全員が同じ品質の資料を作れるようになったとき、投資家は何を見るようになるか。講師が提示した答えは、アナログの強さ・柔軟性・面白さという、極めて人間的な三条件だった。
マルクスの上部構造/下部構造の講義が「対話がものすごく重要である」という結論に達したところで、講師は「最近プレゼンテーションがすごく変化している」と話を切り替えた。ベンチャーキャピタルの現場で何が起きているかという実務の話であり、同時に「上部構造と下部構造はどのスケールにも存在する」という直前の議論の応用でもある。VCが上部構造、スタートアップが下部構造にあたる。
講師の観察はこうである。生成AIの普及によって、スタートアップのピッチ資料は「質の向上した2割」と「低品質のピッチが増加した8割」に二極化した。しかも上位側の資料も同質化している。市場説明もブランディングもTAM/SAM/SOMも、AIに作らせれば似た形になる。データ依存の資料はすべて似てくる。
同時に、良い変化も起きている。AIを活用することでスタートアップが少人数化し、5年前より小さいチームで立ち上がるようになった。すると調達額が小さくなり、投資家は資金を分散しやすくなり、調達できる企業の数が増える。ただしその裏返しとして、評価額が上がりにくくなり、注目もされにくくなる。講師はここから「いずれ調達がしにくくなる」「今後はレイトステージのほうが重要なのに、そこで調達しにくい状態が生まれる」と踏み込んだ予測を立てた。この予測が2026年8月時点でどうなったかは、本レポートで検証している。
そして本題である。全員が同じ水準の資料を作ってくるなら、VCは何で判断するのか。講師が挙げたのは四つだが、実質的には三条件に集約される。会社が持っている独自データ(=アナログでしか取れないもの)、創業者・ボードメンバーの学習能力(=好奇心)、そしてユニーク性と適合力(=面白いかどうか、こだわりのなさ)。講師は「僕がずっと言っていたことですよね。アナログで稼げ、アナログで動け」「AIが出てくると一番強いやつはバグのある人間である」と、自説と一致していることを繰り返し強調した。
AIが人間の仕事を代替するのではなく、AIが人間の出力を均質化することで、均質化しない部分だけが値段になる。だから残るのは「機械が再現できない一次情報」「機械が持てないこだわりのなさ」「機械が出せない意外性」の三つになる。参加者の一人はこれを「バグ・リーダーシップ」と呼び、過去に学んだどのリーダーシップ理論にも当てはまらない新種だと評した。
直前の議論で、組織の上部構造と下部構造をどう動かすかという問いに対し、強制と対話という二つの選択肢が示され、対話の重要性が確認された。講師はここを継ぎ目にして、「この中で最近プレゼンの話なんで、ちょっとプレゼンテーションがすごく最近変化しているという話をしていいですか。おそらく〇〇さんとか好きな話だと思うんですけど、ベンチャーキャピタル絡んでちょっと話します」と切り出した。
この転換は唐突に見えるが、論理的には連続している。プレゼンテーションとは、上部構造(資金の出し手)と下部構造(事業の実行者)のあいだで行われる対話そのものだからである。講師は後半で明示的に「このベンチャーキャピタルが上部構造で、スタートアップ企業は下部構造ですよね。文化を作っていくわけでしょう」と述べ、この対応関係を確認している。
講師はまず、スタンフォード大学のHAI(Human-Centered AI研究所)が公開しているAI研究レポートを参照するよう促した。「ぜひ検索してもらったりすると分かるんですけど」と、原典に当たることを繰り返し勧めている。
そのうえで数字を出す。2024年の世界の民間AI投資は約2,500億ドル。うち生成AIへの投資は約340億ドル。「そんなに実は多くないんですよ。ただこれは3年前と比較すると8倍くらいになっている」。
そして構造変化を指摘した。「これによって今度は何があるかというと、AIを作るところから、AIを作る企業から、AIを活用する企業ができあがっているんですよ」。この主語の交代が、以下すべての議論の起点になる。
Stanford HAIの「AI Index Report 2025」(2025年4月公開)によれば、2024年の企業によるAI投資総額は2,523億ドルで前年比26%増。生成AIへの民間投資は339億ドルで2023年比18.7%増である。講師の「約2,500億ドル」「約340億ドル」という数字は、この報告の数値とほぼ正確に一致する。
「3年前と比較すると8倍」という点も、同報告が生成AI投資を2022年水準の約8.5倍と記述しており、整合的である。
地域別では、米国の民間AI投資が1,091億ドルで、中国の93億ドルの約12倍、英国の45億ドルの約24倍。また2024年時点で組織の78%がAIを利用しており、前年の55%から急伸している。「AIを作る企業から、AIを活用する企業へ」という講師の構造変化の指摘は、この採用率の数字によっても裏づけられる。
講師の観察はこうである。起業家がVCにプレゼンをして資金調達をするという構造そのものは変わっていない。しかしその中身で「プレゼンの二極化」が起きている。
AIを活用することで、以前なら作れなかった水準の資料を作れるようになった層。市場分析もデータ整理も高速化した。
作りやすくなった分だけ、水準に達しないピッチの絶対数が増えた層。VCの受信箱が埋まる原因になっている。
そして講師は、これと並行して「世界中のVCが行っているようなプレゼンの機会自体が、かなり低下してきている状態である」と述べた。参加者が「起業家がベンチャーキャピタリストにアクセスできる頻度が増えたからでは」と応じ、講師は「それも確かにあるんですけど、後で説明します」と留保している。
講師の主因の説明はこうである。AIを活用してデータを作ってくることで資料ができあがる。すると資料が同質化する。「例えば市場の説明だったり、ブランディングだったり、よく出てくるのがTAM/SAM/SOMですね。こういうものも大体似てきているんですよ」。
そして講師は、この同質化の原因を一語で言い切った。「データ依存」。フィールド調査、すなわちアナログ調査が抜けているから似てくる、という診断である。
ピッチ資料の同質化は、2026年時点でVC業界の共通認識になっている。実務系のレポートでは「『AIを活用している』と言うことはもはや差別化にならない。すべてのVCの受信箱にあるすべてのピッチデックがそう書いている」という表現が定着している。
評価基準の変化も講師の指摘と方向が一致している。2025〜2026年に資金調達に成功したデックは、明確なAIの堀(proprietary models、autonomy、独自のデータ資産)を示しており、従来型のTAM/SAM/SOMスライドは、ボトムアップの収益化の切り口に置き換えられている。投資家の問いも「モデルはどう動くのか」から「日々のワークフローにどれだけ深く埋め込まれているか」「スケール時にマージンはどうなるか」へ移った。
皮肉な展開として、VC側もAIでピッチデックをスクリーニングするようになっている。人間のパートナーがファイルを開く前に、AIツールがトリアージ・指標のベンチマーク・定量チェックを済ませる。つまりAIが作った資料をAIが選別する層ができ、そこを突破した後に人間が判断する、という二段構えになった。この構造は、講師の「では人間は何で判断するのか」という問いの重要性をむしろ高めている。
講師は、AI活用による良い変化として「5年前より少人数性のスタートアップが生まれている」ことを挙げた。そしてそこから連鎖を追っていく。参加者との一問一答の形で進んだこの部分が、この回で最も論理が緊密な箇所である。
| # | 起きること | 帰結 |
|---|---|---|
| 1 | AI活用でスタートアップが少人数化する | 必要な資金調達額が小さくなる |
| 2 | 1件あたりの調達額が小さくなる | 投資家は資金を分散しやすくなる |
| 3 | 投資家が資金を分散する | 投資先・調達できる企業の数が増える |
| 4 | 1件あたりの調達額が小さい | 評価額が上がりにくくなる |
| 5 | 評価額が上がりにくい | 注目されにくくなる/インパクトが出ない |
| 6 | 注目されない | いずれ調達がしにくくなる |
講師はここから米国VCの資金配分に踏み込んだ。「基本的に米国は6割から7割がレイトステージだよって話したんですよ。この比率が変化しつつある。逆にレイトステージでの調達が難しくなってきている」。
理由の説明:「評価額が分かりやすいので調達がしにくくなる。今後のレイトステージは、シードよりレイトのほうが重要なんですよ。ある程度のものができあがりました、今後この事業をでかくしていくんだという状態のときに、調達しにくい状態が生まれる。これが今AIが引き起こしているVCに対しての評価基準の変化なんですよ」。
「米国VCの6〜7割がレイトステージ」という前提は正確である。2025年の北米VC資金のうち、レイトステージが68%を占めていた。シードは案件数の約40%を占めながら金額では9.4%しか取れていない、という偏りも同時期のデータで確認できる。
しかし「レイトステージでの調達が難しくなる」という予測は、少なくとも金額ベースでは外れている。2026年上半期、北米のスタートアップ投資は3,920億ドル(Q2単独で1,372億ドル)と過去最高を記録し、その牽引役はまさにAI大手のレイトステージ・メガラウンドだった。グローバルでも2026年上半期のベンチャー投資は5,100億ドルに達し、2025年通年の4,400億ドルを半年で超えている。レイトステージ資金はQ2単独で1,340億ドル、前年同期比141%増である。
ただし、講師の予測の後半部分は的中している。同じデータは極端な集中を示している。Q2のグローバル・スタートアップ資本の70%超がAI関連企業に流れ(前年の50%弱から急増)、OpenAIとAnthropicの2社だけで上半期の世界のベンチャー投資額の43%にあたる2,170億ドルを占めた。4件の取引がグローバル四半期投資額のおよそ3分の2を占めている。そして案件数は2021年水準を大きく下回ったままである。つまり金額の急増は裾野の拡大ではなく集中の結果であり、上位数社を除けば「評価額が上がりにくく、注目されにくく、調達しにくい」という講師の描いた状態がそのまま実現している。
整理すると、講師の予測は「レイトステージ全体の金額」という指標では外れ、「中央値のスタートアップにとっての調達環境」という指標では当たった。同じ現象を、総額で見るか分布で見るかによって評価が反転する典型例である。
講師は問いを立て直す。「ある程度みんながある程度のものを作れちゃうので、判断基準を変えなければいけない。これは何かというと、独自データは何なのか。創業者とかボードメンバーですね」。そして具体的に四項目を挙げた。
講師はこの三条件を何度も言い直している。「アナログで稼ぐ、柔軟性が高い、面白いかどうか」。そして自説との一致を強調した。「これが今、僕が常に言っていたことですよね。アナログで稼げ、アナログで動け。1つ目ですよね、独自データを持つように。2つ目が柔軟性が高い、すなわち学習能力が高いということはこだわりを持っていない。3つ目が面白いかどうか、ユニーク性なので」。
講師の三条件は、VCの投資判断だけでなく、労働市場全体の評価軸としても2026年に顕在化している。PwCの「2026 Global AI Jobs Barometer」は、AIが労働市場を二つの経路に分岐させ、人間的スキルに報酬が集まっていると報告した。判断力(judgement)、創造性(creativity)、リーダーシップの重要性が上昇しているという内容である。
雇用主調査でも、批判的思考を重視すると答えた企業が65%、判断力と意思決定が59%、創造性が58%で、いずれも1年前より重要度が上がったとされる。またAI関連職の求人分析では、技術スキルだけでは不十分であり、78%の雇用主が「技術的には優秀だがソフトスキルで落ちた候補者を採用した経験がある」と回答している。
特に講師の「学習能力=こだわりのなさ」に対応するのが、「データが不完全で、利害が実在し、AIが3つのもっともらしい選択肢を出してきたときに、擁護可能な判断を下せる能力」という記述である。AIが選択肢を出す時代には、選択肢を作る能力より選ぶ能力が希少になる、という診断であり、講師の主張と方向が一致している。
ただし、講師の「面白いかどうか」という基準は、これらの調査における「創造性」「対人スキル」と重なる部分はあるものの、より広く人格的魅力を含む概念であり、そのまま同一視はできない。講師独自の定式化として扱うのが妥当である。
講師はここで、自分たちのような立場が経営者から煙たがられることに触れた。「マクロデータをむちゃくちゃ使うので」。そのうえで反転させる。「マクロデータがいらないという人間は、アナログデータを持っていないやつなんですよ」。
そして核心を述べる。「大事なことは、マクロデータとアナログ、自分の自社をどうやって埋めるのかが、ビジネスの成長なんですよね」。日本で経営学と経済学が発展していない理由は、「企業の経営者がアナログデータを持っていない証拠」だという。
講師の説明はこうである。自分が取っているアナログデータはバイアスがかかったデータであり、それをどう戦略で埋めるかがビジョン・ミッション・バリューになる。そして重要なのは次の一文である。
「自分たちが欠落しているところが何なのかがはっきりと見えることなので、逆にそれを改善する能力があるのであれば、それは投資したいんですよ」
「これだけの隔たりがあって、こういう技術があるからこそこのデータに持っていけるんだ、という説得性が生まれるのは、このアナログデータを持っているかどうかだけの話」。逆に、マクロデータは持っているがアナログデータがない企業には、「あなたの会社はどこからどこへ行くんですか」が投資家から見えない。だから誰も投資しない。
補講者はこの点を思想史の側から補強した。「アナログで持っている独自性は、みんなもう軽視しているものですよね。ここがどんどん足りなくなってしまっていて、それがどんどん同質化を生んでいる。これがやはり世界の見え方や、物事の分析の方法が、いかにすでに先行してある学問形態や言語化によって支配されているか。そこを壊して考えることができなくなっている」。そして「問題解決もすでに出ている解決療法の修正でしかなく、新しいものが生み出せない。ということは、社会を根本的に変えることに誰も関心がなくなってしまったことを意味している。それに対してVCがお金を出せないのは当然だと思います」と結んだ。
この回でもっとも印象的な定式化が、終盤の質疑で出てきた。参加者の一人が「今日のアナログと柔軟性と面白さというのは、過去に私が勉強してきたリーダーシップの中に全然なくて、特別の新しいリーダーシップなんだなと思って。バグ・リーダーシップという理論なのかと思って拝見していました」と述べたのである。
講師の応答が、この回の中心的な主張になっている。
「基本的に今後残る産業はバグしかないと思っているんですよ、僕。AIというものができあがってきて完璧な仕事をするということは、その人のミスが許されるもの自体に価値ができると思っている」
「そうなってくると、やはりこの面白さというところはすごく重要になってくるんじゃないか。こういう面白さって、別に笑いを取るとかじゃなくて、人間的に魅力的だなとか。そういう人たちのほうが、しっかり調達できやすいというのも実際にあるわけなんですよね」
そして講師は、これは以前から言っていたことだと繰り返す。「これが言ったでしょ、僕ずっと。AIが出てくると一番強いやつはバグのある人間であると。アナログが強いやつが一番強い。面白いやつが一番強い。柔軟性があってこだわりのないやつが一番強い。これがまさにベンチャーキャピタルの判断基準に変わりつつあるのが今の現状なわけなんです」
参加者は「これはかつてあった、今まで色々勉強してきたリーダーシップ理論の中の、全然どこから取っていいか分からないリーダーシップ理論だなと思って。これがやはりもう最新のリーダーシップのセオリーになるんじゃないかなと思って聞いていました」と応じた。
講師はさらに、この「面白さ」の中身を具体化している。データサイエンティストの参加者に向けて、「クロス分析だったりオルタナ分析みたいな、新しい何かのデータを出してくるみたいなところがまさに。初めて聞く人が多いとなると、それって面白いというデータになるわけじゃないですか。こういう笑いの面白さじゃなくて、その目線のポイントになってくると思うんですよね」。つまり面白さとは、他人が持っていない視点から出てくる意外性のことである。
「バグ・リーダーシップ」という命名はこの場でのやりとりから生まれたもので、経営学の確立された理論名ではない。ただし、内容の一部は既存理論と接続できる。
「こだわりのなさ=柔軟性」はアンラーニング(学習棄却)の議論と重なる。「好奇心=学習能力」はキャロル・ドゥエックのグロースマインドセット、およびアダム・グラントらの「rethinking」の議論と対応する。「意外性のある視点」は、両利きの経営における探索(exploration)側の能力に近い。
一方、「ミスが許されること自体に価値ができる」という主張は、経営学の既存理論には直接の対応物がない、講師独自の見立てである。この命題は検証可能な予測を含んでいる――AIが完璧に近づくほど、不完全さのプレミアムが上がる、という予測である。2026年時点では、人間的スキルの需要増という形で部分的に整合するデータが出ているが、「ミスが価値になる」という強い形での検証はまだできていない。要確認
また対立する見方も存在する。AI導入により品質の分散が縮小すれば、むしろミスの許容度は下がる(顧客が均質な品質に慣れる)という主張も成り立つ。講師の言う「ミスが許される」は、おそらく製品品質のミスではなく、人格・振る舞いにおける不完全さを指していると読むのが自然である。この区別をしないと命題が成立しなくなる。
参加者が「新しいプレゼンがどんなものなのか、すごく興味がある」と述べたのに対し、講師は「ちなみにレベルは落ちていますよ」と答えた。理由は明快である。「資料は面白くないです、一切」。
そこから導かれる結論がストーリーテリングである。「資料に面白みが出しにくくなっているからこそ、重要なことはストーリーテリングなんですよ。すなわちナラティブな経営、ナラティブなプレゼンテーション、ナラティブな営業、ナラティブなストーリーテリングがものすごく重要になってくる」。
参加者が「過去と同じ基準や同じ価値観で見ていくと全然ナラティブにならないですもんね。新しい考え方があるとか、新しい価値基準があるから、ここに新しくストーリーをぶち込める」と応じ、講師は「そうです」と肯定した。
講師はさらに、ストーリーだけでは足りないと続ける。「だからこれこそまさにレジリエンスが重要になってくるんですよ。経営リソースじゃないですか。万が一市場に出したときにすぐに改善できるような、すぐにアップデートできるような人材やリソースが、しっかりと社内や組織の中に揃っているのかどうか。これも一つの経営戦略に入れていかなきゃいけないポイント」。
例として挙げたのがAppleとGoogleである。「なぜ優秀なのかという話なんですけど、OSを改善したときに評判が悪かった瞬間にすぐ改善してくるでしょう。またアップデートがすぐ行われるみたいな。これなんですよ」。
ストーリーテリングが投資判断に効くという議論は、カール・ワイクのセンスメイキング理論(『組織化の社会心理学』1979年、『センスメイキング・イン・オーガニゼーションズ』1995年)と接続する。この回でも参加者から「センスメイキング論」への言及があり、「自分たちが思っているところとのずれが、ただのずれではなく、こういう意味があってずれに見えているんだ、ということを提案していく」という理解が示された。講師は「それも一つのポイントだと思います」と応じている。
レジリエンスについては、この勉強会シリーズで繰り返し扱われてきた高信頼性組織(HRO)研究の系譜にある概念である。ここで講師が使っているのは、失敗を防ぐ意味のレジリエンスではなく、失敗した後の回復速度としてのレジリエンスであり、その速度自体を経営資源として計画に組み込むべきだという主張である。
講師は最後に、この話が直前のマルクス講義とどうつながるかを明示した。「これがベンチャーキャピタルが上部構造で、スタートアップ企業は何ですか。下部構造ですよね、これ。文化を作っていくわけでしょう」。
そして問いを重ねる。「今後求められる企業は何ですか。創業者の理想像って何ですか。リーダーシップを取るためのまず入り口になる根本は何ですか。ここになってくるわけなんです」。答えは三条件である。
さらに講師は、上部構造/下部構造がどのスケールにも存在することを再確認した。学校にもある。企業やスタートアップの中にもある。金融業界と製造業という大きい単位にもあれば、国という単位にもある。「僕らや一般の僕らがいるところは基本的に中小企業になるわけですよね。この中小企業というところに対しても、この上部構造と下部構造のストラクチャーができあがる」。
講師は明示的に、直前の講義パートを回収する意図でこの話をしたと述べている。「説明をすると、さっきの前田さんの話が全部回収されて、会員さんにもメッセージとして届くんじゃないでしょうか、という風に考えついたんですけど」。
つまり、上部構造/下部構造という百年以上前の概念を、その日のうちに「米国VCの評価基準の変化」という2025年の実務にまで接続させた。理論を学ぶ意味は、こういう距離を一気に飛べることにある、という実演になっている。