)と下流域(ネバダ、アリゾナ、カリフォルニア)に分け、それぞれに年間750万エーカーフィートの利水を配分した。当時商務長官だったハーバート・フーバーが、州ごとの個別割当を避けて上下流での分割とする妥協案を推進している。ボルダー・キャニオン・プロジェクト法は1928年12月21日にクーリッジ大統領が署名して成立し、下流域各州への年間配分を数量化するとともに、フーバーダムと全米運河の建設を認可した。建設は1930年着工、1935年に献納式、1937年に発電機が稼働している。

「水資源を確保させないために出来上がった」という説明はやや圧縮されているが、ダムの目的が洪水制御・灌漑・発電に加えて配分ルールの物理的な担保にあったという理解は、歴史的経緯と整合する。

データが出てこない仕組み

ここからが本題だった。マイキー氏の主張は、今言われているデータセンターの電力量と水量の数字は正しく計算されていない、というものである。米メディアが各州と各企業を追及している一方で、データセンターを管理する会社側は非上場企業を使い、NGOとNDAを結び、管理会社を別法人にすることで、どれだけの水と電力が使われているかを隠している。理由も明確で、電力不足や水不足が民衆に及べば反発が激しいからである。実際にアリゾナ州では綿花農場が水撒きできなくなった事例が何度も起きており、開発地では反発運動やNGOの介入が発生する。

では監視はどう行われているのか。電力も見せられない以上、残された方法は逆算だけである。気候変動関連のデータから水量と電力量を推測しているに過ぎない――マイキー氏は、アメリカのデータセンターについて出ている数字は「全部逆算から出た数字であり、正しい数字ではない」と断言した。

渡辺氏がここで実務的な反問を入れている。Constellation Energy や Vistra のような上場企業と契約している例があるのだから、開示される情報は多くなるのではないか、と。マイキー氏の答えは、州単位の法制度の差を突いたものだった。アリゾナ州のように電力量などを開示しなくてよいという法律がある州が存在し、だからこそそこに作る、と。

📌 Claude補足:データセンターの秘匿は制度として実在する

「NDAで隠している」という指摘は、誇張ではなく広範に文書化された事実である 裏取り済。アリゾナ州ツーソンでは、AWSと開発事業者 Beale Infrastructure による36億ドル・290エーカー規模のデータセンター計画がNDAの背後で交渉され、想定水使用量を含む地域への影響が住民に開示されないまま進んだ。同州ピマ郡では、事業者名も水・電力需要も伏せられたまま案件が進行した経緯を受けて、2025年9月2日に郡監督委員会が4対1で新たな情報開示方針を採択し、郡の承認・採決の90日以上前に計画詳細を開示することを義務づけた。

制度的な仕組みも指摘どおりである。州法が重要インフラ情報を公文書開示の例外とする場合、NDAによって行政側にも守秘を課すことができ、水使用量を営業秘密・財務記録の例外に位置づけることが「望ましい」と実務解説で語られている。多くの企業が水使用量を専有情報とみなし、地方の公益事業者も個別顧客のデータ開示を拒むため、地域と規制当局が実際の影響を評価できない状態が続いている。2026年時点で、アリゾナを含む少なくとも10州が、経済開発関連のNDA自体の禁止、あるいはデータセンター案件での禁止、隠せる情報の限定を求める法案を提出しており、連邦上院でもBlumenthal議員がNDAによる隠蔽の調査に入っている。

したがって「公表数値は推計に過ぎない」という認識は、投資判断の前提として妥当である。ただし「全部が逆算で全部が誤り」と断ずるところまでは確認できていない。事業者の自主開示や公益事業者の系統データなど、精度の高い部分的情報も存在するため、この一般化の強さについては 要確認 としておく。

発電所との距離という変数

電力についてマイキー氏が挙げた技術的な論点が、送電距離とコストの関係である。データセンターの電源には発電所からの送電と蓄電池の二系統があり、蓄電池の容量は概算できる。だが重要なのは発電所とデータセンターの距離で、遠ければ100を送っても80しか届かない。近ければ効率は上がるが、その分だけ送電網・送電線の投資が必要になり、コスト構造が変わる。あえて近くにも遠くにも作って両方から引く理由がここにある、というのが彼の説明だった。渡辺氏はこれを受けて、NuScale のような小型炉と Constellation のような既存電力の両方と組む意義がここで説明できる、と応じている。また、州をまたぐことで追跡がさらに難しくなるという点も指摘された。

そのうえでマイキー氏が投げたのが、この日で最も逆説的な一言である。「電力不足だというのは嘘だ」。データセンターには消費電力の上限と下限があり、365日フル稼働させても状況によって使用量は変わる。気温や冷却技術の稼働状況によって上限に近づく可能性があるから、電力契約枠を増やして上限を上げるために電力へ投資している――つまり足りないから買っているのではなく、上限を引き上げるために買っている、という読み方である。バージニア州のデータセンターのバックアップ発電機は年間許容排出量の7%しか排出していないが、データセンター半径1マイル圏の健康被害率は極めて高く、喘息リスクが2倍になるとも言われるため、周辺の土地も買い上げて人が来ないようにしている、という指摘も添えられた。そして、なぜ中国がチベットとウイグルにデータセンターを作るのかも同じ論理で説明できる、と締めている。

PART 2

Huaweiの垂直統合――道具から生態系へ

話題がHuaweiに移ると、マイキー氏の評価は率直だった。「マジでやばい」「NVIDIAが陥落するのではないかというくらい早い」。ただし同時に、Blackwell に真正面から勝てるわけではないとも言っている。中国の勝ち方は質ではなく量である、と。

彼が挙げたHuaweiの本質的な強みは、チップ単体の性能ではなく接続の巧さだった。米国が輸出を制限した H20 のような性能を絞ったチップでも、中国は与えられた性能の上限まで引き出す運用能力が高い。NVIDIA の DGX 系が数十から数百台のGPUを接続する構成であるのに対し、Huawei 側は弱いチップを大量に繋ぐことで規模を作る。マイキー氏はここで、参加者に覚えておくよう名指ししたキーワードを出した。MindSporeである。「CUDAに匹敵する」と彼は評した。

渡辺氏はこれに、この勉強会の前日にあたる発表を重ねた。Huaweiが3年計画を発表したこと、Ascend 910 の技術水準の高さ、Kirin 9020 への自信。認識費用の面から見て、よほど自信がなければこうした打ち出し方はしない、というのが彼の読みである。マイキー氏も、Atlas シリーズが NVIDIA の DGX シリーズと同じ構造――アクセラレータを分離し、チップを作り、クラスタ化し、ソフトウェアをオープンソース化する――を「見よう見まね」で、しかし極めて速く実装していると評価した。

Huawei Atlas シリーズのクラスタ規模(Ascend NPU 搭載数)
対数軸。出典:Huawei Connect 2025(2025年9月18〜20日、上海)での発表内容および各社報道。SuperPoD は単一システム、SuperCluster は SuperPoD を束ねた構成
📌 Claude補足:Huaweiの3年ロードマップ――発言はおおむね正確、規模の年次に1年のずれ

渡辺氏が「つい昨日」と述べた発表は、2025年9月18日、上海で開幕した Huawei Connect 2025 における輪番会長・徐直軍(Xu Zhijun)の基調講演である 裏取り済。同社として初の長期Ascendロードマップが公表され、Ascend 950PR(2026年第1四半期)、950DT(2026年第4四半期)、960(2027年第4四半期)、970(2028年第4四半期)という4世代が示された。950系の目玉は自社開発のHBMで、SK hynix・Samsungへの依存からの脱却を狙う。システム側では Atlas 950 SuperPoD(Ascend 8,192基)が2026年第4四半期、Atlas 960 SuperPoD(同15,488基)が2027年第4四半期に投入予定とされる。

「100万個までいける」という発言について:数字自体は実在するが、時期が1年ずれている。100万基超は Atlas 960 SuperCluster の規模であり、投入は2027年第4四半期。マイキー氏が「2026年末」と述べたのは Atlas 950 SuperCluster(Ascend 50万基超、1 FP4 ZettaFLOPS の推論性能/524 FP8 ExaFLOPS の学習性能)に相当する。50万基か100万基かで一年の差がある。

MindSpore について:「CUDAに匹敵する」という表現は、正確には階層が一つずれている。CUDAに直接対応するのは CANN(Compute Architecture for Neural Networks)であり、MindSpore は TensorFlow / PyTorch と同じ階層のディープラーニングフレームワークである。両者を合わせたスタックが「PyTorch + CUDA」への中国側の代替となる。Huawei は Connect 2025 で、2025年12月31日までにAIソフトウェアスタック全体をオープンソース化すると表明し、CANN・MindSpore・openPangu を公開対象とした。ただし開発者からはCANNの使い勝手に深刻な問題があるとの指摘があり、約20年磨かれたCUDAのエコシステムと比較できる段階ではないという評価が支配的である。「匹敵する」は戦略的意図としては正しく、現時点の実力としては誇張と読むのが妥当。

非上場という構造上の強み

渡辺氏がHuaweiの速度の理由として挙げたのは、教育システムと研究開発への投資規模だった。年間3.6兆円規模のR&D費用でトヨタの売上に匹敵し、研究者は全世界で11万人、そのほとんどが博士号保持者。横浜研究所を訪れた際には、東大の博士号を取得した日本人が多数在籍していた、と自身の見聞を語っている。新卒でも中国や日本であれば3000万〜5000万円級の年収を提示すれば人は動く、上場企業の社長より高い報酬を出している、と。

マイキー氏が付け加えたのは、欧州でも人種を問わず人材を引き抜きまくっているという点と、非上場であることの意味である。すべて社員持ち株であり外部への公開義務がない。ガチャガチャ言われずに自分たちのやり方でやれる強さがある、と。日本企業は半数が管理部門であるのに対し、11万人がR&Dという構成では勝負にならない、という結論だった。

📌 Claude補足:Huaweiの研究開発数値はほぼ正確

渡辺氏の挙げた数字は、Huaweiの公式年次報告とよく一致している 裏取り済。2024年通期のR&D支出は 1797億元で、売上高の 20.8% に相当する。過去10年の累計R&D投資は1兆2490億元を超える。R&D人員は2024年12月31日時点で 11万3000人、全従業員の 54.1% を占める。「年間3.6兆円」という表現も、1797億元を当時の為替で換算すればおおむね整合する範囲にある。有効な特許保有件数は15万件超で、世界最大級の特許保有企業の一つ。

ただし「研究者のほとんどが博士号を持っている」という点、および「新卒で5000万円」という水準については、公式資料での裏付けが取れなかった 要確認。Huaweiには「天才少年」と呼ばれる特別採用制度があり、最高年俸が公表されているが、それが新卒一般に適用される水準を示すものではない。伝聞として扱うべき数値である。

Huawei の人員構成(2024年12月末)
出典:Huawei 2024 Annual Report。R&D人員11.3万人が全従業員の54.1%を占める
PART 3

TikTok取引はGPU規制の抜け道になるか

この日、マイキー氏が「メディアでは言っていない」と前置きして展開したのが、TikTok取引をめぐる仮説である。論理の骨格はこうだ。TikTokの米国事業はアメリカ法人となり、その株主にオラクルが入る。TikTokのデータは既にオラクル上にある。米国法人になれば、対中輸出が制限されている Blackwell をその企業は入手できる。しかし実際にそこで開発するのは誰か――中国人である。だとすれば、習近平側の狙いは事業の譲渡ではなく、Blackwell への到達経路そのものにあるのではないか、という読みである。

この仮説の傍証としてマイキー氏が挙げたのが、中国政府の姿勢だった。中国当局は既に、NVIDIA の H20 は購入しなくてよいと国内企業に通達している。今の中国が欲しいのは Blackwell だけだ、と。中国政府と共産党自体が MindSpore と Huawei の Atlas AI チップクラスタに対して非常に高い評価を与えており、その自信が通達の背景にある、という構図である。

そして「その日の深夜、あるいは金曜日にトランプ・習近平の電話会談があり、TikTokの話が出る。これによってはBlackwellが流出する」という短期のシナリオが提示された。渡辺氏は「政治的にはHuaweiを潰す選択肢が取れないということですね」と応じ、FSDの中国展開の見通しについても厳しくなるのではないかと付け加えている。

📌 Claude補足:その後どうなったか――仮説の前提は正しく、結論は外れた

この予測は2025年9月20日時点のものである。その後の展開を整理すると、前提となる事実認識は正確だったが、結論部分は現時点で実現していない

①中国当局の通達(正確):2025年9月17日、中国サイバースペース管理局(CAC)が国内企業に対し、NVIDIA製AIチップの購入停止を指導した。これは以前のH20に限定した警告より強く、RTX Pro 6000D にも及び、ByteDance やアリババに対してテストと発注の中止が直接指示されている。背景には、チップにバックドアや追跡機能が仕込まれている可能性への懸念があった。マイキー氏の状況認識はこの直後のものであり、正確である。

②TikTok米国JVの構造(正確):2025年9月25日にトランプ大統領が大統領令に署名し、TikTok USDS Joint Venture LLC が設立された。持分は新規投資家コンソーシアム(Oracle・Silver Lake・MGX がそれぞれ15%)で計50%、ByteDance の既存投資家の関連事業体が30.1%、ByteDance 本体が19.9%。オラクルは「信頼されたセキュリティパートナー」として国家安全保障条項の遵守を監査・検証する役割を負い、米国内の機微データはオラクルの米国内データセンターに保管される。バインディング契約は2025年12月に署名され、JVは2026年1月22日にクローズした。マイキー氏がオラクルの位置づけを見抜いていた点は正しい。

③Blackwell流出(外れ):2026年1月14日、トランプ政権はNVIDIAの H200 の対中輸出を正式に容認する規則を公表した(BIS規則の発効は1月16日、売上の25%を政府が課徴金として徴収、承認済み商用顧客に限定、数量上限50%)。しかしこの承認は Blackwell および Rubin には及ばない。より高性能な次世代チップの対中輸出は、2026年1月時点で引き続き除外されている。TikTok取引がBlackwellへの経路を開く、というシナリオは、少なくともこの1年4か月では実現していない。

ただし「規制の緩和方向」という大枠の読みは当たっている。案件審査は「原則却下」から「案件ごとの個別審査」へ転換しており、これはマイキー氏が指摘した「NVIDIAは米中の間に挟まれ、双方の機嫌を取る状態にある」という構造理解と整合する。

📌 Claude補足:Cambricon への言及は結果として的中した

マイキー氏はこの流れで「Huaweiは上場していないが、Cambricon Technologies は Huawei とやっているので上がる。早めにYouTubeで出しておいてよかった」と述べている。この見立ては結果として当たった 裏取り済。Cambricon(寒武紀)の2025年上半期売上は前年同期比44倍の29億元に急増し、5億3300万元の損失から10億3000万元の黒字に転換。2025年通期では売上65億元、純利益20億6000万元となり、2016年の創業以来初の通年黒字を達成した。2025年8月には株価が貴州茅台を一時的に上回り、中国株で最も高い株価をつけた。米国のNVIDIA・AMD向け輸出規制が国産代替への移行を加速させたことが直接の要因で、ByteDanceが思元590を約20万個先行発注したと報じられている。2026年には出荷50万個を目標としている(2025年推計は11万6000個)。

PART 4

Intelは分割しなければ資金を呼べない

TikTokとBlackwellの話から、議論はIntelへ移る。きっかけはマイキー氏の「今日ニュースが出た。オラクルが50億ドルをIntelに出資」という発言だった。

発言と公開データの食い違い

Intelへの50億ドル出資はオラクルではなくNVIDIAである。2025年9月18日、NVIDIAは1株23.28ドルでIntel株を50億ドル取得し、発行済株式の約4.9%を保有する大株主となった。同時に、Intelが NVIDIA のAIインフラ向けにx86 CPUを製造し、Intel の x86 SoC に NVIDIA の RTX GPU を統合した製品を共同開発することが発表されている。Intel株は発表当日に22〜25%上昇し、38年ぶりの上昇率を記録した。米連邦取引委員会(FTC)は同年12月18日にこの出資を正式承認している。

ただし、マイキー氏はこの直後に「今度NVIDIAはエッジコンピューティングを攻める。Intelに出資して共同開発することでPCやデバイスに入っていく」と、内容としては正しい説明を続けている。社名の言い間違いである可能性が高い。とはいえ、オラクルとNVIDIAではTikTok取引との関係が全く変わってしまうため、聞き手の側で訂正して理解する必要がある。

マイキー氏のIntel再建論は明快だった。SoftBankから20億ドル、NVIDIAから50億ドル、そして米政府に株式10%を取られたという状態で、トランプ政権はアメリカの製造業を拡大させたい。だがIntelはこれだけでは設計部門でうまくいかない。今Intelが最もやるべきことは事業分割である、と。

理由は資金調達の構造にある。設計だけでは出資・投資を募れない。もしIntelが本当に事業を解体してファブレスとファウンドリを分ければ、AMDやQualcommがIntelと共同できるようになる。今それができない理由は、Intel が IDM(設計から製造まで一貫して自社で行う垂直統合型)だからである。ファウンドリを別会社にすれば、ファウンドリだけに資金を流せる状態になる――ルノーが資金調達のために分社化したのと同じ話だ、と彼は例えた。そしてそこにどこの資金が入るかといえば、日本のファンドの5500億ドルがそこに使われる、と。

2025年8〜9月にIntelへ流入した資本
出典:Intel Corporation プレスリリース、SEC Form 8-K(2025年8月22日)、NVIDIA Newsroom(2025年9月18日)、各社報道
📌 Claude補足:Intelを巡る資本の実数

米政府(正確、ただし比率は9.9%):2025年8月、米政府はIntel普通株4億3330万株を1株20.47ドル、総額89億ドルで取得し、9.9%の持分を保有した。原資はCHIPS法に基づく未交付の助成金57億ドルと、Secure Enclave プログラムの32億ドル。取締役会の議席や情報アクセス権を持たない受動的保有で、株主承認事項では原則として取締役会の方針に賛成票を投じる合意になっている。発言の「10%」はおおむね正しい。

SoftBank(正確):2025年8月、SoftBank Group がIntelの普通株新規発行を引き受ける形で20億ドルを出資。当時の時価総額基準で約2%弱に相当する。発言どおり。

赤字額(ほぼ正確):マイキー氏は「今年44億ドルの赤字。あ、30億ドルの赤字」と自ら訂正しているが、Intelの2025年第2四半期の純損失は29億ドル。訂正後の数字が実績に近い。

日本のファンド(5500億ドルが正しい):発言では「5550億ドル」とされたが、正しくは5500億ドル。2025年9月4日に日米両政府が対米投資に関する了解覚書に署名し、日本は2029年1月19日までに、半導体・医薬品・金属・重要鉱物・造船・エネルギー・AI/量子コンピューティングなどの分野で5500億ドルを米国に投資することとなった。「ジャパン・インベストメント・アメリカ・イニシアティブ」と呼ばれ、9分野への投資を実行する基金の形式を採る。7月の関税交渉で日本側が提案した「関税と投資の交換」が枠組みの起点である。したがって、Intelのファウンドリ分社化にこの資金が向かうという見立ては制度上ありうる筋だが、2026年時点で具体的な充当が確定した事実は確認できていない 要確認

台湾勢はどうなるか

マイキー氏の連鎖予測はこう続く。デバイス向けの強者がNVIDIAとAMDになり、開発プラットフォームがAMDのROCmとNVIDIAのCUDAになり、AI関連半導体もNVIDIAとAMDになるなら、台湾勢が極めて強くなる。渡辺氏が「TSMCのポジションは落ちないか」と問うたのに対する答えは、Intelが事業分割してもTSMCに流す分は分けるという実務論と、そもそもTSMCの工場が足りていないという供給論だった。アメリカの第一工場はほとんどAppleが取っており、海外生産分を米国に持ってきたいという政策方向がある以上、半導体需要はさらに増えていくらでも工場が足りない。だから当面は大丈夫ではないか、と。

Samsungについても言及があった。テスラから受注を得た点は好材料だが、バッテリー工場の事案で開発が数か月遅れると言われており、痛いのではないか、という評価である。

📌 Claude補足:Samsung関連の言及について

この箇所は音声認識の乱れが大きく、「バッテリー工場」「LG」「高速件」といった語が混在しており、指している事案を特定できなかった。2025年9月時点で韓国系企業の米国工場に関する事案が複数存在するため、どの件を指すかを断定できない。要確認 として、事案の同定は保留する。

PART 5

メモリと推論――図書館を読んだAIか、本を探すAIか

渡辺氏が最後に提起したのが、中国のAI開発におけるメモリの死角だった。SK hynix のHBMやマイクロンに匹敵するメモリ半導体を、中国はどうするのか見えてこない、と。Blackwell もメモリ性能が追いつかなければ機能しない構造になっている以上、計算性能や推論、学習にメモリ性能は決定的に効いてくるはずだ、という問題提起である。

マイキー氏の答えは、アーキテクチャの違いを比喩に落としたものだった。アメリカのAIは「図書館にある本を全部読みました」という状態である。それに対して DeepSeek のような中国のAIは「どの本を探すか」という設計である。だからコストがかかりにくく、そこから推論していく。推論はメモリをあまり使わないので、メモリ制約が中国側でボトルネックとして表面化しにくい――という説明である。

ただし彼は、最終的な結論では米国優位を崩さなかった。全部の本を読んでいる者のほうが、本を探す能力が強い者よりも強い。だから最終的に高性能なAIという意味では、やはりアメリカのほうが強いのではないか、と。渡辺氏はこれを受けて、開発の仕方そのものに戦略の違いが表れてきそうだ、と応じた。

そしてこの比喩は、その場で人間に折り返される。「全部本を読んでいる渡辺さんが強いのか、本の探し方がうまいマイキーが勝つのか」――マイキー氏は自分が勝つと言い、渡辺氏はそれを笑って否定した。

米国型:全部読む

大規模な事前学習にリソースを集中させ、モデル内部に知識を保持する。HBMを含む高帯域メモリと大量の演算資源を要求し、その分だけ到達性能の上限が高い。

中国型:探し方を鍛える

DeepSeekに代表される、メモリ消費を抑える設計。推論段階でのコスト効率を優先し、実用性重視の戦略に適合する。制約下での運用に強い。

📌 Claude補足:Huaweiの自社HBMという回答

渡辺氏の「中国のメモリはどうするのか」という問いには、この勉強会の2日前に一つの回答が出ていた。Huawei は Connect 2025 のロードマップ発表で、Ascend 950PR(2026年第1四半期投入予定)に自社開発のHBMを搭載すると表明している 裏取り済。SK hynix・Samsung といった韓国勢および米国サプライヤーへの依存を、メモリ階層から断ち切ろうとする動きである。マイキー氏が「SKのHBMは超強い」と述べた認識は2025年9月時点では正しいが、中国側がこの層でも垂直統合に踏み込むという宣言は、既にその時点で公表されていた。渡辺氏の「見えてこない」という懸念は、翌週以降に部分的な答えを得たことになる。

締めくくり――BYDとバフェット

セッションの終盤、マイキー氏は中国企業の資金調達のうまさとルールの明確さを評価する文脈で、BYDの逸話を挙げた。ウォーレン・バフェットからの出資を断ったという話である。最終的にバフェットは買っているが、「買わせてくれ」と頼んで買った――自分たちが事業をやっていてバフェットが投資してくれると言われたら喜んで受けてしまうところを、断るのはすごい、と。

📌 Claude補足:BYDとバークシャーの経緯

この逸話はおおむね正しい 裏取り済。バークシャー・ハサウェイは当初BYDの25%取得を望んだが、創業者の王伝福が10%を超える株式の放出を拒んだ。バフェットは後年これを「自分の会社を売りたくない人間だった」と振り返り、良い兆候と受け止めたと語っている。2008年9月、バークシャーは最終的に2億2500万株、8.25%を取得した。この投資を主導したのはチャーリー・マンガーで、王伝福を「技術的問題を解くという点でエジソン、やるべきことをやり遂げるという点でウェルチのような人物」と評し、バフェット自身が「BYDの功績は100%マンガーのものだ」と述べている。なお、この勉強会の翌日にあたる2025年9月21日、バークシャーはBYD株を全て売却したことが明らかになっている。マンガーは生前、BYDを自身の最良の投資と呼んでいた。

Q&A

質疑応答(全件)

Q1. データセンター関連で Constellation Energy や Vistra のような上場企業と契約している例があるが、開示される情報は多くなってしまうのではないか。(渡辺氏)

マイキー氏:州によって匿名化ができる。アリゾナ州のように電力量などの情報を開示しなくてよいという法律がある州が存在し、だからこそそこに作る。

Q2. NuScale のような小型炉と Constellation の両方と組む意義がそこで出てくるのか。(渡辺氏)

マイキー氏:そうです。実際に使っている量が明確にならなければ叩かれない。明確に出れば「電力コストが上がった」として株価が下がるため、オープンにしない。あくまで憶測データにとどまる。/渡辺氏:州をまたぐことで追跡がさらに難しくなることも考えられますね。

Q3. Huaweiの開発スピードが異常に早いが、何か特殊なやり方があるのか。情報や論文は出ているのか。(渡辺氏)

マイキー氏:アメリカより巧いのはGPUの使い方。H20やH10のような性能を絞ったチップでも、中国はポテンシャルを最大限引き出す能力が高い。NVIDIAのDGX系が数十〜数百台のGPU接続なのに対し、弱い分を繋ぐのが巧い。MindSporeは100万個まで接続できると言っている。近々話題になるので覚えておいてほしい。

Q4. Cambricon Technologies もCUDAに匹敵する高性能なものを出していたと思うが、比べても圧倒している感じか。道具レベルでは並んでも、次はエコシステム戦略の問題が出るのではないか。(渡辺氏)

マイキー氏:スケーラビリティの差。Huaweiは上場していないが Cambricon は Huawei と組んでいるので、Cambricon が上がる。(※この予測は的中した。PART 3のClaude補足を参照)

Q5. 今の話を聞くと、DeepSeek のシステムと相性が良さそうに聞こえるが。(渡辺氏)

マイキー氏:パクってトレーニングさせるということでしょう。相性はめちゃくちゃ良い。

Q6. TSMCのポジションは今後落ちてこないか。Intelが事業分割できたと仮定した場合。(渡辺氏)

マイキー氏:Intelが事業分割してもTSMCに流す分は分ける。加えて今TSMCは工場が足りていない。アメリカの第一工場はほとんどAppleが取っている。海外で作られているものをアメリカに持ってきたいという方向がある以上、半導体需要はさらに増え、いくら工場を作っても足りない状態になるので、当面は大丈夫ではないか。

Q7. これだけ資金を注ぎ込めばIntelは復活するのか。(参加者)

マイキー氏:今の段階ではしない。段階的にやっていく流れになる。ただし設計という部分でNVIDIAと組める、Qualcomm や AMD と組めるというのはIntelにとってマイナスではない。今の段階ではIntelの設計さえ認められていない状態なので。

Q8. 組むメリットは、アメリカに視野を広げやすくなるからということか。(参加者)

マイキー氏:アメリカの製造業を戻すというトランプ大統領の野望があるから。できればアメリカのメーカーでやりたいというのがトランプ大統領で、だからNVIDIAも協力せざるを得ないところに持っていきたい。

Q9. AI開発で中国の場合、メモリをどうするのかが見えてこない。SK hynix に匹敵するメモリ半導体に追いついているのか。計算機能・推論・学習に関わる部分が見えない。(渡辺氏)

マイキー氏:SKのHBMは超強い。ただ推論はメモリをあまり使わない。アメリカのAIは「図書館にある本を全部読みました」という状態で、DeepSeek など中国のAIは「どの本を探すか」なのでコストがかかりにくい。ただし最終的に高性能なAIという意味では、全部読んでいるアメリカのほうが強いのではないか。

Q10. TSMCのチップを搭載できない中でHuaweiが伸びているのは、教育システムによるものか。(渡辺氏)

渡辺氏(自答):プロダクトレベルではなく基礎研究の人材を社内にどんどん抱え、自分たちで同じイノベーションを起こせるという自信と人材が揃っていて、それだけの研究開発費をかけているから。/マイキー氏:欧州でも人種を問わず引き抜きまくっている。上場していないのが偉いと逆に思う。

ACTION

宿題・アクションアイテム

  1. TikTokの動きを追う。マイキー氏がこの日、最後に名指しで指示した宿題。「とにかくTikTokの動きを見てください」。実際にこの取引は2026年1月22日にクローズし、Oracle・Silver Lake・MGXが各15%を保有する構造となった。
  2. データセンター案件の水・電力数値を、必ず一次情報の性質から確認する。公表値が実測なのか逆算推計なのかを見分ける。NDA・非上場管理会社・州の開示除外規定の有無を確認項目に入れる。
  3. MindSpore と CANN を分けて理解する。CUDAに対応するのはCANNであり、MindSporeはPyTorch層。Huaweiのスタック全体が2025年12月末までにオープンソース化されたため、その後のエコシステム形成速度を追跡する。
  4. Ascend/Atlas のロードマップを四半期単位でカレンダー化する。950PR(26Q1)、950DT・Atlas 950 SuperPoD・SuperCluster(26Q4)、960・Atlas 960 SuperPoD(27Q4)、970(28Q4)。自社HBMの実装が予定どおり進むかが最大の観測点。
  5. Intelの事業分割が実現するかを追う。ファブレスとファウンドリの分社化が資金調達の前提だという見立ての妥当性を、実際の資本政策で検証する。日米5500億ドル基金の充当先も併せて見る。
  6. 「電力不足は上限引き上げのための投資である」という仮説を検証する。電力会社との契約枠と実消費量の乖離を、開示のある上場電力事業者の側から逆に推定する。
GLOSSARY

用語集

コロラド川協定
1922年に米西部7州が締結した水利配分の取り決め。上流域・下流域にそれぞれ年間750万エーカーフィートを配分。現在のデータセンター集積地はこの協定の管轄下にある。
ボルダー・キャニオン・プロジェクト法
1928年成立。下流域各州への配分を数量化し、フーバーダムと全米運河の建設を認可した法律。
Ascend(昇騰)
HuaweiのAIアクセラレータ製品群。910が現行世代で、2026年以降 950PR/950DT/960/970 が順次投入される計画。
Atlas SuperPoD/SuperCluster
Ascendを束ねたHuaweiのAI計算基盤。SuperPoDが単一システム(950で8,192基、960で15,488基)、SuperClusterがそれを複数束ねた構成(950で50万基超、960で100万基超)。
MindSpore
Huaweiのディープラーニングフレームワーク。階層としてはPyTorch/TensorFlowに対応する。CUDAに直接対応するのは下層のCANN。
CANN
Compute Architecture for Neural Networks。Ascend NPU向けのプログラミング環境で、NVIDIAのCUDAと同じ階層に位置する。2025年末までにオープンソース化された。
Blackwell
NVIDIAの現行世代GPUアーキテクチャ。2026年1月時点でも対中輸出は認められていない。H200は同月に条件付きで容認された。
HBM
High Bandwidth Memory。AIアクセラレータの性能を左右する高帯域メモリ。SK hynix・Samsung・Micronが主要供給者だが、Huaweiが自社開発を表明した。
IDM
Integrated Device Manufacturer。設計から製造まで一貫して自社で行う垂直統合型の半導体企業。Intelがこれに該当し、それゆえ他社と組めないという議論が展開された。
エッジコンピューティング
データセンターではなく端末側で演算を行う方式。NVIDIAがIntelとの提携で狙う領域として挙げられた。