「日銀が利上げして、FRBが利下げする。金利差は縮まる。だから円高になる」――講師はこれを名目金利しか見ていない見解と切り捨てた。では何を見るのか。金利が動いた「理由」である。2025年11月21日時点で語られたこの読み筋が、その後9か月で何を当て、何を外したかまで追う。
この日の後半は、マルクスの講義から一転して金融の基礎講義になった。きっかけは、その日のうちに公表された米国のデータが矛盾していたことだった。雇用統計の数字は良かったのに、失業率は上がっていた。NVIDIAの決算は極めて良かったのに、株価は一時上げたあと下落した。この二つを繋げて説明できるかどうかが、リサーチができるかどうかの分かれ目になる――という導入である。
講師はまず、金融商品の中心にあるものを一つ指定した。10年国債である。ほとんどリスクがないと言われるからリスクフリーレートと呼ばれる。宇宙に喩えるなら、10年国債の利回りが太陽であり、他の金融商品は惑星として自転しながらその重力の影響を受ける。住宅ローンや企業の借入金利に反映し、株式の割引率に入り込んで株価の計算に影響し、他国の国債利回りとの比較を通じて資金の流れを決める。ここが分からないまま為替や株を語ってもはじまらない、というのが講義の入口だった。
次に、金利が上がったときに何が起きるかを一つずつ確認していく。借入コストが上がる。企業は借りにくくなる。投資しにくくなる。成長が鈍る。給料が上がりにくくなる。逆もまた然りで、日本はゼロ金利・マイナス金利で企業が借りやすい状態を作った。ところが借りやすくしても投資はされなかった。結果、現金が内部留保として積み上がり、経済は成長せず、給料も上がらなかった。この実例を日本は自分で作ってしまった。だからこの状態で金利を上げると、さらに成長しにくくなる。国としての魅力は下がる。
そのうえで、キャリートレードの説明に入る。日本の金利が低く、米国の金利がインフレ対策で高くなった。日本で借りて米国債で運用すれば、その差額が取れる。1億円を1%で借りて年100万円返し、米国で5%取れれば500万円。差の400万円が儲けになる。円からドルへ資金が流れる。これが円安の原因である。
日銀が利上げし、FRBが利下げすれば、日米金利差は縮小する。だから円高になる――この論法を講師は「大抵のバカな経済学者とアナリストの見解」と一蹴した。名目金利だけを見ているからである。
問題は、金利が動いた理由のほうにある。財政リスクプレミアムで国債が売られて金利が上がったのなら、それは金利上昇と同時に通貨が売られている状態である。インフレ期待で金利が上がったのなら、実質金利は改善していない。名目利回りが上がっても、上がった分がディスインフレ・プレミアムではなく単なるインフレ分なら、その通貨を買う動機は弱い。ここを見分けられるかどうかが、リサーチの入口に立てているかどうかを決める。
講義の導入は、その日の米国データの話だった。雇用統計の数字は上がったのに、失業率も上がっていた。普通に考えれば、雇用が良くなったなら失業率は落ちるはずである。矛盾していないか、という質問が事前に出ていた。
講師の答えは、調査方法が違う、という一点だった。雇用統計(非農業部門雇用者数)は企業向けにアンケートを取っている。失業率は家計向けに取っている。調査対象が違うのだから数字にばらつきが出る。そしてこのとき市場は、雇用統計よりも失業率を優先した。だからNVIDIAの決算が極めて良かったにもかかわらず、株は一日だけ上げてその後下落した。データそのものではなく、データの取り方のプロセスがものすごく大事である――これが導入部の主張である。
米労働統計局(BLS)は2025年11月20日、政府閉鎖の影響で当初予定(10月3日)から48日遅れて9月分の雇用統計を発表した。非農業部門雇用者数は前月比+11.9万人で、市場予想の+5.3万人を大幅に上回った。一方、失業率は4.4%と前月から0.1ポイント上昇し、市場予想も上回った。これは約4年ぶりの高水準である。過去2か月分は合計▲3.3万人の下方修正を受けている。
講師が指摘した「調査方法の違い」も事実として正確である。非農業部門雇用者数は事業所調査(Establishment Survey / CES)で企業・政府機関の給与支払記録から集計され、失業率は家計調査(Household Survey / CPS)で世帯へのインタビューから算出される。標本も定義も異なるため、両者は乖離しうる。とくに家計調査は労働参加率の変化を拾うため、「職探しを再開した人が増えた」場合にも失業率が上がる。この回の統計は、参加者の増加と失業者の増加が同時に起きた形として解説されている。
NVIDIAは2025年11月19日にFY2026第3四半期決算を発表した。売上高は約570億ドル(前年同期比+62%)、データセンター部門は前年比+66%で過去最大、売上・EPS・粗利率・第4四半期ガイダンスのすべてが市場予想を上回った。講義中に語られた「業績はむちゃくちゃ良かった」という評価は正しい。
株価は翌20日の取引で一時最大5%上昇した後、反転して約3%下落して引けた。講義で語られた「1日だけ上げて、その後下落した」という記述と一致する。報道では、決算の強さがAIバリュエーションをめぐる投資家の懸念を払拭できず、この反転が市場全体を押し下げたと説明されている。
講師は同じ日に上がった分野も示していた。小売業である。なぜ小売が上がるのか。経済が悪くなると見越した場合、人はどうするか。「消費税が明日上がる」と言われたら買い込みをする。それと同じで、先行きが悪いと見た人が買い込みに走るから小売が上がる――という読みである。
そこにもう一つ、ウォルマートの経営陣交代というニュースが重なる。ダグ・マクミロンCEOの退任である。講師はこれを懸念材料と見た。「あいつはクソ優秀だから」というのが理由だった。
ウォルマートは2025年11月14日、ダグ・マクミロンCEO(59)が2026年1月31日付で退任し、2026年2月1日付でジョン・ファーナー(51)が社長兼CEOに就任すると発表した。講義中の「1月31日にやめる」という発言は正確である。マクミロンはCEOを約12年務め、退任後も6月まで取締役に留まり、FY2027を通じてファーナーの助言役を務める。ファーナーは30年以上ウォルマートに在籍し、3つの事業セグメントすべてでリーダー職を経験している。
参加者が触れた「ナスダックに移ること」も事実で、ウォルマートは2025年12月にニューヨーク証券取引所からナスダックへ上場市場を変更している。ファーナーのCEO就任時点では、同社は「NASDAQ: WMT」として取引されている。
ここから講義の本体に入る。金融商品というものがあるとして、その中心にあるものは何か。答えは10年国債である。ほとんどリスクがないと言われるから、リスクフリーレートと呼ばれる。
講師はこれを太陽系に喩えた。10年物の国債利回りが太陽であり、金融においては中心的存在である。太陽なので重力のようなものを持ち、全体に影響を与える。そして惑星は自転している。太陽の動きに応じて、それぞれの価値や需要が変化する。
その前提として、インフレとは何かが確認される。インフレとは、現金とモノの価値の相対的変化である。現金の価値が上がればモノの価値は下がり、モノの価値が下がれば現金の価値は上がる。株価も同じで、現金と株の価値の相対的変化である。原油価格も、現金と原油の価値の相対的変化である。何かが上がると同時に、何かが下がる。大抵の金融商品は、現金との比較で価値が生まれる。
そして講師は「バイアス丸1」として一文を提示した。10年物の国債利回りは、世界中の金融商品や借入コストの基準値になっている。ここを押さえていないと、その先の議論はすべて浮いてしまう。
講義は参加者に一問一答で答えさせながら進んだ。金利が上がると、株や原油はどうなるか。これらはリスク資産だから、魅力が減少する。利回りが大きくて硬い運用先があるなら、そちらで運用したくなる。逆に金利が下がると、リターンが少なくなるからリスク資産に資金が向かう。
| 局面 | 連鎖 | 日本の実例 |
|---|---|---|
| 金利が上がる | 借入コスト上昇 → 企業は借りにくい → 投資しにくい → 成長が鈍る → 給料が上がりにくい | この状態の日本で金利を上げると、さらに成長しにくくなることが予想できる → 国の魅力が下がる |
| 金利が下がる | 借入コスト低下 → 企業は借りやすい → 投資しやすい → 成長 → 給料 | アベノミクス期のゼロ金利・マイナス金利。借りやすかったが投資はされなかった。現金が内部留保として積み上がり、経済は停滞し、給料は上がらなかった |
マイナス金利で企業は借りやすくなった。だが投資はしなかった。その結果として現金が溜まり、内部留保になった。経済は成長せず、給料も上がらなかった。「こういうものを実際に実例として作ってしまったわけです」というのが講師の総括である。
そしてこの状態から金利を上げるとどうなるか。さらに成長しにくくなる。それが予想できるということは、国としての魅力は下がる。金利を上げれば通貨が買われる、という単純な図式が成り立たない理由が、ここに一つある。
日本の金利が低く、米国の金利がインフレ対策で高くなった。何が起きたか。ドル高・円安である。日本に金利を預けていても儲からない。ならばアメリカの国債を買えばその分儲かる。しかも日本ではお金を安く借りられる。日本で借りてアメリカの国債に投資すれば、差額が取れる。これがキャリートレードである。1億円を1%で借りれば年100万円返せばよい。アメリカで5%出るなら500万円。差の400万円が儲かる。円からドルへ資金が流れやすくなる。これが円安の原因である。
では、日本の金利が上がり、アメリカが利下げしたらどうなるか。金利差は縮小する。相対的に円が魅力的に見える。だから円高になると予想できる――ここまでが教科書的な読みである。講師はこれを「名目金利だけ見ている場合」と名指しし、「大抵のバカな経済学者とアナリストの見解」と切り捨てた。
講師が繰り返し「これがすごく重要」と述べたのが、金利差縮小の要因が何なのかという問いである。同じ「金利が上がった」でも、上がった理由によって通貨への含意は正反対になる。
国債が買われず、売られた。売られれば利回りは上がる。つまりこれは、金利が上がっているのと同時に、その国の通貨が売られている状態である。
金利差だけを見れば縮小に見えるが、その中身は「その国の信用が疑われている」というシグナルである。通貨を買う動機にはならない。
市場でインフレが期待されると、中央銀行はそれを抑えるために利上げする、と市場は読む。その期待に乗って国債を買う人が出て、金利が上がる。
だがこれは実質金利が改善しているわけではない。経済が成長しているわけでもない。結果として円安圧力がかかりやすくなる。
講師はこれを一つの表現にまとめた。名目利回りが上がっても、上がった分が実質利回り(ディスインフレ・プレミアム)ではなくインフレ分であった場合、その通貨を買う動機は弱い。金利の数字が上がったことと、その通貨を持ちたくなることは別の話である。
講義中に頻出した「実質金利」は、おおまかには名目金利からインフレ率(または期待インフレ率)を差し引いたものを指す(フィッシャー方程式)。名目金利が2%でも期待インフレが3%なら実質金利は−1%となり、その通貨で運用しても購買力は目減りする。
したがって、名目の日米金利差が縮小しても、実質金利差が縮小していなければ資金は戻らない。講師が「金利差が縮まるから円高、という表現をしているような連中がメディアにたくさんいる」と述べた批判は、この名目と実質の区別に立っている。
なお講義中の音声では「ディスインフレ分が上がった場合」という表現も出ているが、文脈上は「名目金利の上昇がインフレ分なのか実質金利の改善なのかを区別せよ」という主旨として整理した。
ここで講師は日銀の植田総裁の発言を持ち出した。中立金利レンジという言い方である。下限と上限が設定されていて、下限が1%、上限が2.5%。
下限とは何か。経済を刺激しない最低限の金利水準である。上限とは、インフレを抑えつつ経済を抑えすぎない最大の金利のことを指す。日本はこれまで下限の0.1%程度のところで保ってきた。ということは、日銀が利上げして1%に差しかかるところまで来ると、何かしらの問題がない限り、それ以上は金利を上げないということになる。
そこに政治の要素が重なる。日本の意思決定は早いか遅いか。遅い。したがって、何かしら大きな問題がない限り利上げはしない。加えて高市政権の政策は財政支出である。財政支出をする以上、金利は上げづらい。
一方、米国経済はいま成長するのか、後退懸念のほうが大きいのか。講師の判断は後退懸念のほうである。ということは金利はどうなるか。参加者は「下がる」と答えたが、講師は「上がるんです。売られるので」と訂正した。景気後退懸念が強ければ国債は売られ、金利は上昇する。FRBが利下げしても、懸念が強ければ国債は売られる。
「中立金利は1%〜2.5%程度の範囲に分布する」という説明は、日本銀行が2024年8月に公表したワーキングペーパーの推計に基づく。2%の物価目標を前提に、複数手法による自然利子率の推計から名目中立金利のレンジを示したものである。植田総裁もこのレンジを前提に説明しており、講義中の数字は正確である。
ただし、この推計は2023年時点までのデータに基づいており、レンジ自体が広い。植田総裁は2025年12月の記者会見で、中立金利は「現時点ではかなり幅を持ってしか推計できない概念だが、今後ある程度絞り込めれば適宜公表する」と述べており、レンジの見直し自体があり得る位置づけであることも押さえておきたい。
では、この円安をどう解決するのか。講師が次に置いたのが介入の話である。介入には二種類ある。
| 単独介入 | 協調介入 | |
|---|---|---|
| 実施主体 | 日本のみの意思決定 | 日本以外にも協力体制を仰ぐ(米国・欧州・英国など) |
| 効果の持続 | 数時間〜1、2週間 | 数週間〜数か月 |
| 1国あたりのインパクト | 基準 | 2〜4倍。1円動かすのに必要な額が4分の1程度で済む |
| 性格 | 「自分がやりたいだけ」。トレンド=方向性を作ろうとする | みんなが協力してくれる状態。より円高に持っていける |
| 成立条件 | 自国の予算があれば可能 | 他国に余裕と動機が必要 |
どちらのほうが円高に持っていけるか。断トツで協調介入である。だが協調介入には賛同者が必要になる。現状の世界経済に、その余裕はあるか。参加者も講師も「ない」と答えた。ということは協調介入はないだろう。残るのは単独介入である。そして単独介入はトレンドを作ろうとする性質を持つ。方向性を作り上げるものであって、水準を固定するものではない。
加えて、日本はこれから相当な予算が必要になる。単独介入する余裕がそこまであるわけではない。この状況を見たときに、果たして円高になると思うか。なかなか厳しいのではないか――これが講師の結論であり、高市政権が成立した瞬間に円安になると予想した根拠でもあった。
講師は「2022年9月に単独介入を行ったとき、日本が9兆円使った。151円から146円になったが、3週間で150円に戻った」と述べた。公開データと突き合わせると、この記述は複数の出来事が混ざっている。
(1)2022年9月22日の介入額は2兆8382億円で、1991年4月の公表開始以来、単日として過去最大だった(24年ぶりの円買い介入)。このときのドル円は約145.90円から一時140円近辺まで、約5円の円高となった。
(2)151円台という水準が登場するのは10月21日である。この日ドル円は一時151円90銭前後と32年ぶりの安値を更新し、介入後に一時144円台まで進んだ。10月21日の介入額は約5兆6200億円、21日と24日の合計で6兆3499億円。
(3)「9兆円」に相当するのは9月〜10月の合計額(約9.1兆円)であり、9月単月の数字ではない。
つまり金額(9兆円)と水準(151円)は別々の月のものである。ただし「効果が数週間で剥落した」という論旨自体は正しい。9月22日の介入後、円は約5円急伸したが、1週間ほどで介入水準の145円近辺に戻っている。数字の帰属を確認したうえで、単独介入の持続力に関する主張は維持できる。
講師が「大きい歴史的なデータで言うとプラザ(合意)だったと思う。あれは協調介入です」と述べた点は正しい。プラザ合意は1985年9月22日、ニューヨークのプラザホテルでG5(米・日・西独・英・仏)の財務相・中央銀行総裁が合意したドル高是正の協調行動である。合意後、ドル円は約240円台から1年余りで150円台へと急速に円高が進んだ。単独介入とは持続力の桁が違う事例として、講師の位置づけは妥当である。
円安の流れは分かったが、160円あたりで止まっているのはなぜか、という質問が出た。講師の答えは一言だった。「あれは心理戦です。」
説明はこうだ。為替は1日で1%も普通は動かない。そして142円00、145円00、150円00といった、下2桁が00で終わる水準には予約注文が集中している。そこに到達した瞬間に、上がってきたなら売りに入る、下がってきたなら買いに入る、という注文が並んでいる。株式でもよくやることだ。これによって一度下落したりする。
そこで次に見るのがポジションの保有率と解消率である。解消が進めば進むほど、その抵抗ラインは弱くなる。逆に流入が強くなればなるほど、一時的に落ちる可能性がある。ただし、160円が抵抗になってそれ以上は進まない、と確定することは絶対にできない。
理由は損切りにある。ポジションを持っていると、少しでも水準を超えたときに損切りがかかる。損切りがかかるということは、買い直しているのと同じことである。そうなると話が変わってくる。売りポジションで入っていた人が解消されていった場合、一気にそこへ波が来て急上昇する。それが今回の円の流れで起きるかもしれない、というのが講師の見立てだった。加えて、介入があるかどうかも重要になる。ただし今の日本円の介入は、そのほとんどが含み損の状態になっているという指摘も添えられている。
講師はここで「僕らは株式でもプットオプション、コールオプションのデータを全部見る」と述べた。それによって大体どうなるかが分かってくる。価格の壁は、そこに置かれた注文の分布として存在しているという見方である。ファンダメンタルズの議論とは別のレイヤーで、ポジションの偏りとその解消が短期の値動きを決める。
講義中、講師が「1ドルいくらですか、今」と問い、参加者が「160円」と答え、講師も「160円まで行ってるわけじゃないですか」と受けている。公開データと突き合わせると、この水準は実勢と異なる。
2025年11月19日にニューヨーク市場で一時157円台をつけ、これが約10か月ぶりの円安ドル高水準となった。この日の円安は、FOMC議事要旨を受けて12月利下げ期待が後退したことが要因とされている。そして勉強会当日(11月21日)のドル円は157円台半ばで推移していた。「160円」は口頭でのやり取りの中で出た概算であり、実勢より2〜3円ほど円安側にずれている。
ただし、講師の議論の主旨は「160円という節目に予約注文が集中し、そこが心理的な抵抗になる」という構造の説明であり、次に意識される節目としての160円という位置づけであれば妥当である。数値の帰属だけを補正しておく。
この講義から9か月が経過した。講師が2025年11月21日時点で立てた読み筋は、その後どうなったか。ここは講義の内容ではなくClaudeによる事後の照合である。
講師は「FRBの利下げはおそらく1月予定になる」「日銀は1月に利上げ」と述べていた。実際にはどちらも2025年12月に実施された。
FRBは2025年12月9〜10日のFOMCでFF金利誘導目標を0.25%引き下げ、3会合連続の利下げとなった。投票は12名中9名が賛成、ミラン理事が0.50%利下げを主張して反対、シュミッド(カンザスシティ連銀)・グールズビー(シカゴ連銀)両総裁が据え置きを主張して反対した。パウエル議長は9月に始めた保険的利下げの終了を示唆している。
日銀は2025年12月19日の金融政策決定会合で無担保コール翌日物レートの誘導目標を0.25%引き上げ、0.75%程度とした。1995年以来、約30年ぶりの水準である。したがって「1月」という時期は外れたが、「日銀が利上げし、FRBが利下げする」という方向自体は当たっている。
2025年12月に日銀が利上げし、FRBが利下げした。名目の日米金利差は縮小した。教科書的には円高になるはずだった。だが実際には円安が進行した。2026年7月末時点でドル円は163円台となり、約40年ぶりの円安水準に達している。
講師が2025年11月21日に述べた「日銀が利上げしてアメリカが利下げしても、差は一時的に縮まるだけで長期的にはまた広がる可能性がある。だからドルを持っておいたほうがいいという判断になり、結果として円安になる」という論理は、9か月後の実勢によって裏づけられた形になった。この回の最大の当たりである。
日銀は2026年1月23日の会合では政策金利を0.75%程度で据え置き(反対は高田委員1名のみ)、その後2026年6月の会合で0.75%程度から1.0%程度へ0.25%引き上げた(賛成7・反対1)。そして2026年7月30〜31日の会合では据え置きとしている。
講師が述べた「日本は中立金利レンジの下限1%のところでおそらく落ち着く可能性がある。高市政権の財政支出も考えると、これ以上金利を上げないかもしれない」という見立ては、2026年8月時点の実勢と一致している。政策金利はちょうど下限の1.0%に到達し、そこで一度足踏みしている。
講師は「協調介入イコール賛同者が必要。現状の経済で世界中に余裕はない。ということは協調介入はないだろう」と述べ、単独介入しかできないという前提で議論を組み立てていた。この見立ては外れた。
片山財務相は2026年8月3日、「米東部時間7月31日、米国財務省と協調して円買い介入を実施した」との談話を発表した。日米による円買いの協調介入は1998年以来およそ28年ぶり(日米協調介入としては東日本大震災時の2011年以来15年ぶり)である。ベッセント米財務長官もX上で協調介入の実施を認め、「円の著しい過小評価を是正するための日本による断固たる措置を強く支持する」と表明した。片山財務相は「さらなる協調介入を実施することも躊躇しない」とも述べている。
日本当局は8月4日までに3営業日連続で介入したとみられ、ドル円は163.90円台から155.20円台へと約9円の円高・ドル売りに振れた。なおIMFの「自由変動相場制」ガイドライン上、3営業日の介入は1回とカウントされるため、4営業日目に踏み切ると変動相場制の分類に影響しうるとして市場が注視した、という事情も報じられている。
なぜ外れたのかは考える価値がある。講師の前提は「他国に協力する余裕がない」だったが、実際には米国側に円安是正への独自の動機があった。ベッセント財務長官の「円の著しい過小評価」という表現は、通商上の問題意識を含んでいる。協調介入の可否を「相手国の経済的余裕」だけで判断すると、この種の政治的動機を取りこぼす。
28年ぶりの協調介入によって、ドル円は163.90円台から155.20円台まで約9円動いた。ところが2026年8月12日時点で159円台に戻している。講師が示した「協調介入は数週間〜数か月」というレンジのうち、水準の戻りは2週間以内に始まっている。
つまり、協調介入の有無という予測は外れたが、「介入はトレンドを作ろうとするだけで、水準は維持できない」という構造の理解は正しかった。予測が外れても枠組みは生き残る、という典型例として読める。
当たったのは、金利差の縮小が円高を意味しないという中核の論理、そして日銀は中立金利の下限で止まるという読みである。外れたのは、利上げ・利下げの時期(1月ではなく12月)と、協調介入は起きないという判断である。
注目すべきは、外れた2点がいずれも「タイミング」と「政治判断」に関わるもので、当たった2点がいずれも「構造」に関わるものだという非対称である。この回で講師が繰り返し述べた「これがリサーチの入り口。ここから政治的要素、地政学的要素、政策要素を変数・係数としてぶち込んでいく」という言い方は、まさにこの非対称を前提にしている。構造は読めるが、政治は変数として別途入れないと読めない。
講義の締めくくりで、講師は話を事業に引き戻した。金利の話は、実際に自分の会社が借入をするときに直結する。固定金利ならいいが、変動金利の場合は、ここまで見たうえでお金の借入れの仕組みを考えなければならない。
そして問いを一つ置いた。これを会計士や税理士がやってくれると思うか。やってくれないなら、自分でやるか、それができる人を雇うか。どちらかしかない。その上で借入の仕組みを作らなければならない。「お金を借りるってところまでちゃんと見て、実際にどういう風に資金を調達するのかを考えなければいけない」というのが結論だった。
この文脈で、ソフトバンクの資金調達も引き合いに出されている。講師は以前、なぜソフトバンクの劣後債が良かったのかを説明した、と述べた。自己資本比率を落とさない、資産に最も近い状態を保ったまま、次の資金調達につなげるために、あえて劣後債を発行する。これができるのは経営者が頭がいいからだ、という評価である。
そしてここから、「いまお金の借り方で最も問題になっているのはどこか」という問いが投げられ、話はオラクルへと移っていく。その部分は本レポートの範囲外だが、金利の講義と債務の話が地続きであることだけは押さえておきたい。
参加者の回答は「金利が下がるから日本は弱い」というもので、それに対して「日本は金利を上げますけど」と講師が返し、参加者は「(日本は)政策金利を1月に上げますよね」と応じた。
これを受けて講師が提示したのが「マイキー予想は円安の可能性が高い」という結論である。高市政権の成立時点で円安に向かうと述べたところ、反発意見がかなりあったという。その上で「実際、今どうなっていますか」と現在値を確認する流れになった。
株も原油もリスク資産なので、金利が上がれば魅力が減少する。利回りが大きくて硬い運用先があるなら、そちらで運用したくなる。逆に金利が下がるとリターンが少なくなるので、リスク資産へ資金が向かい、リスク資産の魅力が増加する。
続けて、金利上昇 → 借入コスト上昇 → 企業は借りにくい → 投資しにくい → 成長が鈍る → 給料が上がりにくい、という連鎖が参加者との一問一答で確認された。
講師の答えは「あれは心理戦です」。為替は1日で1%も普通は動かない。142円00、145円00、150円00といった00がつく水準に予約注文が集中しており、そこに到達した瞬間に売り・買いが入る。株式でも同じことをする。これによって一度下落したりする。
そこで見るのがポジションの保有率と解消率である。解消段階が増えれば増えるほど抵抗ラインは弱くなる。逆に流入が強くなればなるほど、一時的に落ちる可能性がある。
「いや、確定はできないです。絶対的にできないです。」理由は損切りである。ポジションを持った状態で少しでも超えた場合、損切りがかかる。損切りがかかるということは買い直しているのと同じで、そうなると話が変わってくる。
とくに怖いのは、売りポジションで入った人の解消が進んだ場合で、一気にそこへ波が来て急上昇する。それが今回の円の流れで起きるかもしれない。加えて介入があるかどうかも重要になる。ただし今の日本円の介入は、そのほとんどが含み損の状態になっている、という指摘も添えられた。
調査方法が違う。雇用統計は企業向けにアンケートを取り、失業率は家計向けに取っている。だから数字にばらつきがある。今回、市場は雇用統計よりも失業率を優先した。だからNVIDIAの決算が非常に良かったにもかかわらず、株は1日だけ上げてその後下落した。
講師の教訓:データのプロセスの取り方がものすごく大事。これによって結論が変わってくる。