米6大銀行の2025年決算が過去最高益で着地し、規制当局は補完的レバレッジ比率の緩和を最終決定した。銀行が並べる2026年の楽観論を、誰に向けて書かれたレポートなのかという一点から読み直した回。
この回の出発点は、規制の一行である。補完的レバレッジ比率――eSLR――の所要水準を引き下げれば、米大手行はバランスシートを広げる余地を得る。講師の説明では、それによっておよそ2,000億ドルが市場に回るようになる。他国が財政や金融の側から資金を市場に流し込むのに対して、米国は銀行の資本規制を緩めることで同じ効果を狙いに来た、という構図である。
その蛇口が開く直前に発表されたのが、米6大銀行の2025年通期決算だった。合計の売上高は約6,000億ドル、日本円にして90兆円規模で6%増。純利益は1,570億ドルで8%増。金利が高く、経営環境としては苦しかったはずの年に、収益も利益も投資銀行手数料も運用収益もすべて過去最高を更新している。ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーの投資部門は圧倒的で、株式トレーディング収入は23%増の165億ドルに達した。銀行は大口顧客・大口トレーダーに対して、もっと運用してほしい、もっと借りてほしいという営業を強めている。
そして2026年に控えているものとして講師が挙げたのが四つ。M&Aの活性化、AI企業とインフラプロジェクトへの融資、SpaceXやAnthropicを含むIPOラッシュ、そして超富裕層向けプライベートバンキングである。IPOについては、2025年にフィグマの上場をきっかけにブームが来るかと思われたのに来なかった理由が、政府閉鎖によるSECの機能停止だったと整理された。申請そのものは過去最高水準で積み上がっており、それが2026年に一気に出てくる、と。
ここまでは強気一色の話に見える。この回が面白くなるのは、参加者から「自己資本比率を下げるということはレジリエンスを下げるということではないか」という反論が出てからである。経営学の教科書に照らせば、その指摘は正しい。それでも銀行のレポートが楽観で埋まっているのは、あのレポートが一般投資家ではなく大口投資家に向けて書かれているからだ、というのが講師の答えだった。手数料ビジネスの現金が積み上がる限り、貸し手側から見た弾力性はむしろ上がる。銀行のメッセージは「あなた方が回してくれれば、うちはもっと貸せる」という誘いなのだ、と。
数字が過去最高であることと、その数字が誰に向けて並べられているかは、別の問題である。銀行の見通しが楽観的なのは、楽観が正しいからではなく、楽観であることが彼らのビジネスモデルの前提だからだ。「年初に出てくる予想は大体ポジショントーク」という参加者の言葉と、「楽観的なのは皆さんではなく、超富裕層にとっての楽観だ」という講師の締めが、この回の両端を挟んでいる。
他国が財政出動や金融緩和で市場に資金を流すのに対し、米国が2026年に用意した仕掛けは資本規制の緩和だった、というのが講師の整理である。補完的レバレッジ比率は、分子に中核的自己資本(Tier1資本)、分母にオンバランス・オフバランスを含む総エクスポージャーを置いて算出する指標で、リスクの高低を問わず資産の量そのものに枷をかける。だからこそ、リスクの低い米国債を大量に持つことがコストになってしまう。この枷を緩めれば、大手行は国債保有や市場仲介に踏み込めるようになる。
講師が「2,000億ドルぐらいが回るようになる」と述べたのは、この規制緩和によって銀行が抱え込む余地の大きさを指している。銀行から見れば、追加で貸せる、追加で持てる、追加で仲介できるということであり、市場から見れば、それだけの資金が循環に入るということになる。
FRB・FDIC・OCCの三当局は2025年11月25日、eSLRの最終規則を確定させた。米国のG-SIB(グローバルなシステム上重要な銀行)に対する所要水準を一律2%上乗せする方式から、G-SIBサーチャージの半分を上乗せする方式に改め、実質的に所要水準が1〜1.5%ポイント程度引き下がる設計である。目的として明示されているのは、米国債市場の機能改善――市場が混乱したときに銀行が国債の売買を仲介できるようにすることだった。
ただし軽減額の内訳には注意が必要である。持株会社ベースのTier1資本の所要削減は約130億ドルにとどまり、約2,190億ドルという大きい方の数字は銀行子会社レベルでの所要資本の軽減額である。講師の「2,000億ドル」は後者に近い水準だが、これは手元に2,000億ドルの現金が新たに生まれるという意味ではなく、その分だけバランスシートを広げられるという「枠」の話である。この違いは、次のPARTで出てくる「銀行は2,000億ドル持っているぜ」という表現をどう受け取るかに直結する。
この規制緩和は、政府にとっても都合がよい。財政拡張で国債の発行量が増えるとき、それを買って値崩れを防ぐ主体が要る。銀行がバランスシートを広げられれば、米国債の買い手が一つ増える。講師が後半で「銀行はアメリカの国債ももっと買うだろうと政府も考えている」と述べたのは、この文脈である。規制緩和・財政拡張・国債消化が一つの線でつながっている、という読み方になる。
まず参加者に問われたのは、米6大銀行を挙げられるかという質問だった。JPモルガン・チェース、ウェルズ・ファーゴ、バンク・オブ・アメリカ、シティグループまでは出たが、残る二つで詰まった。ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレー――投資銀行のイメージが強く、「銀行」の側に数えていなかった、という参加者の反応が、この回のテーマを先取りしていた。いま伸びているのは預金を集めて貸す部門ではなく、まさにその投資銀行的な部門だからである。
講師が示した数字はこうだ。6行合計の売上高は約6,000億ドル、日本円で90兆円規模。前年比6%増。純利益は1,570億ドルで8%増。売上の伸びより利益の伸びが大きい。ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーの投資部門は過去最高を記録し、株式トレーディング収入はゴールドマンが23%増の165億ドル、モルガン・スタンレーとJPモルガンも30%前後の増加。銀行はいま、大口顧客と大口トレーダーにさらに運用させる方向へ営業を集中させている、というのが講師の見立てだった。
図1:米6大銀行の2025年通期純利益(億ドル)。JPモルガンのみ前年比マイナス。出典:報道ベースの公開数値をもとにClaude作図。合計は1,572億ドル・前年比8.1%増。
6行合計の純利益1,572億ドル・前年比8.1%増、3年連続の増益という数字は、講師の発言(1,570億ドル・8%増)とほぼ一致する。増収増益となったのは6社中5社だった。
ただし内訳を見ると、JPモルガン・チェースの通期純利益は前年比2.4%減の570億ドルで、6社で唯一の減益である。バンク・オブ・アメリカが13.1%増の305億ドル、ウェルズ・ファーゴが8.2%増の213億ドル、シティグループが12.8%増の143億ドルだった。講師が「JPモルガンも30%くらい増えている」と述べたのは株式トレーディング収入の伸びを指していると読むのが自然だが、部門収入の伸びと最終利益の増減は逆方向になっている。銀行を「全部よかった」とひとまとめにすると、この逆転を見落とすことになる。
なお、株式トレーディング収入165億ドル・23%増という通期の数値そのものは公開報道から直接確認できなかった。ゴールドマンの2025年10〜12月期の株式トレーディング収入が米銀史上最高を記録したこと、4〜6月期にも74億2,000万ドルで当時の過去最高を更新したことは確認できている。要確認
銀行側が2026年の収益源として数え上げているものを、講師は四つに整理した。第一にM&Aの活性化。第二にAI企業とインフラプロジェクト向けの融資で、これは金利が下がることでさらに稼ぎやすくなる。第三にIPOラッシュ。SpaceXやAnthropicの名前が挙がった。第四に消費者部門と超富裕層向けのプライベートバンキングで、運用収益はすでに過去最高を更新している。
IPOについては、講師自身が2025年に「フィグマの上場をきっかけに米国のIPOラッシュが始まるかもしれない」と発信していたが、実際にはブームは来なかった。理由は政府閉鎖である。SECの稼働が止まったことで審査が進まず、その間に申請が過去最高水準まで積み上がった。それが2026年に一気に出てくる、というのが講師の予想だった。
2025年10月1日に始まった米政府閉鎖により、SECは緊急対応を除く通常業務を停止し、登録届出書の有効宣言・ファイリングのレビュー・ノーアクションレターの発行などができなくなった。10月9日にSECは、価格情報を省略し繰延修正条項を外すことで20日後に届出書が自動的に効力を持つ道を認めるガイダンスを出したが、実務家からは「これで動ける案件はごく少数」との見方が示され、大半のIPOが宙づりのまま残った。したがって「政府閉鎖がIPOを止めた」という講師の説明は、当時の状況と整合している。
話は世界最大の運用会社に移る。ブラックロックの2025年の運用資産の増加額は、講師の説明では7,000億ドル、日本円で100兆円。運用資産残高そのものは、少し前まで10兆〜11兆ドルと言われていたものが14兆ドルまで積み上がった。ところが同社の純利益は33%減少している。それなのに株価は上がっている。なぜか、というのがここでの問いだった。
講師の答えは、いま同社が押している商品にある。株式と債券に加えて顧客のプライベートアセットまで一体で運用する「オールイン」型のマルチアセット運用へ、ポートフォリオを移し替えさせている。そして、ポートフォリオを組み替えれば手数料が発生する。組み替え依頼は過去最大になっており、それだけで同社の運用資産が1,300億ドル――日本円で20兆円――増えた、と講師は述べた。
講師がここで結びつけたのは、政策の予測不能性と手数料収入である。大統領が次々に政策を変え、何に投資すればいいのか分からなくなる。それでも投資家は、組み替えなければ損を出すかもしれないと考えて、一生懸命に投資先を探す。その探索行動そのものが、仲介する側の売上になる。「ポートフォリオを組み替えると誰が一番儲かるのか」という問いに、講師は「銀行さんです」と答えた。混乱が長いほど、仲介者は稼げる。
一致している点。ブラックロックの2025年通期決算では、運用資産残高が約2,200兆円(およそ14.6兆ドル)と過去最高を更新する一方、純利益は33%減となった。講師の「純利益は33%減少しているのに株価は上がっている」という指摘は、決算内容と正確に一致する。運用資産が「少し前まで10兆〜11兆ドルだった」という認識も、実際の推移とおおむね整合する(2025年7〜9月期末で13兆4,636億ドル、約2,040兆円)。
食い違う可能性のある点。「2025年に運用資産が7,000億ドル(100兆円)増えた」という数字は、通期の増加額としては小さすぎる。2024年末から2025年末までの増加は3兆ドル規模に達しているとみられ、7,000億ドルは特定の四半期の増加額に近い。要確認
裏取りできなかった点。「ポートフォリオの組み替え依頼だけで1,300億ドル(20兆円)増えた」という数値は、公開報道からは特定できなかった。1,300億ドルと20兆円という円ドルの対応自体は内部的に整合している。要確認
ここでこの回の核心にあたる応酬が起きた。参加者(前田氏)の指摘はこうである。2026年のキーワードとしてレジリエンスが掲げられており、レジリエンスは企業活動の基盤と相関するはずだ。ところが自己資本比率を下げるということは、レジリエンスを下げることに他ならない。銀行の主張は、その点で矛盾しているのではないか。
講師はまず、経営学の分析としてはその通りだと認めた。自己資本比率を下げれば、弾力性は落ちる。それは自分もそう思う、と。そのうえで問いを裏返した。あのレポートは誰に向けて書かれているのか、と。
自己資本比率は損失を吸収する緩衝材である。これを薄くすれば、ショックに耐える力は確実に落ちる。レジリエンスを掲げながら資本を削るのは、論理として矛盾している。この見方は、外から銀行を評価する立場としては正しい。
読み手が求めているのは「銀行にもっと金を貸してほしい」ということである。手数料ビジネスが伸びれば、自己資本を維持したままでも現金は増える。貸した資金が回って返ってくるなら、キャッシュフローは厚くなり、貸し手の耐久力はむしろ上がる。だから「あなた方が回してくれれば、うちはもっと貸せる」というメッセージになる。
講師の説明を整理すると、銀行の側にはもう一段の計算がある。ポートフォリオの組み替えでどれだけ収益が見込めるかを織り込んだうえで、株式や債券のトレードをどう回すかを決めている。見込めている収益の分だけリスクを取れるのだから、その範囲では弾力性は下がっていない、という表現ができる。さらに利下げが進めば、データセンター建設のような高金利の借入コストが下がり、借り手企業の負債コストが軽くなる。借り手の弾力性が上がることが貸し手の弾力性を上げる、という方程式で考えれば、銀行の言い分は筋が通る――というのが講師の結論だった。
講師は最後まで、「パッと見た場合はレジリエンスは確実に落ちます。落ちてます」と認めている。銀行の説明が成り立つのは、貸した資金が実際に回って返ってくるという条件つきである。この条件が外れた瞬間に、薄くなった資本の意味が一気に表に出る。両方の見方が併存していること自体を、この回は残したまま終えている。
参加者からはもう一つ、アメリカの政策が相場に強く効く以上、11月の中間選挙の影響を無視できないという指摘が出た。先行き見通しは本来もっと不安定に置くべきで、中期までの経営計画のような見方をし、どこかで一度動きを止める――資金を引き上げて様子を見る――という選択肢も要るのではないか、と。
講師の応答は身も蓋もないものだった。6大銀行はそんな正論を言う人たちではない。儲かるなら火に油を注ぐ側であり、踊らなければ損だという発想をする。年初に出てくる予想は大体ポジショントークで、政策のプロパガンダに近い。だから彼らのレポートを予測として読むのではなく、彼らが何を望んでいるかの表明として読め、ということになる。
別の参加者(小賀氏)からは、自己資本比率そのものよりもクレジットコストがどれだけ積み上がっているかの方が重要だ、という視点が出された。日本の銀行が飛びかけた最大の理由がそこであり、そこにBIS規制が入ってTier1資本を厚く積めと言われた結果、クレジットクランチに近い状況になった。その基準で見れば、いまの米銀のクレジットコストは限りなくゼロに近い、あるいは逆に戻り益としてプラスに働いている可能性すらある。だからまだイケイケどんどんの局面だ、という読みである。
同じ勉強会の1月9日の回では、金融機関が2026年の見通しに掲げたキーワードとしてレジリエンスとコンバージェンス(収斂)が紹介されていた。ここで参加者が「2026年のキーワードとしてレジリエンスが上げられている」と述べているのは、その回を受けたものである。つまりこの応酬は、10日前に共有された前提に対する内側からの反証として立てられている。
この回は相場と業界見通しが主題であるため、2026年1月19日時点の見立てを、2026年8月末時点の公開情報と突き合わせる。以下はClaudeによる事後の検証であり、勉強会での発言ではない。
| 年初の見立て | 2026年8月末時点 | 判定 |
|---|---|---|
| 2026年はM&Aが活性化する | 1〜6月の世界のM&A金額は2兆8,473億ドル(約450兆円)で前年同期比5割増、5年ぶりの最高。件数は1割減だが1件あたりの金額が64%増と大型化。AI開発競争と電力関連の再編が牽引 | 的中 |
| SpaceXを含むIPOラッシュが来る | SpaceXは2026年6月12日にNasdaqへ上場。調達額は約12兆円で2019年のサウジアラムコを上回る過去最大のIPOとなり、初値は公募価格を約19%上回った | 的中 |
| 銀行の収益はさらに加速する | 米大手6行の4〜6月期純利益は前年同期比41%増の546億ドル(約8.8兆円)で最高益を更新。ゴールドマンは78%増の66億2,800万ドルで、SpaceX上場の主幹事として株式引受が急伸。米銀のボーナスは最大30%増との報道 | 的中 |
| 市場全体も良くなる(銀行の楽観が実体を伴う) | 3月にS&P500が1月の史上高値から8.7%下落し2022年以来最長の5週続落、ナスダックは高値から10%超の調整入り。8月4日に2カ月ぶりの最高値7,736、8月14日にさらに更新。年末予想は8,000へ上方修正 | 途中で一度崩れた |
| 金利が下がることでAI・インフラ融資が稼げるようになる | FRBの利下げは進まず、7月FOMCは据え置き。日銀は6月に0.75%から1.0%へ引き上げ。「金利低下前提」の部分は年前半には実現していない | 不発 |
| 転換点は財政赤字の悪化から来る(が、誰にも分からない) | 実際の調整の引き金は中東情勢だった。米・イスラエルとイランの軍事衝突で原油が高騰し、スタグフレーション懸念が台頭。8月には中東不安の後退で買い戻された | 要因が別 |
図2:2026年前半に実現した伸び率(前年同期比、%)。左から世界のM&A金額(1〜6月)、米6大銀行の純利益(4〜6月期)、ゴールドマン・サックスの純利益(同)。出典:報道ベースの公開数値をもとにClaude作図。
銀行が2026年に稼ぐと予告した四つの経路――M&A、IPO、トレーディング、運用――は、前半だけでほぼすべて実現した。その意味で銀行の楽観は「自分たちの収益について」は正確だった。一方、市場全体は3月に一度崩れており、しかもその原因は財政赤字ではなく地政学だった。講師が「転換点は誰にも分かりません」と言い切ったことは、結果として正しかったことになる。銀行の稼ぎと市場の平穏は別物である、という区別がここで効いている。
応答の中で総量規制が「三重野氏の総量規制」と呼ばれた箇所があるが、総量規制は1990年3月27日に大蔵省が金融機関に出した銀行局長通達(いわゆる土田通達)であり、日銀の政策ではない。不動産向け融資の伸び率を総貸出の伸び率以下に抑えさせるもので、1991年12月20日まで約1年9カ月続いた。三重野康氏は当時の日銀総裁であり、公定歩合の引き上げによって引き締めを主導した人物である。両者は時期も狙いも重なるが、主体が異なる。
「BISはもっと後」という指摘の方向は正しい。バーゼル合意(BIS規制)は1988年に成立し、日本の金融機関に本格適用されたのは1992年度(1993年3月期)からである。ただし当時の枠組みで求められた比率は総自己資本8%・Tier1が4%であり、「コアTier1」という概念とその4.5%という水準はバーゼルIII(2013年以降段階適用)のものである。同じ4%台の数字でも、指す中身は別の時代のものになっている。