この回の後半は、講師が事前に自作した比較表を画面共有するところから始まった。Google、Amazon、Facebook(Meta)、Apple、Microsoftの5社について、売上高と前年比、純利益とその伸び、設備投資額を並べた一枚である。そして参加者に投げられた問いは二つ。「これを見て何が変わったのかを説明できる人はどれくらいいるか」「おかしい点があると思ったポイントは何か」。決算そのものの解説ではなく、リサーチの姿勢を試す形式が取られた。
参加者から挙がった違和感は、おおむね正しい方向を向いていた。メタは純利益が大幅に減っているのに投資を思い切り増やしている。アップルは売上が伸びていないのに純利益がかなり上がっている。売上の伸びに対して純利益の伸びが高すぎる会社がある。マイクロソフトだけが売上18%増に対して純利益12%増と、伸び率が逆転している。
ここから講師が展開したのは、「利益だけの問題ではない」という一点だった。どういう配分になっているのか、そもそもこのビジネスモデルで適切なのか。ビジネスモデルと突き合わせたうえで比較しないと意味がない。そしてその突き合わせをすると、表面上最も悪く見えるマイクロソフトとメタが、実は買いの候補になるという逆転が起きる。
決算の数字は、事業の実力と会計上の一時要因と持分法投資の三つが混ざった結果である。この三つを分離できないと、株式分析も企業分析も成立しない。そして分離するには、比較対象と過去の業績の両方が必要になる。一回の決算を見ただけでどうこう言える話ではない、というのが講師の一貫した主張だった。
| 企業 | 売上高 | 前年比 | 純利益 | 前年比 | 一時要因 |
|---|---|---|---|---|---|
| Microsoft FY26 Q1(9月期) | 777億ドル | +18% | 277億ドル | +12% | OpenAI持分法損失 △31億ドル |
| Alphabet 2025 Q3 | 1,023億ドル | +16% | 350億ドル | +33% | EU制裁金 △35億ドル |
| Amazon 2025 Q3 | 1,802億ドル | +13% | 212億ドル | +39% | Anthropic評価益 +95億ドル/FTC和解 △25億ドル/退職費用 △18億ドル |
| Meta 2025 Q3 | 514億ドル | +26% | 27億ドル | △83% | 一時的非現金の法人税費用 △159.3億ドル |
| Apple FY25 Q4(9月期) | 1,025億ドル | +8% | 275億ドル | +86% | 前年同期にEU追徴課税 △102億ドルがあった反動 |
講師が示した表の数値は、いずれも公表値と整合している。売上18%/純利益12%というマイクロソフトの数字も、売上8%/純利益86%というアップルの数字も正確である。
講師が最初に取り上げたのがマイクロソフトだった。前田講師が「この中で最も硬い」と評価した銘柄であり、しかし数字の上では純利益率が落ちている。今までマイクロソフト、アマゾン、グーグルといった大型テックの状況は、売上高の伸びよりも純利益の伸びのほうが高いというものだった。売上より純利益の伸びが高いということは、相当なコスト削減ができていて儲かっている状態を意味する。それが今回は逆になった。
アップルが売上8%増に対して純利益86%増、アマゾンが10数%の売上成長に対して純利益33%増(講師の表記)である一方、マイクロソフトは売上18%増に対して純利益12%増にとどまる。メタを除けばマイクロソフトが最も見劣りする。なぜこれで「硬い」と言えるのか。
参加者から出た答えは「OpenAI絡みの循環取引で他のところが懸念しているから」という、やや外れた推測だった。講師の答えは会計処理そのものにあった。OpenAIへの投資による純利益の損失額として31億ドルが計上されている。つまりこれがなければ純利益は308億ドル相当となり、成長率は余裕で20%を超える。
なぜ株主がここに対して何も言わないのか。OpenAIの立ち回りが分かれば理解できる。今のアメリカの政策はOpenAIを中心に動いている。OpenAIがこけることでアメリカの産業がこける。だから市場自体が「そこに対しての投資だ」と割り切っている。
OpenAI要因を除いた事業側の数字も確認された。営業利益は24%増加。総利益は18%増(一定為替では17%増)。マイクロソフトクラウドは26%増加、Azureおよびその他クラウドサービスは40%増加。成長に関しては申し分ない、というのが結論である。
マイクロソフトのFY26 Q1(2025年9月期)決算発表では、OpenAIへの投資による損失が純利益を31億ドル、希薄化後EPSを0.41ドル押し下げたと明記されている。売上777億ドル(+18%)、GAAP純利益277億ドル(+12%)、non-GAAP純利益308億ドル(+22%)。講師が言った「31億ドルを戻せば308億ドル」という計算は、会社が公表したnon-GAAP純利益と正確に一致する。営業利益380億ドル(+24%)、Azure +40%、Microsoft Cloud +26%もすべて公表値どおりである。
2026年8月時点での続報:この持分法損失は一方通行ではなかった。マイクロソフトのFY26通期(2026年6月期)では、OpenAI投資は逆に純利益を49.63億ドル押し上げる結果となった(第4四半期だけで4.8億ドルのプラス)。2026年3月期までの9カ月で59億ドルの評価益が計上されており、その大半は希薄化益によるものである。一方で「その他収益・費用(純額)」には47億ドルの費用計上があり、その大部分が持分法投資の損失として認識されている。持分法という会計処理は、OpenAIの資金調達ラウンドごとに評価益と事業損失が交錯する構造になっており、四半期ごとの純利益はこの二つの合成として振れ続けている。講師の見立ては翌年に裏づけられた
次に講師が投げた問いは「ではグーグルとアマゾンはなぜこんなに収益が高かったのか」だった。ヒントとして出されたのが「OpenAIのライバルと言ったらどこか」。参加者からAnthropicの名前が挙がると、そこから事業構造の説明に入った。
Anthropicは企業向け、つまりB2B向けの受注がOpenAIと比べて圧倒的に多い。すでにB2B向けの収益化ができあがっているので、そこに対しての利益率が非常に大きい。特にアマゾンにおいて、これが今回計上されている。
具体的には、アマゾンの純利益212億ドルのうち約半分の95億ドルが、営業外収益としてAnthropic持分の評価益、つまり帳簿上の利益として計上されている。講師はここで「一人あたりで考えるとAnthropicとOpenAIでは、Anthropicのほうが一人あたりの回収できる金額が圧倒的に大きい」と述べ、「ずっとAnthropicを見ておけと言っていたのは、まさにこの事業構造が分かっていたからだ」と付け加えた。
アマゾンやグーグルは、クラウドを除けばB2C向けのビジネスが圧倒的に多い。ところが今アマゾンがリーチしようとしているのはB2Bビジネスの囲い込みであり、そこでAnthropicが非常に役に立つ。B2CとB2Bなら収益構造としてどちらが儲かるか――ここでも構図が入れ替わっている。
もう一つの評価ポイントとして挙げられたのが自社チップである。アマゾンは2種類のAIチップを自社で作っており、講師は「インファレンシアが大規模言語モデルのトレーニング用、トレーニウムが推論用」と説明した。そしてトレーニウムが非常に売れ始めており、成長率は150%だと述べた。これによってAWSの期待値が上がる、という論理である。
AWSのシェアについても補足された。各社がデータセンターを作り始めたことで全体のシェア率はずっと横ばいだった。それが4月に一気に落ちたが、今かなり戻ってきている。今年最も伸びたのはGoogle Cloudで、次がマイクロソフト。アマゾン自体はずっと停滞・横ばいだったが、母数が大きいのでシェアは1位のまま。それが再び成長曲線に入り始めているところが評価されている。
ここは発言と公開情報が食い違う。AWSの公式定義では、Trainium が学習(training)用、Inferentia が推論(inference)用であり、講師の説明は二つが入れ替わっている。名称そのものが training / inference に由来するため、この点は明確である。
ただし「トレーニウムが150%成長」という数字自体は正確である。2025年第3四半期決算説明において、Trainium2は完売状態(fully subscribed)で数十億ドル規模の事業となり、前四半期比150%成長したと説明されている。なお2024年末には、アマゾンがInferentiaの開発を停止しTrainiumに一本化するという報道も出ており、実質的には「トレーニウム一択」に近づいている。講師が結果として指し示した「トレーニウムが伸びている」という結論は正しく、用途の対応づけだけが逆になっている。
AWS部門売上は330億ドル(+20%)で、講師の言う「再加速」は数字の上でも確認できる。2026年8月時点の続報:Trainium3は2025年12月のre:Inventでプレビューされ、2026年初頭から本格量産に入っている。AWSは2027年までにキャパシティを倍増させる計画を示した。
アマゾンのもう一つの評価ポイントとして、講師は物販の弱点を参加者に問うた。答えは「生鮮食品を売っていないこと」。ホールフーズを買収してそこを埋めにいっており、当日配送の対象都市を1,000から3,500に増やすと言っている。食品領域で戦う相手はウォルマートになるが、物流では圧倒的な強さを持っている。
さらに衛星事業。プロジェクト・カイパーの衛星が150機を超えたという報告があり、通信もしっかり進んでいる。講師は「アンディ・ジャシーになってから、5年後に最も現金を持つのはアマゾンだろう」という自身の予想を披露した。売上高に対して投資率がそこまで高くなく、そのまま利益率を上げていけば安いという状況になる、というのがジャシーの目標ではないかという読みである。
2025年10月13日のスペースX打ち上げ(24機)により、プロジェクト・カイパーの軌道上衛星は累計153機となった。「150機を超えた」という発言は正確である。
2026年8月時点の続報:プロジェクト・カイパーは2025年11月13日に「Amazon Leo」へ改称された。2026年時点で軌道上の衛星は375機を超えている。
生鮮の当日配送都市数について、決算説明会でジャシーは年末までに2,300都市へ拡大すると述べており、講師の言う「3,500」とは数字が異なる要確認。ただし拡大方針そのものは共通しており、ウォルマートとの正面衝突という構図の読み方に影響はない。
「利益率が非常に悪い。これはなぜなのか」――講師の説明はシンプルだった。アメリカ国内の法人税の引当金として160億ドルが一時的な非現金費用として計上された。それによって実効税率が87%になり、純利益が落ちた。株価は14〜16%ほど落ちたが、非現金であり一時的だということは、また元に戻るということである。つまり落ちたときが買いになる。
収益構造を見れば売上は上がっている。営業利益は18%増加。ただし全体の営業利益率で見ると43%低下しており、純利益は83%減となっている。仮に160億ドルがなかった場合、純利益は187億ドルとなり、恐ろしい利益率になる。市場は一時的に現金が取れなかったことで株価を下げているが、これは一時的なものなのですぐ戻る――という判断ができれば、これは買いである、という組み立てだった。
一時的に現金がなくなったということは、設備投資を続けるために300億ドルの社債を発行することになる。今まで現金でやってきたものを社債発行で賄うのだから、資本コストは上がる。そこも懸念点として見られ、一時的に株が落ちている。
前田講師が付け加えたのは二点。VRなどがまだ収益化できていないという不安が重なっていること。もう一つはデイリーアクティブユーザーが10%以上伸びており、成長性としてはメタに問題はないだろうということ。金額だけで見ると悪く見えるが、内訳は決して悪くない。むしろここで下げるのを意図しているようにすら見える、という読みである。
リアリティラボについても補足された。前期比では落ちたが、前年同期比では70%成長している。悪くはない状態である。
メタの一時税費用は159.3億ドルであり、「160億ドル」という発言はほぼ正確である。原因はトランプ政権の税制法「One Big Beautiful Bill Act」の施行に伴う一時的・非現金の法人税費用で、実効税率は87%まで上昇した。この費用がなければ実効税率は14%(73ポイント低下)となり、純利益は27億ドルではなく186億ドルだった。講師の「187億ドル」という数字は公表値186億ドルとほぼ一致する。
売上は514億ドル(+26%)。社債発行についても、メタは2025年10月30日に300億ドルの社債を発行しており、これは同年最大の米国投資適格債の起債となった(申込は1,250億ドル)。発言どおりである。リアリティラボの売上は4.70億ドルで前年同期比+74%、営業損失は44億ドル。「前年比70%成長」という発言は正確である。
ただし株価の下落幅は発言と食い違う。講師は「14%ぐらい16%ぐらい落ちた」と述べたが、実際の決算翌日(10月30日)の下落は約11.4%で、2022年10月以来最大の一日下落だった。10月月間では約12%安。二桁下落という認識は正しいが、14〜16%は過大である。
2026年8月時点の続報:「一時要因だからすぐ戻る」という講師の見立ては、部分的にしか実現しなかった。税費用そのものは翌四半期に剥落したが、株価はその後さらに設備投資の膨張で売られている。メタは2026年通期の設備投資見通しを1,150〜1,350億ドルから1,250〜1,450億ドルへ引き上げ、その発表で株価は再度10%規模の下落を記録した。2026年8月時点でメタ株は614ドル前後、史上最高値(796ドル)から約23%下の水準にある。フリーキャッシュフローは2025年の436億ドルから2026年見込み85億ドル程度まで縮小する見通しで、下落要因は「一時的な税費用」から「構造的な投資負担」へ入れ替わった。見立ての前提が変わった
講師がメタについて最も重く見た問題点は、税でも社債でもなかった。マイクロソフト、アマゾン、グーグルとの決定的な違いは、データセンターを外部に貸し出しているかどうかである。三社は自社でデータセンターを作って貸し出し(リース)している。メタはやっていない。自社で全部を賄っている。だから本当に回収できるのかという不安が高まる。
クラウド事業者の設備投資は、外部に売る商品の在庫を積むことに近い。メタの設備投資は、自社サービスの原価を先に払うことに近い。数字の上では同じCAPEXでも、回収経路がまったく別物である。ビジネス構造を理解していないと、この差は数字から読み取れない。
この回で最も長い議論になったのがグーグルだった。前田講師が最初に「次の方向性に対して不安を感じた」と挙げた銘柄であり、その理由は三点。成長率で見ればGoogle Cloudは30%以上と高いが、金額ベースでは最も低い。利益率はいいが他社に比べて投資額が圧倒的に低い。そしてTPUがそこまで注目されていない。つまり金額は良く見えるが、化粧されているだけで中身が伴っていないように見える、という懸念である。
これに対する講師の反論は四つの柱で構成されていた。
利益率33%という数字は、独占禁止法の罰金を払った後の金額である。だからここにプラス35億ドルが上乗せされる。
YouTube広告の成長率が非常に上がっている。囲い込み戦略の一つとしてNFLのライブを引き抜き、そのスポーツ関連の囲い込みでYouTubeの視聴時間が伸びている。さらにショート動画。TikTokが強いと言われていた領域で、今回のYouTubeショートの成長率が凄まじい。自分たちの弱みをきちんと改善している。短編動画の視聴時間の収益性という部分で広告代理店が非常に金を払っており、ショートに投じる比率が上がっている。結果として本編動画よりショート動画のほうが収益体として上がってきており、それによって若年層のTikTokユーザーも囲い始めている。
Chromeの分割を求められていた件について、講師は逆張りの読みを示した。まだ訴訟中であり、ユーザーがAI Overviewsのほうに移ってくれるのなら独占に当たらなくなる。別の裁判を先送りできるので罰金を払わなくて済む、という考え方である。前田講師が「解体しないから、余計に強みが維持されることですね」と応じ、講師も同意した。ピチャイ自身がかなり強気だった点がポイントだ、と付け加えられている。
その裏側にあるのが、グーグルがアップルに年間200億ドルを支払っているサファリのデフォルト検索契約である。これがAI Overviewsに置き換わっていくのであれば、その話も御破算になってくる。そして検索領域でOpenAIが強くなってくると、今は寡占状態であって独占ではないので、当分の間は引き延ばせて罰金も訴訟も回避できるというプラス面がある。
成長率の部分で言うと、マイクロソフトやアマゾンよりも国外の成長率が高いのがグーグルである。データセンターを含めて。アマゾンは国際事業が実は弱い。ここが強みだ、と講師は評価した。
そして講師が自作した5レイヤーのカテゴライズ表が共有された。独自AIモデル/ハードウェア/ソフトウェア・ミドルウェア/企業向けAIソリューション/投資――この5項目で各社を並べたとき、グーグルには穴がない、というのが結論である。
| レイヤー | Microsoft | Amazon | OpenAI | |
|---|---|---|---|---|
| 独自AIモデル | Gemini ○ | GPTシリーズへの優先アクセス権 ○ | 弱い △ | GPT ○ |
| AI向けハードウェア | TPU(Broadcomと共同、エネルギー効率が高くコストを大幅に下げている) | Azure向け自社チップが進んでいない △ | Trainium/Inferentia 好調 ○ | Broadcomと開発中のカスタムチップ、成否不明 △ |
| ソフトウェア/ミドルウェア | Vertex AI・Agent Builder(統合可能) ○ | ○ | ○ | △ |
| 企業向けAIソリューション | Agentspace(統合管理ハブ、プラットフォーム化) ○ | ○ | インフラ提供中心 △ | △ |
| 投資 | ○ | ○ | ○ | ― |
※講師が講義中に画面共有した自作カテゴライズ表の再構成。評価はすべて講師の見解。
前田講師は囲い込みの視点で見ていたためマイクロソフトが強いと考えていた、と応じつつ、この整理を見るとグーグルに穴がないのはその通りだと認めた。ただしTPUについては他社へのアプローチが見えないという疑問が残る、とも述べている。これに対し講師は、Google Cloudが成長していけばTPUは自動的にそこに入っていく流れになるので強くなるのではないか、と応じた。推論型のチップとしてブラックウェルと比べれば相当に弱いが、押さえるべきポイントは押さえている、という評価である。
さらに技術的な論点として、TPUは小規模言語モデル(SLM)になると圧倒的に強いはずだが、まだ大規模言語モデル(LLM)が中心なので、移行までにどこまで強みを発揮できるかが問題だ、という指摘が前田講師から出た。講師はこれに、SLMには特化性が必要になり、著作権で揉めている領域でもグーグルにはGoogle Scholarがあるので関係ないという強みが出てくるのではないか、と応じている。学術的なバックグラウンドを押さえられるのは強い、という点で両者の見解が一致した。
アルファベットの2025年第3四半期は、売上1,023億ドル(+16%)で四半期売上が初めて1,000億ドルを超え、純利益350億ドル(+33%)。EU制裁金35億ドルを除くと営業利益は22%増、営業利益率33.9%となる。Google Cloudは34%増の152億ドル、クラウド営業利益は85%増の36億ドルで、セグメント利益率23.7%。講師の説明はいずれも公表値に沿っている。
グーグルがアップルに支払った金額は、独禁訴訟の開示資料により2022年に200億ドルであったことが確認されている。サファリ経由の検索広告収益の36%をアップルに配分する取り決めであることも法廷で明らかになった。
数値に食い違いがある箇所:講師は「Googleが毎月1.3京のトークン処理をしている」「月間ユーザーも650万人まで増えている」と述べた。実際には、2025年10月にピチャイCEOが公表した数字は月間1.3千兆(1.3 quadrillion)トークンである。日本語の単位では1京=1万兆なので、1.3千兆は0.13京にあたり、講師の表現は一桁多い。またGeminiアプリの月間アクティブユーザーは6億5,000万人であり、「650万人」は100分の1になっている。いずれも桁の言い間違いと思われるが、規模感が大きく変わるため訂正しておく。
2026年8月時点の続報(独禁訴訟):講師の「解体は止められていない/だが引き延ばせる」という読みは、結果的にかなり当たった。2025年12月に最終判決が下り、Chromeの分割やデフォルト検索契約の全面禁止といった構造的措置は命じられなかった。代わりに、サービスの配布方法への制限と、競合他社への検索データの共有・シンジケーション提供が義務づけられた。グーグルは2026年1月に控訴し、司法省と州司法長官も2026年2月に控訴。是正措置は2026年2月3日に発効したが、ライセンス条件の詳細は未確定のままで、控訴審は2027年まで続く見通しである。Chrome分割回避という見立ては的中
YouTubeについては、2025年第3四半期のYouTube広告収入は102.6億ドルで約15%増。NFL独占中継のライブ配信では1,900万超の同時視聴を記録している。講師の指摘は数字の裏付けを持つ。
アマゾンの営業強化について質問が出たところから、議論は経営者論に移った。講師が引用したのは、アンディ・ジャシーが決算のタイミングで放った言葉である。「解雇は文化だ」。同時に3万人を解雇すると言っており、それができるということは、社内の生産性が上がっているからこそ解雇できるという側面もあるのではないか、という読みが示された。
営業体制については、マイクロソフト、アマゾン、グーグルの主戦場は対企業と同時に対政府(ガバメント)が今後世界中で増えていくだろうという見立てが語られた。そのための営業となると一般の雇用ではなく、むしろトップ層が出ていくような形の営業になる。一方でセールスフォースやアドビのようなサービス企業は、一度人を解雇して営業マンを雇っており、B2Bビジネスになるので営業マンの雇用が非常に増えている。ServiceNowが株価にまで反映されて好調である、という具体例も挙がった。
そしてエヌビディアのジェンスン・ファンについて。「エコシステムの作り方が凄まじい」「弱いところを全部出資と提携で囲い込んだ」という評価が両者から出た。2026年末に出てくるベラ・ルービンについて、ジェンスン・ファンがかなり自信を持っているので相当なものが出てくるのではないか、AMDのMI450もかなりいいが余裕で超えてくるようなニュアンスがある、という期待が語られた。
「経営者を見るのが最も適切なのかな、と今のジェンスン・ファンを見ると思う」――金額で見ると全然見えない、という前田講師の同意がこれに続いた。決算数値の分析を1時間かけた後の締めくくりが「経営者を見ろ」であった点に、この回の姿勢が表れている。
講師は「今回だけでも3万人解雇する」と述べたが、アマゾンが2025年10月28日に公式に発表した人数は約1万4,000人(コーポレート職)である。「最終的に3万人に達する可能性がある」と報じたのはロイターであり、会社の公表値ではない。講師が言及した数字は報道ベースの上限値と一致する。
「解雇は文化だ」という言葉については、ジャシーが10月30日の決算説明会で実際に "It's culture." と述べている。ただし文脈は補足が必要で、ジャシーは「これは財務的な理由でも、今のところAIによる理由でもない」と明言したうえで、組織が大きくなりすぎて階層が増えたことが理由だ、と説明している。つまり講師の読みである「AIによる生産性向上があるからこそ解雇できる」という解釈は、ジャシー本人の説明とは逆方向を向いている。なお人事責任者は発表時にAIを「インターネット以来最も変革的な技術」として言及しており、社内でもメッセージが揺れていた。
投資効率で見るとマイクロソフトが強い、という前田講師の発言を受けて、講師が「マイクロソフトが最も怖いのは何か」という問いを投げた。答えは「AGIが完成するときが最も怖い」である。
理屈はこうである。今回決定したOpenAIの再編で、マイクロソフトは株式の27%を取得する。そのうち収益の20%がマイクロソフトに入る。ところが契約上、AGIができてしまったらマイクロソフトの収益はなくなる。ではそれを誰が判断するのか。サム・アルトマンが言い始めているのは、独立委員会を作ってそこに判断させるという仕組みである。つまり「我々がAGIだと言った瞬間に、マイクロソフトの収益がなくなる」。
前田講師が「独立委員会といっても、もう自分でそれを作るような手筈を整えているということですよね」と応じ、講師も同意した。背景として、AGIができた場合は人類全体に利益をもたらすAIを開発するというのがOpenAIの設立目的・理念であり、一社の収益をそこまで吸い取ることがあると独占状態になってしまうのでそれを排除する、という契約が付いている。「AGIなんて当分できない」と言っていたアルトマンが独立委員会の話を始めたことで、マイクロソフトが不快感を持っている状態にある、というのが講師の見立てだった。
前田講師はここで矛盾を突いた。それこそ株式上場という話とは完全に矛盾する。講師は「OpenAIの株式上場はもう完全に資金調達目的だ」と応じ、パランティアのようなやり方をするならまだ意味が分かるが、今のところそういう理念を出しているようには見えなかった、と述べている。
2025年10月28日、OpenAIは営利部門をOpenAI Group PBC(公益法人)へ再編し、非営利財団が引き続き支配権を持つ形にした。マイクロソフトはこの再編により27%の持分(当時の評価額で約1,350億ドル)を取得し、2032年までOpenAIの技術へのアクセス権を保持する。
AGI宣言の権限については、講師の説明どおり、従来のOpenAI理事会から独立した専門家パネルへ移された。両社が共同で設置するパネルがAGIを検証するまでは既存の収益分配契約が継続する、という構造である。「AGIと認定された瞬間に収益分配が止まる」という理解は、契約構造として正しい。
2026年8月時点の続報:AGIの宣言はまだ行われておらず、収益分配契約は継続している。マイクロソフトは持分法適用によりOpenAIの損益を「その他収益・費用(純額)」に取り込む形をとっており、四半期ごとに評価益と事業損失が交錯する状態が続いている。継続監視項目
講師が「小賀さん向けにYouTubeを撮ったものがある」と前置きして語ったのが、未上場株のセカンダリー市場から見た構図である。マイクロソフトとOpenAIの関係でサム・アルトマンがアメリカで最も力を持つ立場になった一方、今最も危ういのはイーロン・マスクだ、という主張だった。
根拠として挙げられたのがCapLight(キャップライト)というアメリカのセカンダリー市場の相場が見えるサービスである。そのアナリティクスを見ると、適格投資家によるイーロン・マスク関連企業の購入率が非常に落ちており、資金がOpenAIに集中している。
講師はセカンダリー市場の性質についても説明した。株式なら10%上がるのは珍しいが、セカンダリーは評価に合わせて価格が動くので、昨日まで100ドルだったものが急に200ドルになったりする。アメリカのユニコーン企業の株の上昇率は半年で平均50%程度。ところがイーロン・マスク関連企業はすべて上昇率20%しか出ていない。他のユニコーンと比べると明らかに見劣りする。だからイーロン・マスクは危ういのではないか、という声が周囲から出ている、という話だった。
CapLightは実在する未上場株のセカンダリー市場データプラットフォームであり、適格投資家向けに気配値と取引実績を提供している。ただし「ユニコーンの半年平均上昇率50%」「マスク関連企業は20%」という具体的な数値は、公開情報からの検証ができなかった。講師自身も「僕の周りとかから」という言い方をしており、非公開の市場観測に基づく発言と理解すべきである要確認
ニュースとして講師が挙げたのが「SKハイニクスがトヨタの時価総額を超えた」ことだった。3年ほど前から言っていた通りだ、と本人が振り返り、「SKはまだまだ来る」と付け加えた。今年だけで株価は3倍。さらにエヌビディアと組み、現代自動車(ヒュンダイ)とも組むという展開が語られ、ベラ・ルービンの話と合わせるとこの後が大きい、という見立てが示された。
加えて「あと5%上がるとソフトバンクがトヨタを超える」という指摘もあり、これも先月YouTubeで話した通りだと述べられている。アマゾンについては、グーグルに7,000〜8,000億ドルの差をつけられているが、これでアマゾンが引っ張ってまた上がってくるイメージがある、という締めくくりだった。
SKハイニクスの時価総額がトヨタを上回った事実は確認できる。時価総額528.5兆ウォンに対しトヨタは54.161兆円(約500.3兆ウォン)で、世界ランキングではSKハイニクスが34位、トヨタが48位となった。
2026年8月時点の続報:「まだまだ来る」という講師の予測は、その後の展開で大きく裏づけられた。SKハイニクスは2026年5月下旬に時価総額1兆ドルを突破。2026年6月時点で年初来上昇率は340%超に達している。エヌビディアやグーグル向けの高帯域幅メモリ(HBM)における支配的な供給者としての地位が評価された結果である。2024年1月時点では時価総額774.7億ドル・世界194位だったことを考えると、2年半でおよそ13倍の水準に到達したことになる。3年前からの見立てが的中
最後に、仮説を持って見ることの重要性という話題から、講師自身の長期の賭けの話が出た。量子コンピューティングで言えば間違いなくマイクロソフトのトポロジカル方式が出てくるはずで、そうしたらマイクロソフトに大期待、という仮説を持っているという。
その原点は高校生から大学に入る頃にさかのぼる。当時トポロジカルを熱心に勉強していたが、周囲からも先生からも「そんなものは意味がないからやめろ」と言われていた。ちょうどその頃に理論や論文が出てきたので自分でもやってみようと調べまくった。動機は「将来役立つかもしれないし、内容が難しいから若くて柔軟性があるうちに知識を入れておいたほうがいい」というものだった。メビウスの輪が紙で簡単にできるのだから、トポロジーも機械でできるだろうと考えて開いてみたら、とてつもなく難しかった、という述懐もあった。物理学者のところまで聞きに行ったが、その先生にも「別にそんなことはやらなくていい」と言われ、だからこそやろうと思った、という。
そして25年後、マイクロソフトがトポロジカルを発表した。ところが誰もトポロジーを理解しないので、発表した瞬間に株が落ちた。「やっちまった、僕の完全なバイアスだ」という自嘲で締めくくられた。以前この勉強会でトポロジーの講義をしたときも全員が呆然としていたので、もう二度とやらないと決めていたのに、舞い上がって喋ってしまったという落ちがついている。
この回の主題は「仮説を持って決算を見よ」だった。25年前に立てた仮説が今になって形になり、しかし市場はまだそれを評価していない――という実例が、講義の締めくくりに置かれている。仮説が正しくても、市場がそれを織り込む時期は仮説の外にある。ここは前段の「ミルとベンサム」の回で語られた「理論の正しさと、それが誰に届くかは別問題」という論点とも呼応している。